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AI海戦
人工知能は海戦の意思決定をどう変えるのか?
原書: AI AT WAR
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年4月10日
- 書店発売日
- 2023年3月27日
- 登録日
- 2023年3月1日
- 最終更新日
- 2023年3月30日
紹介
人工知能は海戦の意思決定をどう変えるのか?監訳 五味睦佳(元海上自衛隊 自衛艦隊司令官)アメリカ海軍大学教授、退役提督、元国防副長官らによる海上戦場の変革シミュレーション。
AIは戦場でどう役に立つのか。本書は、この疑問に対する米国海軍の最新の叡智を集めた宝石箱と言える。中国に先行されがちな大量のデータ収集と学習によるAIの強化。対抗するにはどうすべきかに関するヒントが見えてくる。
前書きなど
「敵艦に突撃せよ」。これは、歴史上最も偉大な提督であるロード・ネルソン(Lord Nelson)中将がトラファルガー海戦において言った言葉である。わたしは、その後数年に及ぶ彼の戦術的アプローチについて真摯な研究を始めた、海上で軍艦を指揮する日を楽しみにしていた一少佐に過ぎなかった。わたしが彼の訓戒に潜心したとき、個艦と艦隊がその行動原則を達成するためにはどのように自艦を配置すべきか知りたいと思った。
わたし自身の研究から、情報が重要な要素であることを把握しており、少なくともそう確信していた。しかし、危機や戦いの最中に、正確な情報を入手することは常に困難である。よく言われることは、「第一報は常に間違いである」ということである。海軍の歴史を通じて指揮官として成功するためのカギは、不完全な情報を整理し、可能性のあるものと低いものを見極め、経験によって磨かれた専門家としての判断に基づいて意思決定を下す能力であった。ネルソンはそのことを知っていた。そして自分は長年の海上勤務からそのことを徐々に学んだ。
当時、つまり1980 年代後半、米国海軍はすでにアナログからデジタルへの移行を実施し始めていた。多くの兵器とセンサーそれ自体はすでにデジタル化されていたが、複数の情報源とセンサーから得られるデジタル情報が、作戦上の(「人間」の心を読む)意思決定において、決して無むびゅう謬ではないにもかかわらず、真に信頼できるアセットとなったのは、旧来のパラダイムを打ち破るイージス戦闘システムが水上艦隊に普及してからであった。わたしは幸運にも、本当に最初のイージス艦の一つである米国艦艇「バレーフォージ」(Valley Forge)(CG 50)の初代船務長(作戦指揮官)になり、この艦艇で「イージスの父」、ウェイン・マイヤー(Wayne Meyer)海軍少将の技術的な洞察力、およびウェイン・ヒューズ(Wayne Hughes)海軍大佐の戦術的な洞察力の恩恵を受けた。
同時に、パーソナルコンピューターの一般の普及、インターネットの普及と商用化、サイバー空間の驚異的な進歩(および紛争の可能性)が起こった。それらによりこれまで取得して分類するのに多くの時間と人的労力を必要としていた情報が、世界中で溢れかえっていた。文民と軍事の両方の分野で利用可能な膨大な量の情報がこれほど急速に増加したため、人間の頭脳では追いつけないかに見えた。そして意思決定者たち、特に戦闘に直面する可能性のある人々は、絶え間なく流入するすべての情報を分類するための新しい方法を必要としていることが顕あらわになり始めた。
海軍の行う作戦では、情報はすでに個々の艦艇に搭載されたセンサー、いわゆる有機的センサーが主役ではなくなり、正確な情報は、衛星、陸上局、他軍種の統合アセット、およびオープンソースから提供されていた。敵をターゲティングするのに適した情報の欠如は依然として問題になることがよくあるが、その時点で情報が多すぎ分類できない状況がしばしば起こった。敵にも同様に利用できる多くの情報があった。
それでは、どうすれば「敵艦に突撃する」ポジションをとり続けることができるのか。そこで気付いたのは、この答えのポイントが情報の可用性から意思決定の速度に変わったことであった。このことはいくつかの点で、米国空軍のジョン・ボイド(John Boyd)大佐の観察-状況判断-意思決定-行動(OODA)ループのモデルに基づく空中戦において認知されていることと似ているところがある。OODA ループをより迅速に循環できる、つまり正確な意思決定をより迅速に行えるパイロットは、通常、空中戦において勝利していた。ウェイン・ヒューズの言葉を借りれば、彼らは効果的に先制攻撃できたわけである。
とりわけわたしが、北大西洋条約機構(NATO)軍最高司令官として、上級意思決定者になった2000 年代までに、意思決定をサポートする可能性のある情報の量はまったく驚くべきものとなっていた。わたしは、平和的行動と暴力的行動の両方を決定しなければならない人間に対して選択肢を処理し、組み合わせ、検証し、明確にする方法が必要であることを知っていた。前米国海軍作戦部長であったジョン・リチャードソン(John Richardson)提督が言うように、敵が意思決定を下す前に、より速く意思決定を下す必要があった。
幸いなことに、人工知能(AI)システムの開発は大きな可能性を秘めており、特に意思決定の速度が生死を意味する場合に、重要な立場に立つ人間の意思決定を強化する(つまり、人間の意思決定を置き換えるのではなく、しばしば矛盾しあいまいな情報の混戦の真っただ中で人間が効果的に意思決定するのを支援するという認識である)。わたしにとって、AI に対する真の期待は、人間-機械のチーム化と協働化の新たな方法を通じてOODA ループを高速化することである。
わたしは、自分とNATO の飽くなき献身的な人員が、作戦中に複雑な情報を分類するのを支援するAI システムを持っていたらよかったのにと思う。疲れを知らないように奮闘する人間ではもはや十分ではない。残念ながらNATO では、自分たちの技術的な優位性を十分かつ効果的に活用していなかった。
これらすべてが、わたしが本書の序文を書かせていただく機会に飛びついた理由である。AI、機械学習、ビッグデータ、軍事における人間-機械チーム化の期待に関する一般的な議論が急増してきているが、米国と米国海軍がこの期待をどのように達成できるかについてはほとんど論述されていない。本書では、この進歩と、この誇大な宣伝となっている内容を掘り下げて、AI の海軍の戦闘への適用と限界の両方を特定する最初の一冊となろう。
国防副長官としての任期中、わたしの親友であり同僚である尊敬すべきボブ・ワーク(Bob Work)は、第三のオフセット戦略を策定するために自分の取り組みの中心にAI を位置付けた。第三のオフセット戦略をめぐる議論は、それ自体が複雑になり、時には論争の的になった。わたしは、自分の海軍帽をかぶり、わたしたちが「敵艦に突撃する」ことをネルソンの言うように可能とするために、海軍(および一般的に軍事作戦)でAI を実現するための必要性を述べたい。
大国との対戦の可能性が近づきつつあるこの時期において、わたしは「最初に効果的に攻撃する」能力が効果的な抑止をさせ得る主要な成功要因であると信じている。もちろんAI は、戦闘と抑止、戦争と平和に関する効果的な意思決定に対する完全な解決策ではない。しかし、それが将来の意思決定者たちの賢明な選択への足掛かりとなるならば、その期待を裏切らないであろう。わたしは本書が、AI を国防の意思決定に効果的に適用する基盤の構築に向けた独創性に富んだ第一歩であると信じている。わたしの友人であるジョージ・ガルドリシ(George Galdorisi)とサム・タングレディ(SamTangredi)という二人の優秀な思想家が編集し、また一部を執筆した本書は、読者を人工知能というまだ海図のない海域を航海できるようにする「海洋情報詳細資料」である。
ジェイムズ・G・スタブリディス米国海軍大将(Adm. James G. Stavridis,USN、退役)
上記内容は本書刊行時のものです。