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出版者情報
大学における英語教育とメディアリテラシー
メディアテクストによる市民的教養の可能性
- 初版年月日
- 2017年7月
- 書店発売日
- 2018年7月2日
- 登録日
- 2018年6月4日
- 最終更新日
- 2018年7月1日
紹介
英語教育にメディア英語をどのようにとりいれるかー常に議論されている古くて新しいテーマに、メディア研究、文学、応用言語学、英語教育学から多角的に分析している。
大学で求められる英語教育を「市民性の獲得=社会の公共的課題に対して立場や背景の異なる他者と連携しつつ取り組む姿勢と行動」と定義し、メディアに触れるときに、常に「これは本当なのか?」と読み手の意図を見抜こうとする姿勢を養うことを目的としている。
それを可能にするのは英文テクストのcritical reading(批判的読解)。「すべての情報は特定の基準に基づいて選択され、編集され、加工されている」というメディアの特性を理解し、一人の市民として主体的に向き合うことがメディアリテラシーを高める」と主張し、英文テキストでメディアリテラシーを高める意味やその効用、実践での方法論を詳述した。
今までの議論にはない新しい英語教育論。英語教育に携わる人、英語上級者向け。
目次
はじめに
第1章 大学の英語教育とメディアリテラシー
1-1 大学の英語教育の目的
1-2 これからの日本の英語教育に必要な市民性
1-3 情報化社会に必要な「これは本当なのか」の姿勢
1-4 メディアリテラシー教育の(歴史的)背景
1-5 日本の英語教育とメディアリテラシーの接点
第2章 リーディング教材としての文学テクストとメディアテクスト
2-1 文学からメディアへ
(1)リーディング教材
(2)リーティング教授法
(3)担当教員の専門分野の多様性
2-2 クリティカルな読み方ー「何を読む」から「どのように読む」へー
(1)文学と非文学
(2)生産と消費
(3)現実世界と学術世界
2-3 文学テクストとメディアテクスト
(1)文体論と批判的ディスコース分析(CDA)
(2)ナラティブ構造から見た小説とニュース記事
2-4 学習教材のためのメディアテクスト
第3章 メディアテクストを使った英語リーディングの授業
3-1 英語リーディングの情報処理モデル
3-2 背景知識とスキーマ活性化
3-3 読解ストラテジー
3-4 リーディング学習教材としての英字新聞
3-5 ニュース記事の特性
(1)見出しとリード
(2)事実(facts)と意見(opinions)
(3)社説を読む
第4章 メディア英語教育における市民的教養
4-1 市民性向上のためのメディアリテラシーと異文化理解
4-2 企業が求める英語力
4-3 メディア英語教育における市民的教養
おわりに
前書きなど
大学英語教育のあり方が注目されている。これまで卒業生を社会に送り出すたびに、「私は一体彼らに何を教えてきたのか」と自省してきたが、本書を書き上げた今、この問いに「メディアを主体的に読み解く力」と明快に回答する。過去20~30年の英語教育の経緯を振り返りながら、メディア研究、文学、応用言語学など学際的なベクトルで大学の英語教育の方向性を検討して出した回答だ。英語のメディア性を理解し、「これは本当なのか」と多面的に見て主体的に考えて発言する能力を養成する土壌はこれまでの日本の英語教育にはなかった。しかし情報化とグローバル化が進む現代社会を生き抜くためにこの能力は不可欠だ。最近のフェイク(虚偽)ニュースの拡散問題を鑑みても益々重要視されるのは明らかだろう。
本書執筆の原動力は、自身の英語学習歴と教育歴で培ったいわば教員の皮膚感覚に依るところが大きい。それは私自身が英語を外国語として学び、英語を使う仕事に従事し、大学や企業で英語を教え、メディア英語を研究する立場から日本の英語教育の変革のうねりの中で体験した経験値と言える。教養英語と実践英語の狭間で暗中模索してきた私のキャリアは1990年代以降の日本の英語教育の歴史とともにシフトし、はからずも進化してきた。
本書は英語教員を読者と想定して書いたが、リーディング力向上を目指す英語学習者にも対応する内容のはずだ。英語のメディア性と教育を結びつける英語教育論の中で参考になる点があれば筆者として至上の喜びである。
本書出版にあたり、有限会社ソーシャルキャピタル代表取締役の吉田秀次氏に深く感謝する。拙著『英字新聞1分間リーディング』シリーズでは編集者としてお世話になったが、本書では構想や執筆の各局面で助言を頂いた。校務で執筆時間を確保できない時や、能力不足からスランプで筆が進まない時、吉田氏の協力と忍耐力がなければ本書刊行は実現しなかった。また、元時事英語学会会長で、成蹊大学・島根県立大学の浅野雅巳名誉教授に心から感謝申し上げたい。私のメディア英語教育研究の絶対的原点は、大学時代に履修した「時事英語」の講義にある。当時教鞭を執られていたのが浅野先生で、英字紙を使う斬新な授業で文学部の学生の知的好奇心を喚起して下さった。
また、企業研修で英語を教えていた頃から、企業で求められている現場の英語力とは何かを指南して下さった、人材開発コンサルタントの安達健一氏にもお礼を申し上げる。
最後に、執筆中は昼夜逆転で生活のリズムを乱した私に最大限の協力をしてくれた家族に真心込めてこの本を贈りたい。
上記内容は本書刊行時のものです。