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「くだらない」文化を考える
ネットカルチャーの社会学
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年1月26日
- 書店発売日
- 2021年1月29日
- 登録日
- 2021年1月14日
- 最終更新日
- 2021年1月28日
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2023-07-14 |
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紹介
炎上、祭り、ネットスラング、アスキーアート、オフ会、MMD、MAD……。
「2ちゃんねる圏」を舞台にネットユーザーが生み出した「くだらない」「取るに足らない」文化は、それゆえに論じられないままでよいのか。
SNS全盛の現代、オワコンといわれる「2ちゃんねる圏」の文化に、社会学の知見を用いて大まじめに切り込む、ネットカルチャー論。
目次
序論
第一章 ネットカルチャー研究の発展に向けて──ポピュラー文化と参加文化の視点から
はじめに/一 日本社会を文脈とするネットカルチャーの歴史/二 電子掲示板2ちゃんねるに関する研究/三 ネットカルチャー研究の停滞/四 ネットカルチャー研究の発展を図るための視点/おわりに
第二章 インターネット上のニュースとアマチュアによる草の根的な活動
はじめに/一 インターネット上のニュースをめぐる草の根的な活動の歴史/二 アマチュアによる草の根的な活動を研究することの困難/三 ポピュラー文化とニュース/四 アマチュアによる草の根的な活動と社会問題の接点/おわりに
第三章 インターネットを通じて可視化されるテレビ・オーディエンスの活動──公共性への回路
はじめに/一 オーディエンスと不可視のフィクション/二 インターネットを通じて可視化されるオーディエンス/三2ちゃんねるの圏域に見られるテレビ・オーディエンス/四 インターネットを通じたテレビ・オーディエンスの活動に見る既視感/五 インターネット上のテレビ・オーディエンスの活動に見る公共性/おわりに
第四章 インターネット上のアマチュア動画に見られる「カルト動画」
はじめに/一 インターネットにおけるアマチュア動画の歴史/二 インターネット上のアマチュア動画に関する研究の展開と枠組みの検討/三 言及がはばかられるインターネット上のアマチュア動画/四 カルトとしてのアマチュア動画/おわりに
第五章 オンライン・コミュニティの多様化と文化現象──「下位文化理論」を手がかりとして
はじめに/一 コンピュータ・ネットワークを介した人々の集まりと「コミュニティ」/二 オンライン・コミュニティ論の停滞/三 多様なオンライン・コミュニティの共存と成員間の相互作用/四 オンライン・コミュニティの多様化とインターネット空間の「都市化」/五 オンライン・コミュニティ成員間の相互作用と文化/おわりに
第六章 インターネットにおける炎上の発生と文化的な衝突
はじめに/一 インターネットにおける炎上の歴史/二 フレーミングと炎上の違い/三 炎上が起こる理由/四 下位文化理論から見る炎上/おわりに
第七章 ネットスラングの広がりと意味の変容──「リア充」を事例として
はじめに/一 コンピュータ・ネットワークを介した人々のやりとりとスラング/二 日本社会を文脈とするネットスラング/三 インターネット空間におけるコンテンツの拡散/四 「リア充」というネットスラングの広がり/五 ネットスラングの広がりとサブカルチャー/おわりに
第八章 ネットユーザーによるコンテンツへの関与をめぐる批判的考察──2ちゃんねるのまとめサイト騒動を事例として
はじめに/一 ソーシャルメディアの普及とネットユーザーによるコンテンツへの関与/二 ソーシャルメディアのプラットフォームが生み出す利益や報酬/三 金銭的報酬の獲得を企図したコンテンツ流用とネットユーザーの反発/四 「名づけ」としての「ステマ」や「アフィ」/おわりに
第九章 インターネット空間における「ネタ」の意味──「遊び」の研究を手がかりとして
はじめに/一2ちゃんねるにおけるやりとりと「ネタ」/二 ソーシャルメディアの普及に伴う「ネタ」の変容/三 「ネタ」と「遊び」/四 「ネタ」の位置づけとその変容/五 インターネット空間における「ネタ」の意味/おわりに
終章 ネットカルチャー研究の課題
参考文献
初出一覧
あとがき
索引
前書きなど
本書では、日本社会を文脈とするインターネット空間においてネットユーザーの活動を通じて形成されてきた独特な文化、いわゆる、「ネットカルチャー」について考察する。
インターネットが商用化された一九九〇年代以降、人々はインターネットを通じて相互行為を展開するようになり、そこからネットカルチャーと呼びうる独特な文化が形成されていった。そうした文化は、日本社会において必ずしも肯定的に評価されたわけではなかったが、一定の関心を集めてきた。それは学術分野も例外ではなく、とりわけ二〇〇〇年代前半には数多くの研究が実施された。つまり、ネットカルチャーに関する研究はすでに一定の蓄積がある。そうした中、なぜ本書でネットカルチャーを研究対象とするのだろうか。その理由は三つ挙げられる。
第一に、ネットカルチャーと呼びうる現象を記述することにある。前述のとおり、ネットカルチャーに関する研究は(それらを「ネットカルチャー研究」と呼ぶか否かは別として)すでに手掛けられてきた。だが、その範囲は十分とは言い難い。ネットカルチャー研究が活発に展開された二〇〇〇年代前半、主たる議論の対象は電子掲示板サイト「2ちゃんねる」の現象であった。2ちゃんねるに見られた現象が日本社会を文脈とするネットカルチャーの根幹をなしているのは確かであり、本書においても2ちゃんねるの現象は逐一取り上げる。だが、ネットカルチャーの問題は2ちゃんねるの現象に限られるわけではない。2ちゃんねるの開設以前、そして、2ちゃんねるの勢いが相対的に低下した二〇〇〇年代後半以降にも、ネットユーザーたちの相互行為を通じて独特な文化が形成され、再生産されてきた。だが、それらに関する学術的な議論は充実していない。それゆえ、ネットカルチャーに関連する現象を記述する試みは、既存研究の不足を補うという点で一定の価値を有すると考える。
第二に、ネットカルチャーの考察を通じて、社会科学に即したインターネット研究の発展を図るためである。文化(史)の記述は確かに意味がある。だがそれだけでは、ホームページ、ブログ、ウィキペディアなどに掲載されている情報でも事足りる。すなわち、学術的な観点から評価しえない。そこで本書ではネットカルチャーを記述したうえで、メディア研究、コミュニケーション研究、文化研究、社会学といった社会科学の研究蓄積を摂取しながら考察を展開していく。この試みが社会科学に即したインターネット研究の発展に寄与すると考えるのは次のような理由による。ネットカルチャーは「取るに足らない」あるいは「くだらない」と見なされるものも少なくない。このことは、ネットカルチャー研究が活性化しない理由の一つでもある。こうした課題に取り組むうえで、社会科学の研究蓄積、そして、その蓄積が反映された概念や理論に依拠した考察は重要な意味を持つ。本書では筆者独自の概念や理論を提示することを主眼とはしていない。それゆえ、出来合いの概念・理論に依拠した単なる説明に過ぎないと受け取られるかもしれない。しかし、そのような説明を通じて、「取るに足らない」あるいは「くだらない」と見なされるネットカルチャーが社会科学の研究対象であることを示すことができる。この試みは、インターネットの社会科学の発展のみならず、メディア研究、コミュニケーション研究、文化研究、社会学の発展にもつながることが期待される。
第三に、ネットカルチャー、および、その研究から社会的な意義や含意を見出せると考えるためである。「科学とは、研究対象となった特定のことがらに関する一連の知識を生むために、経験的調査という系統だった方法を用い、データを分析し、理論的な考察をおこない、立論を論理的に査定することである」[Giddens 2006=2009:92]。前述した本書の狙いはアンソニー・ギデンズの言う「科学」の条件とも対応している。ただし社会科学は、ある物事を科学的な手続きに即して論ずるだけにとどまらず、その作業をふまえたうえで社会的な意義や含意を検討することが求められる。すなわち、「社会の現象を的確に理解しようと務め、そしてその知見を活用して現在および未来の社会に役立つべく〔略〕論じ合う」[西原 二〇〇七:六六九]、「政策科学としての側面」、「「世のため人のため」に「役に立つ」(と思われている)」[稲葉 二〇〇九:二二]、「社会に存在する規範、制度、秩序の有効性や正当性を検討し、社会事象に対する政策的判断や価値判断を下す」[友枝 二〇〇六:二四〇]といった「当為」が求められるのである。こうした社会科学の「使命」を既存のネットカルチャー研究が怠ってきたというわけではない。ただやはり、ネットカルチャーは「取るに足らない」あるいは「くだらない」がゆえに、社会的な意義や含意を見出しづらいのも確かである。それでも、多くの人々の関与を通じてネットカルチャーが形成され、そうした文化が再生産されてきたことをふまえるのであれば、そこには何かしらの意義や含意を見出すことができるのではないか。こうした社会科学の根本的な課題に対して、本書で手掛けるネットカルチャーの研究は、わずかばかりではあるが貢献できると考える。
本書でネットカルチャーに焦点を当てた研究に着手する理由は以上のようにまとめられる。つまるところ、社会科学に立脚したネットカルチャーの研究を通じて、ネットカルチャー研究の発展、ひいては、関連する研究分野の発展を図ることが本書の主眼ということになる。
上記内容は本書刊行時のものです。