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少年と罪 中日新聞社会部(編) - ヘウレーカ
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少年と罪 (ショウネントツミ) 事件は何を問いかけるのか (ジケンハナニヲトイカケルノカ)

社会一般
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発行:ヘウレーカ
4-6
272ページ
並製
価格 1,600円+税
ISBN
978-4-909753-00-7   COPY
ISBN 13
9784909753007   COPY
ISBN 10h
4-909753-00-1   COPY
ISBN 10
4909753001   COPY
出版者記号
909753   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
品切れ・重版未定
初版年月日
2018年10月8日
書店発売日
登録日
2018年9月3日
最終更新日
2021年10月11日
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紹介

神戸連続児童殺傷事件から20年あまり。いまだ少年への憧れを隠さない子どもがいる。その一人、名古屋大学元学生は知人女性を自宅アパートで殺害、高校時代には同級生にタリウムを飲ませた罪で無期懲役となった。「人を殺してみたかった」。少年Aも元名大生もそう口にした。だが社会はそんな少年たちの心の闇に正面から向き合ってきただろうか――。社会を震撼とさせた重大少年事件の加害者、被害者、双方の家族、司法関係者などを丹念に取材。事件の背景や加害少年たちの内面に迫ると共に、被害者家族の悲しみと苦しみ、加害者家族の過酷な現実を描き出した、渾身のルポルタージュ。少年法の適用年齢引き下げの議論が本格化するなか、少年事件の実相を知るために欠かせない一冊。

目次

第1部 戦後史に残る2つの少年事件
第1章 「A」、20年
1 自身の不遇を十四歳の凶行に重ね/2 傾倒の日々を公言する少女/3 「透明な存在」捨てた/4 変化した「疲れた子ども」/5 心の深手、理解と疑問/6 自身に負けた敗残者/番外編 妙な少年、極秘マーク―刑事部長・深草雅利氏の証言から 
interview 雨宮処凛●世界との距離を縮め、Aと決別/土師守●厳罰化より適正化を 

第2章 木曽川・長良川連続リンチ殺人事件
1 少年法の壁、遺族置き去り/2 寂しさ抱える「ええ子」/3「居場所」を失い転落/4 集団心理、引けず凶行/5 反省願いつつ墓を探す/6 議論尽くし、全員を極刑に
topics  戦後の少年事件の変化と特徴 

第2部 ネットの魔力
第3章 翻弄される少年たち
1 十一歳の殺人、漂う偶像/2 言葉の暴力、続く立件/3 カネと注目、求めた末/4 安直な動機、高い代償/5 驚く研究力、捜査後手/6 匿名の攻撃、実害が次々と/7 「答え」は現実の中にこそ 

第4章 ライン殺人事件
1 引けぬ応酬、命を奪う/2 侵入許せず、攻撃が加速/3 手軽な交流、共犯招く 
interview  スマイリーキクチ●本当の正義は匿名で人をたたかない/土井隆義●居場所を求める「拡張現実」 
topics  ネットと少年事件の変遷 

第3部 加害者家族、被害者家族
第5章 ある「通り魔殺人」から
1 日常一変、絶望と指弾/2 挫折、孤独、過去を見つめて/3 償うため、一緒に動機を探す

第6章 さまよう家族
1 親の責任を問うために/2 なぜ隠した、親友の悔い/3 発達障害、光明求めて/4 許せない、けれど会う/5 思い上がり、叱り続け/6 永山の教訓、いまこそ 
interview  阿部恭子●子どものSOSを受け止めて 
topics  加害者家族からの発信/少年事件の司法手続き 

第4部 更生を阻むもの、支えるもの
第7章 塀の中へ再び
1 更生の道、なぜ捨てた/2 刑罰の場、育たぬ自覚/3 変わるために支えが必要/4 居場所は自立への一歩/5 謝罪に導く仮釈放を 
topics  重大な少年事件の再犯率/報道は実名か、匿名か 
interview  田島泰彦●実名は大事な情報。事件ごとに慎重判断を 

第8章 更生への道
1 分岐点で思う亡き友/2 我慢の先に未来はある/3 給料の重み知り、「受け子」を悔いる/4 孤立させず、雇い守る/5 信じてくれた人を胸に 

第9章 生と死の境界で
1 償いきれぬ苦悩残し/2 許されずとも続ける/3 生きて命と向き合う

第10章 少年法改正議論を考える
1 更生か厳罰か、揺れ続け/2 世論や被害者感情配慮、四度の改正 
interview  薬丸岳●元少年とどう向き合うのか。『友罪』で周囲の人物描く/武藤杜夫●少年院を日本一の学校に。「だめな集まり」の偏見なく
す 

第5部 元名大生事件
第11章 元名大生は何を語ったか――初公判から判決まで

第12章 解明されなかった闇
衝撃/支援/更生 
special report 私たちは事件から何を学ぶか 
元名大生事件 判決要旨 

終 章 取材ノートから

前書きなど

 まえがき

「きょう、ママンが死んだ」。印象深い書き出しで始まるカミュの『異邦人』。初めて読んだのは
高校生の時でした。アラブ人を殺害した主人公ムルソー。彼は法廷で、その動機を「太陽のせいだ」と語ります。文学的素養を持ち合わせていない当時、にきび面の若者にはその意味するところが分からず、途方に暮れた覚えしかありません。そもそも陽光のまぶしさがなぜ人を殺す理由になるのでしょうか。小説の世界で抱いた私の戸惑いと疑問が三十年以上たった今、現実社会においても当てはまるような気がします。
 「人を殺してみたかった」。未成年者の凶悪事件でしばしば耳にする言葉です。殺人と聞いて即座に連想する強い憎悪や切迫感とはかけ離れた、独り善がりで未熟な犯行動機。まだあどけない容姿と残忍な手口との大きなギャップに私たち大人はたじろぎ、暗澹たる気持ちになります。やり場のない怒りや悲しみ、「ひょっとしたらうちの子も……」と悩む親も少なくないでしょう。許されない一線を軽々と越えていく少年少女たち。彼らは現代社会の「異邦人」なのでしょうか。
 本書は、私が社会部長時代の二〇一七年三月から一八年三月までの一年間、中日新聞、東京新聞
で掲載した長期連載「少年と罪」をベースに加筆・修正し、単行本化したものです。連載開始のほ
ぼ二カ月前、名古屋地裁で殺人罪などに問われた名古屋大の元女子学生=犯行当時十九歳=の裁判
員裁判が始まりました。彼女は名古屋市内の自宅アパートで知人の高齢女性を手おので殴り、マフ
ラーで首を絞めて殺害。逮捕後の捜査で、高校時代にも同級生の男女二人に劇物のタリウムを飲ま
せ、殺害しようとしていたことも分かりました。
 名門国立大に通う才媛がなぜ猟奇的な犯行に走ったのか。悲惨な事件を繰り返さないためにも、
その謎に迫る丹念な法廷取材だけでなく、いくつかの少年事件を深掘りした、多角的な連載が必要
と考えました。ちょうど国が凶悪化する少年犯罪に対応するため、少年法の適用年齢を現在の「二
十歳未満」から「十八歳未満」に引き下げるべきかどうかについて本格的な議論を始めたタイミン
グ。少年事件を社会全体としてどう受け入れ、どう解決していくのかという議論のきっかけになっ
てほしいというささやかな願いもありました。
 「真実は細部に宿る」という言葉があります。ほんのわずかな事実や証言の中にこそ核心に迫る
ヒントが隠されています。成年犯罪に比べ匿名性が高く、動機や背景が乏しい少年犯罪の場合はな
おさらでしょう。本書では少年事件史上初めて三人の死刑が確定した木曽川・長良川連続リンチ殺
人事件の実行犯や、神戸連続児童殺傷事件で「酒鬼薔薇聖斗」を名乗った容疑者を英雄視する社会
風潮などから加害少年少女の実像に迫りました。最近の少年犯罪を特徴付けるインターネットの影
響力や落とし穴などは、広島県のライン殺人事件など実在の事件を題材に多くのページを割いてあ
ります。また、それぞれの事件の背後を探るため、被害者の遺族はもちろん加害少年の家族や友人、捜査関係者や裁判官などからできるだけ多くの証言を集めています。
 事件を重層的、多面的に再構築することで浮かび上がるのは少年少女の孤独な姿。親の虐待やし
つけ、不安や挫折感、周囲の無理解やいじめ……。事件発生時には独り善がり、短絡的と思われて
いた事件に潜む闇は多種多様です。凄まじい勢いで拡大する経済的な格差もその一つでしょう。子
どもの七人に一人が貧困家庭で育ち、国が把握する虐待件数が過去最高となった現代。半世紀前、
十九歳で四人を連続射殺し、法廷で「貧乏が憎いからやった」と叫んだ永山則夫元死刑囚の言葉は
時代を超え、今を生きる私たちの心にも重く響きます。獄中で永山元死刑囚と向き合った精神科医
はこう言います。「永山のような極貧ではなくとも、格差の拡大や家庭の崩壊が少年事件につなが
る点は当時と共通する。第二の永山を出さないために、いまこそ事件の教訓を再認識する時だ」と。
 現行の少年法は「少年の健全な育成」を理念に掲げています。事件を起こした少年少女の立ち直
りを重視し、少年院送致などの保護処分や、更生可能性を考慮した不定期刑など、成人と異なる手
続きを定めています。私たち報道機関も法の精神を尊重し、実名が原則の事件報道で罪を犯した者
が未成年者の場合、匿名にしています。特に本紙は木曽川・長良川リンチ殺人事件で三人の死刑が確定し、他紙の一部が実名に切り替えた際も匿名を貫きました。再審や恩赦の制度があり、更生の
可能性が直ちに消えるわけでなく「少年法が定める配慮はなお必要」との立場からです。未成年者
は未熟だからこそきっかけさえあれば立ち直ることは可能です。本書でもそうした事例を丹念に追っています。
 問題は、犯行に走った少年少女を、社会が更生させる力を持っているかどうかです。特に殺人な
ど凶悪な少年事件だった場合、被害者や家族の深い悲しみと苦しみを想像すると、その疑問は一段
と膨らみます。「社会は彼らを再び受け入れ、立ち直らせる手段を持ち合わせているのか」と。お
そらく、そうした心の葛藤が世間にもあるのでしょう。少年事件を自分とは関係のない世界で起き
た特殊な犯罪として遠ざけている風潮があるように思います。まるでサスペンス映画やドラマでも
見るように発生当初は大騒ぎをするが、時間が経つにつれて徐々に関心を失います。テレビの教育
評論家の話を聞いて「うちの子は違う」と自らを言い聞かせるだけでは、思考停止しているのと同
じです。本書でも明らかにしているように、多感な少年少女たちはささいなことで傷つき、その不
安や憎しみのはけ口を暴力に訴えるケースが少なくありません。
 「口数の少ない」「目立たない」「おとなしい」など周囲が語る加害少年のイメージはどの家庭でも起こりうる可能性の裏返しです。彼らは、私たちと価値観を異にする「異邦人」では決してありません。他の子どもらと同じ無限に広がる将来を夢見ながら、わずかなつまずきや戸惑い、衝動を抑えきれず、予期せぬ行動に走りました。その意味で、少年事件の問題は社会の寛容性も試しています。一部の過熱した報道やネット上で少年の実名や写真などをさらし、誹謗・中傷したところで何も解決しません。むしろ、好奇の目や偏見に怯える被害者や、その家族を一層苦境に陥れるだけのような気がします。
 厳罰か更生か――。本書は二者択一を読者に迫るわけでも、結論めいたものを提示するものでも
ありません。事件現場で幾重にも重なる事実を掘り起こし、ひもとくことを通じて少年、少女がな
ぜ犯罪に走り、周囲はその予兆に気づくことができなかったのかを検証したにすぎません。ただ、
そうした地道な作業が少年事件への関心を高め、難解で一筋縄ではいかない解決への糸口を見つけ
ることができると信じています。社会が加害者、被害者双方に寄り添い、多くの人が事件の教訓を
自らの問題として捉え直すことがその第一歩であり、少年法の適用年齢引き下げをめぐる議論と結
論はそれからでも遅くないでしょう。
「子どもは時代を映す鏡」とよく言われます。確かにモノや食糧があふれる現代は昔に比べ、物
質的にははるかに恵まれています。が、豊かさの代償である過酷な競争社会で私たちは多くのもの
を失いました。効率化は人々から余裕と寛容さを奪い、東京一極集中と地方の切り捨ては地域社会
に根ざしたコミュニティの絆を断ち切りました。それらは青少年の犯罪を防止し、彼らの健全育成
を支えていた伝統的な社会のセーフティネットとして機能していました。家族や地域の崩壊と軌を
一にする凶悪な少年事件は、そんなゆがんだ社会に対する警告のように思えてなりません。
 本書には、少年事件に対する理解を深めるため、殺人罪などに問われた元名大生の事件や裁判を追った当時の記事や連載なども収録してあります。併せてお読みいただければ幸いです。少年事件の背後にある子どもらの声なき声。私たちはまずその声に耳を傾け、事件の現実を直視することが問題解決に向けた第一歩になると思います。本書が子どもや、彼らの将来を悲観する「絶望」の黙示録ではなく、よりよい社会を目指す「希望」の一冊になることを切に願っています。

                        中日新聞社編集局次長 寺本政司

版元から一言

●少年事件の被害者、加害者、双方の家族、司法関係者などを捜し出し、粘り強く取材。新聞社の圧倒的な取材力を感じる読み応えのある作品です。

●扱っている事件は、神戸連続児童殺傷事件、元名大生事件、西尾ストーカー殺人事件、茨城女性殺害事件、ライン殺人事件、木曽川・長良川連続リンチ殺人事件、朝日町中3致死事件、寝屋川小学校教職員殺傷事件、西鉄バスジェック事件、山口・高専女子学生殺人事件、名古屋アベック殺人事件、兵庫県稲美町集団リンチ死事件、高一同級生殺害事件、つまようじ事件、元名大生事件、千葉・軽トラック殺人事件など。

●最近、問題となっているネット上のトラブルが原因で起こった事件も取り上げています。名古屋に本社を置く中日新聞らしく、元名大生事件の検証にも紙幅を割いています。

●どの章もエピソード中心なので読みやすく、少年事件の入門書としても最適です。

●事件の当事者たちの心境が手に取るようにわかり、少年事件や少年法についてどう考えたらよいのか、簡単には結論がでないことを実感します。「知る」「論じる」。その第一歩となる本です。

著者プロフィール

中日新聞社会部  (チュウニチシンブンシャカイブ)  (

「新愛知」と「名古屋新聞」を前身に、「中部日本新聞」として1942(昭和17 )年創刊。中日新聞(名古屋本社、東海本社)、東京新聞(東京本社)、北陸中日新聞(北陸本社)などを合わせ、348万部を発行している。大阪、岐阜、福井に支社、取材拠点となる総支局・通信局部は国内170か所、海外15 か所にある。名古屋本社社会部には56 人(2018年9月現在)が所属し、愛知県警、愛知県庁、名古屋市役所、司法の取材担当記者のほか、幅広いフィールドで連載企画などに取り組む遊軍、大学や病院を取材する医療科学班などで構成している。中日新聞社会部としての主な編著に『日米同盟と原発 隠された核の戦後史』『君臨する原発 どこまで犠牲を払うのか』(東京新聞出版局)、『祖父たちの告白 太平洋戦争70 年目の真実』(中日新聞社)、『新貧乏物語 しのび寄る貧困の現場から』(明石書店)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。