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農業をデザインで伝える
食と地域の課題を解決する方法
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年9月1日
- 書店発売日
- 2023年9月15日
- 登録日
- 2023年8月5日
- 最終更新日
- 2023年11月29日
紹介
「CI戦略が農業においても重要視される時代になった」
――中西元男(PAOSグループ代表)
「デザインで生産者と農業がより輝く。未来の日本にとって大事なことである」
――廣瀬俊朗(元ラグビー日本代表キャプテン)
「アフターコロナの社会で、生産者と消費者のつながりはより密接なものになっています。これからのブランドづくりの中心は、消費者が農業生産者など企業の商品やサービスを愛することができるかという以上に、その商品やサービスを提供する企業のビジョンに共感することができるか、という点に重きが置かれることになるでしょう」
――本書より
北海道と関東を拠点に、全国各地の農業、1次産業を活性化することを目標に掲げるデザイン・ブランディング会社ファームステッド。共同代表の長岡淳一と阿部岳の著作第3弾。
新型コロナウイルスの感染流行をはじめ、不安定な世界情勢、気候変動、少子高齢化などさまざまな問題が、近年、農と食と地域に関わる仕事に深刻な影響を及ぼしている。ブランド価値を高める取り組みを通じて、こうした危機をどう乗り越えてきたのか。北海道から沖縄・石垣島まで、10名の生産者や事業者を訪ねてインタビューを実施。現場の声を通じて食と地域の課題に向き合う人びとの挑戦を伝え、解決の道を探る。巻末に、日本における「CI戦略」の先駆者で、PAOSグループ代表の中西元男氏との特別対談も収録。
目次
はじめに
01 オーランドファーム(北海道・大樹町) 大石富一
農と食で人びとの健康を支える地域を知ってもらいたい
社名から「大石」がなくなり従業員の働く意欲が変わった
農業は社会課題を解決する底力になることを伝えたい
02 ELEZO(北海道・豊頃町) 佐々木章太
シンボルマークは心意気を込めた仕事の「誇り」の表れ
「正しさとは何か」「食とは何か」を考えてもらうために
十勝開拓発祥の地で新しい食文化の再創造をおこなう
03 中屋敷ファーム(岩手県・雫石町) 中屋敷敏晃
新しいやり方で農場をつくるのにデザインへの投資が必要だった
ブランディングを通じて生まれる家族とのつながり、人とのつながり
「教育」と「危機に備える力」がこれからの農業には必要
04 クロサワファーム(茨城県・ひたちなか市) 黒澤武史「味はとても良いけれど、パッケージは変えたほうがいい」という意見から
デザインの一新によって見た目から商品を手に取ってもらえるように
品質と生産量と認知度で業界一を目指し、海外にも販路を広げたい
05 ケー・アイ・エス(東京都・文京区) 飯野顕之
積み重ねてきた実績をひも解いて根本からブランドづくりを
会社のことを「自分ごと」のように表現するスタッフが増えてきた
一般家庭向けの商品の開発を進め、オウンドメディアも制作
06 鎌倉紅谷(神奈川県・鎌倉市) 有井宏太郎、有井敦子
2回目のブランドリニューアルで一本筋の通ったデザインを
リスに鎌倉紅谷のパーソナリティを乗せて思いを伝える
「幸せ必需品」としてのお菓子の価値を世の中に届けたい
07 白馬農場(長野県・白馬村) 津滝俊幸、津滝明子
農業を守るという理念を次の世代に渡すためのブランディング
新しい社名によって、地域を越えて関心を惹きつけられるように
地域産の野菜のブランディングからお客さまとの信頼関係づくりへ
08 船方農場(山口県・山口市) 坂本賢一会社の方向性やのびしろを見つけることにデザインの意味がある
農場の思いとクリエイティビティを込めた商品が評価される喜び
ブランドを掲げることでものづくりに向き合い、世界に攻めていける
09 八重山ゲンキ乳業(沖縄県・石垣市) 新研次郎
牛乳のパッケージデザインを20年ぶりに改版し、「地元産」をPR
ブランディングを通じて企業の社会的責任をより深く考えるように
地域経済をいかに持続可能なものにするか追求していきたい
10 村松ホールディングス(北海道・帯広市) 村松一樹
サラリーマン社長ではなく、オーナーとして事業展開をおこなうためのMBO
十勝に根を下ろした企業を表すシンボルを掲げ、地域への貢献を
健康経営など先進的な取り組みに挑戦する原動力は、夏の甲子園での挫折経験
11 特別対談 中西元男(CI&ブランド戦略コンサルタント/ PAOS グループ代表)
経営面で有効に機能する戦略的なデザインを ─ 小岩井乳業の事例から
作家作品的なデザインから「DECOMAS(経営戦略としてのデザイン統合)」へ
コーポレートブランドという企業の資産をつくるためには徹底的に調査する
デザインを通じて将来に向けた投資をする考えが経営者にあるか
あとがき
前書きなど
はじめに
新型コロナウイルス感染症が突然、私たちの目の前に出現してから約3年半。このあいだに社会は大きく変化しました。
政府による緊急事態宣言の発令に伴う通勤の回避や学校の休校、飲食店などの休業やイベントの中止、不要不急の外出の自粛などの要請がなされ、世界規模で私たちの暮らしは大混乱に陥る状況となり、経済的な打撃も被りました。
感染拡大への心配、生活の見通しが立たないことや親しい人と会うことができないストレス、さらにはSNSの普及も一因となって「何が正しい情報かがわからない」不安感が社会に蔓延し、精神的に苦しい時間が続きました。
コロナ禍の問題だけではありません。
ロシアによるウクライナ侵攻、気候変動による異常気象、円安などの為替状況、少子高齢化や人材不足など、いま世界および日本が抱えるさまざまな社会問題がメディアで連日報じられているのは周知の通りです。
いずれも、「農と食と地域」に関わる仕事に深刻な影響を及ぼしています。
たとえばコロナの感染拡大防止のため国境を超えた移動が制限されると、海外からの訪日旅行客がいなくなり、高級ホテルの稼働率が激減するのと連動して、和牛などのブランド食材の需要が縮小しました。
また、世界有数の小麦やトウモロコシの輸出国として知られるウクライナへのロシアによる軍事侵攻は、家畜用の飼料価格の高騰を招いています。
ただし、小さいながらもポジティブな変化が生まれています。
在宅勤務やテレワークが一般化したことにより、消費者の食事の場が「おうちごはん」と呼ばれるように自宅中心にシフトしたことで、外食産業は苦境に立たされる反面、スーパーマーケットや産直市場などは大きく売上を伸ばしました。
農業生産者や食品関連の業界では、少しでも売上の減少を食い止めるために、テイクアウトやインターネット通販という新たなサービスに活路を見出す動きが進みました。観光旅行に出かけられない分、人びとは「巣ごもり需要」というかたちで地域の特産品を取り寄せて家庭で楽しみ、あるいはギフトとして遠く離れた親族や友人に送る機会も増えたかもしれません。
いずれにせよ、生産者として「良いものをつくる」だけでは生き残ることはできない時代になりました。
そして消費行動やトレンドが激変するなか、いま求められているのは「伝える力」だと私たちは考えています。
日本全国の地域には、まだ知られていない、すばらしい「モノ・ヒト・コト」が数多く眠っています。デザインやブランディングという方法を活用して、これらの「モノ・ヒト・コト」をめぐるストーリーを発掘・発信し、「農と食と地域」のブランド価値を高めることが必要です。
さらに近年、「アフターコロナ」と呼ばれる新しい動きも加速しています。
今回のパンデミックは、世界中で食とヘルスケアをめぐる人びとの意識を一新しました。
安心安全な食材で料理をつくること、家族で食卓を囲む時間を大切にすること、免疫力を高める食生活に気を配ること。自分と家族の健康を守るために、食の根本にある農業の価値を見直す機運は今後ますます高まっていくと思います。
コロナ後に生まれたこのような新しい消費志向は、いま私たちのライフスタイルそのものを変えつつあります。自然豊かな地方への移住や、地方─都市の二拠点化の動きもさらに進んでいくでしょう。
アフターコロナの社会で、生産者と消費者のつながりはより密接なものになっています。
これからのブランドづくりの中心は、消費者が農業生産者など企業の商品やサービスを愛することができるかという以上に、その商品やサービスを提供する企業のビジョンに共感することができるか、という点に重きが置かれるようになるでしょう。
旧来の「商品のデザイン・ブランディング」から、「経営資源のデザイン・ブランディング」への変化の方向性を正しくとらえることが、これからの企業存続の鍵になると私たちは予測しています。
本書では、前著『農と食と地域をデザインする』(新泉社)に引き続いて、私たちとブランディングをともに進めてきた農家や畜産・酪農業者、食品関連の事業者、地域活性に取り組む事業者など10名の方々へのインタビューをまとめました。
私たちが聞き手となり、「農と食と地域」を中心にした事業を支えるマインドを、デザインやブランディングを通じてどのようにつくり、どのように伝えているのか、混迷の時代を切り開くための企業戦略についてともに考える内容です。
加えて本書では、欧米発のCI(コーポレート・アイデンティティ)の概念を独自に発展させ、ほかの企業にはない唯一無二の経営理念・方針を統一的なイメージとして発信し、「変革の時代における企業価値の創造」を実現すること、すなわち「CI戦略」を日本に定着させた、中西元男先生との対談も収録しました。
読者のみなさまが、農業をデザインで伝え、食と地域の課題を解決するためのヒントを見つけていただけるとうれしいです。
上記内容は本書刊行時のものです。