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レジリエンスとねじれの心理
体験の「ひらけ」とストーリーライン・アセスメント
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年4月20日
- 書店発売日
- 2023年5月1日
- 登録日
- 2023年3月20日
- 最終更新日
- 2023年5月1日
紹介
多様性の時代に向けては、二項対比を脱却して、統合的かつ個人の価値が尊重される世界観が待たれています。そこで本書では、旧来の「表か? 裏か?」の“反面”社会を超えて、メビウスの輪のような《ねじれ》の創造性を活用する道を探ります。――そのカギとして、不意に訪れる「人間関係の危機」からの回復のため、ストーリーライン・アセスメント(物語の筋と見立てる視点)が紹介されます。臨床心理学/フォーカシング/陰陽五行の世界観などが補いあって“レジリエンス=可塑性”に満ちた未来を目指す「こころの世界論」。
目次
序――ストーリーライン・アセスメントについて
プロローグ――私の“交差”体験
第1部 ねじれ回復のプロセス
第1章 ねじれと危機対応――ケースにおける創作体験
第2章 非交差、あるいは行き場のなさ
第3章 ワイルドの生涯と創作
第4章 創作と体験過程――プロセスモデルから
第5章 レジリエンスの心理機構
第2部 危機とアセスメント
第1章 学校臨床――危機予防のために
第2章 追体験法をめぐって
第3部 五芒星物語
第1章 物語の創作体験法
第2章 相生-相克物語の誕生
第3章 ある少女の創作体験
第4章 五芒星物語の臨床への応用
エピローグ
前書きなど
私自身にとって体験の“ひらけ”の瞬間は、次のようなものであった。3年間のコロナ感染の蔓延対策のため、エンカウンターグループを、通いの2日間の集中的エンカウンターグループとして金沢郊外の山麓の青少年の家を借りて実施したときのことである。
その古民家を利用したいろり端で2日目のセッションに入り、あるさみしさが私のなかに生まれ、それが私のフェルトセンスであると感じ、皆に語ったことがある。そのときある参加者は、カウンセリングの実体験のひとつについて、最初の30分間黙っていたクライアントにじっとこころを寄せて沈黙を聴いて、それからカウンセリングが始まったと語った。
そのとき私は、芭蕉の代表作「静かさや岩にしみいる蝉の声」を、外の自然とダブらせて思い出していた。そして、その芭蕉の姿を、岩のように静かに蝉しぐれ聴いているその姿を、思った。それは、沈黙のかなたにいるクライアントに寄り添ってしみじみとした時間を分かち合っていた、参加者とクライアントの関係性であった。
この句は芭蕉が岩の静と「岩にしみいる蝉の声」の動の対称法によってその差異をくっきりと際立たせることで「静けさ」のレベルを一段と際立たせる技法である、とこれまで思っていた。しかし、グループのなかで、それは「作者がじっと蝉の声を聴きながら蝉しぐれのなかにある静寂を感じていたのではないか」と思い当たり、そこに芭蕉のこころがあり、クライアントのこころが〈交差〉していたのではないか、と皆で分かち合い、沈黙や傾聴の新たな意味について気づいたのである。
上記内容は本書刊行時のものです。