地元を「つくるまち」にする
2025年3月21日、『地元人』(創刊号:兵庫加東)というローカル・マガジンを創刊しました。
地元の人たちとチームを組み、地元の本をつくり上げる出版プロジェクトです。小学校の元教諭、文化施設のスタッフ、市役所や市内大学附属図書館の職員、ご結婚を機に加東市に移住された女性アーティスト、住職、地元の高校生たちなど多様な人たちが関わり、「人」を軸に地域を見つめるフィールドワークをおこないながら1年半をかけて一冊の本に仕上げました。
いま振り返れば、「地元でつくる」を地でいく出版プロジェクトだったと思います。
この『地元人』は発起人の私が10年の構想を経て実現させた一冊でもあります。だから売り急ごうとは思っていなくて、それこそ10年をかけてじっくり売っていこうと決めています。でも、それだけでは経営は立ち行きません。資金的な不安を常に抱えながら、出版社を続けていこうとする気持ちを奮い立たせるのはかんたんではない、というかすでに挫折しかかっています。
そんな中でも、「少しでも面白いことをしたい」という気持ちだけは消えないのです。
私がいま、密かに楽しんでいるのが、『地元人』の本を生活のあちこちにそっと置いて、写真を撮り、ひと言添えてInstagramにアップしていく試みです。
最初は、特徴的な表紙を多くの人に見てもらい、「この本、どこかで見たことあるな」と思ってもらえたらいいな、という軽い気持ちからでした。でも、ある日ふと思ったんです。
――これ、写真集にしたらどうだろう?
そうだ。小さなZINEとして、この写真を一冊にまとめよう。『地元人』のスピンオフ企画として、「リトルZINE」としてつくるのです。ISBNは付けない。基本的には自社限定販売にして、面白がってくださる書店さんには直取引で置いていただく。特別感を出しつつ、自社サイトに人を呼び込む導線にもなる。何より自分が楽しい。そう思いました。
そんなことを考えていたある日、おかやま文学フェスティバルに出店した際に一箱古本市の生みの親でもある南陀楼綾繁さんから勧められた『本の教室はじめます~「いしのまき本の教室」の記録~』を半身浴をしながら何気なく読んでいたんです。すると、本屋・生活綴方の中岡祐介さんのトークイベントの記事が目にとまりました。
「面白いまちは、何かをつくっているまち。」
この言葉に、点と点がつながりました。
そうだ。地元を「つくるまち」にしよう。
ここからは私の妄想です。
地元の加東市の小学校が統廃合されていく中で、私の母校もついに今年、廃校となってしまいました。その校舎から、リソグラフの印刷機を譲り受け、自宅兼事務所の一角に設置します。そして「リトルZINEスタジオ」を立ち上げるのです。
いずれは、スタジオとしての拠点を持ち、さらに活動の幅を広げたい。
最初の取り組みは、地元の子どもたちと一緒にZINEをつくる授業です。『地元人』をつくったときのように、自分たちの足で地域を歩き、それぞれに「面白い」と思った人や場所、出来事を記事にして、写真を撮って、ZINEにまとめていく。そういう授業をキャリア教育として提案したいのです。
並行して、『地元人』に登場してくれた人たちや、「じつは私も書いてみたかった」と声を上げてくれた人たちとZINEをつくっていく。それらを地元製の「リトルZINE」として販売していく。
地元の人だけでなく、他地域の人にもリソグラフを貸し出します。加東市を、ほんとうに「つくるまち」にするのです。
じつは、ここに至るまでには、もうひとつの原体験がありました。
いまから20年以上前の20代前半の頃、私はアジアを旅しながら写真を撮るバックパッカーでした。将来は田舎の自宅で暮らしながら、自分の好きな仕事で生きていきたい――そんなライフワークビジョンを抱いてライターを志しました。
旅先で撮った写真にエッセイを添えた写真集をつくり、広告会社の社長に送りつけたことがあります。すると、「文章はへたくそやけど感性がいい」と言ってもらい、雇ってもらえたんです。それが、私がライターになったきっかけでした。
いま思えば、あのとき自分でつくったアジア放浪写真集=ZINEこそが、私の人生を切り開いたのだと思います。出版社を立ち上げた現在地も、その小さな点の延長線上にあります。
先日、その20年前につくったZINEを久しぶりに開いてみました。
「……なかなか、いいやん」
そう思えたことが、なんだか嬉しかった。
いま、私はZINEをつくる取り組みをもう一度、復活させようとしています。そして地元と掛け合わせようとしている。1000部~4000部の本をつくってきた私にとっては後退のように思えますが、新しい試みとしては新規事業です。
スタブロブックスを立ち上げて、2025年4月21日で丸5年。もう後がない、そう思っていた私に、またひとつ、軽やかな楽しみが生まれました。