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ひらけ!モトム
大学生のぼくが世田谷の一角で介助をしながらきいた、団塊世代の重度身体障害者・上田さんの人生
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2020年9月15日
- 登録日
- 2020年7月20日
- 最終更新日
- 2022年7月7日
紹介
大学生介助者の岩下青年は、週に一度の泊まり介助の日に聴く上田さんの思い出話が楽しみだった。八百屋の配達に電動車椅子で奔走した、親しい介助者の結婚式に上司として出席した、その子どもが生まれ思わず孫だ!と叫んだら、本当に孫になった、ノンステップバスの視察で北欧に行った、テント演劇でフィリピンに行った……!1948年広島生まれ、世田谷で自立生活中の重度脳性麻痺者・上田さんが語り、介助者・岩下青年が立ち止まりつつ考えつつまとめた、他者へ街へとひらいて「障害」と生きる日々のライフヒストリー。
目次
Ⅰ はじめまして
週に一度の日常/はじめまして/自立生活の介助、トラブルとコンフリクトについて/あらためまして
Ⅱ ある障害者の生活史
――潜り始める直前のひと息 語り始め
0 生まれるまで
勝手に家を出て、突然帰ってくる/「後継ぎ」として「この体」で生まれる/笑いで締めくくる
1 おおっぴらにしちゃった
近所の友だちと遊ぶ/おばあちゃんの英才教育/地域の学校に通う
2 いらない存在、ではない
ひとりぼっちになる/このままでいいんだねって/少しはこの体が動いたほうがいい/ここで俺の人生終わるのか/施設に入るということ/「障害者」としての自覚
――ひと呼吸をおく 語りの中断
生活史を聴くということ/「障害」の経験への接近
3 からだを曝け出す
何の問題もなく振られる/電動車椅子に乗る/東京に出る/蜂の会/世田谷ボランティア連絡協議会/ハンディキャブ/夜と夜の夜
4 みんなと、ひとりで生きていく
太陽の市場/エド・ロング、HANDS世田谷/みんなの広場、介助者の死/母の転倒・父の死・自立生活
5 バスはみんな乗れないと
乗車拒否/東急バス闘争の始まり/壁をなくす会/ノンステップバス運動・再び介助者の死
6 血はつながっていないけれど
感覚麻痺・母の介護・第一線から退く/重くなる「障害」・入院生活・母の死/水俣演劇ワークショップ・重度訪問介護制度/人と関わる/孫のこと
――水面に上がった直後のひと息 語りおわり
Ⅲ ひらいていくこと
「みんなにショックを与える上田要の始まり」ということ/ひらいていくモトム/「家族」について
上田さん年表
――終わりのあとに
主要参考文献
あとがき
前書きなど
介助者は「お疲れ様でーす」と言いながら、ダイニングで私とすれ違って上田さんの家を後にする。私も「お疲れ様でーす」と言いながら左手の部屋に入り、ベッドの上にいる上田さんに「こんばんはー」ともう一度挨拶をする。
「こ ん ば ん ゔ ぁ ー」
上田さんは、喉の奥から全身で音を絞り出すようにして返事をくれる。私はもう一度「こんばんはー上田さん」と、リュックを置きながら返事をさらに返す。
上田さんは、いつもベッドの右端で右を向いて寝ている。寝返りを打つことはない。体が硬直して動かないのだ。私はその横に折り畳み式の椅子を持ってきて、腰を掛ける。これが介助者と上田さんの基本的な構図である。
ーー「はじめまして」より
****
「…なんでわざわざね、「あんたのおかげで青春を味わえた」なんてさ。健常者側から言えばさ、なにそれって話になるでしょ。だってわざわざ言う人っていないじゃないですか。いますか? ね。
そのまさに遺言みたいに俺にぶつけてきたことにさ、彼も多分そう(遺言のつもり)だったと思う。(重度身体障害者療護)施設を出て初めて女の子と出会ったりしてったらしいのね。酒も飲み、病気もし、活動もしたということで、初めて青春みたいなものを味わえた的な想いを込めて、俺に言ったんだと思うのね。
その「あんたのおかげで青春を味わえたよ」って言葉が、俺の背中にずしーんと覆い被さってきてさ、その後の活動の原動力になったかなと、今でも思ってる。」
――上田要さんの語りより
版元から一言
「障害」をもつ人と、そのひとを「介助」する人との出会いや、「介助」という「共同さ作業」についてあれこれ考えをめぐらしながら、著者は違和感や戸惑いを、関係を気付きために必須の「トラブルとコンフリクト」と理解し、「障害」とともに生きること,に出会う。そうして、障害とともに生きてきた上田さんという人に改めて出会い、その人生の語りに耳傾けた。素直なのにユーモラスで、穏やかなのにソウルフルな二人の共有時間が生み出した、昭和から令和を生きている障害者の生活史。中学生・高校生にも出会ってほしい一冊です。
上記内容は本書刊行時のものです。