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つづけるということ

キョンキョンがテレビのなかでインタビューに答えていた。
「60歳まで走り続けてきた」と。
だから還暦をきっかけに、ちょっと休業するらしい。

ふむふむ。
ふりかえって、じぶんのこと。
ぼくはキョンキョンのように、60歳まで走りつづけてきたわけじゃない。
ぼんやりと、のらのらと、よりみちしたり休んだり、ぼけっとしながら歩いてきた。
そして気がつけば4年前の春の日、還暦をむかえたぼくは、海をみながらふと思った。
じぶんで出版社をつくってみようかな……と。

だいたい、新しく「起業」したり「独立」したりするひとたちは、それなりの計画や、思わず「うぉー」と叫び出したくなる目標とか、「こころざし」をもっていたり、りっぱな経験や経歴を積み重ねてから、起業したりするのかもしれない。
でも、ぼくがもっていたのは「やってみようかな」という、ちいさな気持ちと、ちいさなちいさな出版社で働いてきた経験だけだった。
それでも、えいやっ! と登記をすませて事務所を借りて、名刺をつくって、3冊の本を出版することができた。
よしよし……。

こう書いてみると、あまり苦労もしないで、片手間にちょこちょこっと本を出版しているみたいだけど、それなりのことが4年近くの間にはあった。
2冊目の本をつくろうとしているときだった。
急に頭の中が病気になって、入院・手術をすることになった。ちょっとめんどうな脳みその病気で、まあ命を危うく落とすところだった。
そのとき、病院のベッドで横になりながら、なぜか「つづけよう」ということばが浮かんできた。
そう、「やってみようかな」とはじめた出版社を、「つづけよう」とあらためて思ったということだ。

もちろん最初のころから、できるだけつづけようと思っていたけれど、命を半分落としてからは、とにかくなにがあっても「つづけていこう」と、こどものわがままのように、思うようになった。
ただ、そのときは、手術直後。後遺症で頭の中がだいぶ壊れており、文字も書けず、本も読めず、自分だけでは歩けず、ことばも以前のように上手にでてこなかったりした。
これでは原稿整理も、打ち合わせも難しい……。
それでも、おかしな話、なぜか出版社を「つづけていこう」と、リハビリしながら、いつもいつも考えていた。

病気がいつ再発してしまうのか、あるいは、自分の寿命はいつまでなのか……そんなことを考えてみれば、もう会社はたたんで、療養生活というか老後生活、隠居するのがいいのかもしれない、なんて忠告してくれる人もいた。
でも、あまのじゃくのように、ぼくの「つづけていきたい」という気持ちは、どんどん大きくなり、気がつけば2026年の春をむかえようとしている。

出版する本が、思うように売れないときだってあるのだろう。
そして出版するたびに、毎回毎回「売れない」となげくこともあるかもしれない。
勝ち負けや損得で世の中のことを考えるのは、どうも好きじゃないけれど、勝ち負けでいえば、ずっと負けつづけることもあるだろう。
それでも、やっぱりつづけられるだけ、つづけていきたい。
それはやっぱり、出版という世界が好きだからなのかもしれない。

4年目になる今年度は、3冊の本の出版を予定している。
そして、そのうちの一冊目は、青い梅の実が収穫されるころには、できあがる予定だ。
こうして、いろいろあったとしても、つづけて出版することができるのは、とてもうれしい。
だから、これからもずっと、できるかぎりつづけていきたいな……と思ったりもしている。
そう、つづけることのできる、しあわせを感じながら。

でも、惰性で本を出しつづけるということは、したくない。
そんなことも、ちょっと思っていたりもする。

ナイデルの本の一覧

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