新水社から引き継いだフェミニズム
はじめまして、エトセトラブックスです。
2018年12月にスタートした、フェミニズムにまつわる本をお届けする出版社です。と、文字数があるときはそのように、限られている場合は「フェミニズム専門」と自社紹介しています。
最初の刊行物は、2019年5月に出したフェミニズムマガジン、田房永子責任編集『エトセトラ VOL.1』(特集:コンビニからエロ本がなくなる日)。
その後、痴漢問題をジェンダー、社会学の視点から考察した牧野雅子『痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学』
や、カルメン・マリア・マチャド『彼女の体とその他の断片』(小澤英実・小澤身和子・岸本佐知子・松田青子訳)
という短編集など、1年半で本と雑誌あわせて計7冊を刊行しました。
「フェミニズム」とひと言でいっても表現としては様々だと示したくて、書店での置き場が少しずつ違う本を出したつもりです。
book | エトセトラブックス / フェミニズムにかかわる様々な本を届ける出版社
出すよりも出し続けることの方がどれだけ大変か、在庫ダンボールで溢れかえる事務所で痛感する毎日ですが、8月には、フェミニズムの名著2冊を復刊します。復刊も、版元を立ち上げた当初からやりたいと思っていた事のひとつで、このなかの一冊、ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの』(掘田碧訳)
は、2003年に新水社から刊行され、ロングセラーになっていたタイトルです。
#MeToo以降のフェミニズム・ムーブメントという文脈で、弊社もありがたいことにスタート当初からメディアに取り上げられる機会がありました。
その取材で「日本ではじめてのフェミニズム出版社ですよね?」と質問される度に、「フェミニズムと謳わずフェミニズムの本を出してきた方たちはたくさんいるし、ジェンダー専門の本を出してきた新水社という大先輩もいます」と答えてきました。説明不要と思いますが、新水社は、2018年に急逝された故村上克江さんが営んでこられた出版社です。
実は、私は、村上さんにお目にかかったことがありません。
2019年はじめ、弊社スタートに合わせ、本屋B&Bの寺島さやかさんが同店内にフェミニズムの特設棚をつくってくれることになり、寺島さんと「これは絶対この棚に入れないとだね!」と話したのが、『フェミニズムはみんなのもの』でした。
それまではいち読者として、出版社をはじめてからは敬愛する大先輩として村上さんにいつかお目にかかれたらな、とかなり浮かれて電話した私は、対応くださった方からその本は品切れ重版未定で今後もおそらく出せないこと、そして、実は……と、村上さんの訃報を伺ったのでした。
新水社に伺って『フェミニズムはみんなのもの』を弊社で復刊させてほしいとお願いしたのは、それから数ヶ月後のある猛暑の日。新水社で本を出されていた北原みのりさんもご一緒でした。電話と同じく対応してくださったのは、校正者として新水社を共に支えてこられた村上さんのお連れ合いでした。
そのときにコピーをいただいた、2004年12月1日付朝日新聞「負け犬に負けぬ/女性問題専門15年で100冊に」という村上さんを取り上げた記事には、
“演劇関係の本を出していた『新水社』を女性問題専門の出版社に衣替えして15年。以来、100冊目になる北原みのりさんの最新刊『ブスの開き直り』をこのほど刊行した。(…)社長の村上克枝さん(61)は「タイトルの文字数は『負け犬の遠吠え』と同じにした。こちらは、もっと政治にこだわりのある読者を呼びこみたい」”
とあります。
同じ文字数。タイトル付けの理由が素敵すぎます。
15年で100冊。村上さん、弊社もそこまでがんばれるでしょうか。
『フェミニズムはみんなのもの』復刊を快諾くださった翻訳者の掘田碧さんは、原書は20年前、邦訳は17年前に出されたこの本は、「〈第二波フェミニズム〉から新しいフェミニストへのバトンではないか」と新版解説に書いてくださいました。
もはやフェミニズムは不要ではないかとされる現状に危機感を抱き、フェミニズムの再生を信じて書かれたこの本から、今の私たちが学ぶことはほんとうに多いと思います。
復刊への思いはこちらで叫びました。
フェミニズムの名著2冊を復刊します!|etc.books|note
https://note.com/etcbooks/n/n1fb07c05567f
勝手に追いかけている者の勝手な思いですが、新水社が出したこの本を弊社で復刊でき、村上さんの思いを読者に繋ぐことだけは出来たかもしれません。
村上さんに色々お話を伺いたかったです。