書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
よく生きることはよく書くこと
ジャーナリスト千本健一郎の文章教室1985-2015
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年4月12日
- 書店発売日
- 2022年4月6日
- 登録日
- 2022年3月22日
- 最終更新日
- 2022年10月10日
紹介
私たちは何のために 読む力をもち 書く技を磨くのか──「朝日ジャーナル」「週刊朝日」記者として健筆をふるい、朝日カルチャーセンターで30年を文章指導にささげた著者からのメッセージ。題材は国内外の社会情勢(戦争や差別問題など)から映画や文学まで諸事百般。その見識の冴え、書く対象に立ち向かう姿勢の剛毅にして飄々、偏らず、奇を衒わず、適度なユーモアも忘れず、そして何よりも明晰である文章は、「何を」「どのように」書くかについての見本帖となる一冊。それらは講義の余滴にとどまるものではなく、我々の心に “考えるための種” を蒔いてくれるものでもあり、それが次の段階の “書く” という言葉の芽吹きを促すものになっています。
目次
目次より(一部抜粋)
1990年 文章教室と本
1991年 戦争とキーワード
1992年 紀州・一九九二年八月十四日
1993年 生きている「義」の手ごたえ
1994年 ホロコーストの影
1995年 「戦後五〇年」の瞬間
論理的表現は他者意識から始まる
1996年 危うし、〈アウシュビッツ〉
まり子さんのことば
1997年 スパイク、そしてバイライン
グラーグを生きのびて ─ジャック・ロッシのことば・抄
1998年 『タイタニック』余滴 ─舵への疑問から─
平和とは〝短い休暇〟か ─映画『遥かなる帰郷』をめぐって─
1999年 言葉の矢
拝啓 ポケモン殿 ─ポケモンはこう考える─
2000年 「神の国」の真意 ─五月二十七日の文章教室から─
土佐からの贈り物 ─「びっと」「へこい」「おかいす」たちのつぶやき
2001年 サンカに出会った日
2003年 灰色の領域
「ホロコースト」を生きのびた子どもたち
2004年 二十年後、三十三年後、そしていま ─イスラエルの声を聞きとる─
水上さんと文章教室
2005年 英霊雑感
2006年 白バラ─ミュンヘン─パレスチナ
映画とサッカーの効用 ─アフリカへの接近─
2007年 「がばい」の正体
2008年 冤罪談義
赤紙と懲罰 ─「弱兵」はなぜ召されたか
2009年 イスラエルからの声
映画『嗚呼、満蒙開拓団』 ─そして、その先
2010年 「ジョニー」と「キャタピラー」
大勢のなかの一人旅 ─永六輔のばあい─
2011年 「粘ってまーす」 ─福島からの声─
原子力発電所と詩人
2012年 <電気>に出会った日
2013年 「ムシャ」を見る
2014年 まど・みちおの言葉力 ─ある<生>の印象─
「わだつみ」再見
2015年 三方からの言葉
前書きなど
〈編者より〉
本書は、朝日新聞社編集委員の故千本健一郎氏が、在職中から講師を務めた「朝日カルチャーセンター・千本文章教室」(1985–2015年)で、毎年四期(一期3か月)開催の講座の期末ごとの文集に寄せたエッセイを1冊にまとめたものです。文集(当初『一ぷらす一〇〇〇』という名称で8号まで制作。以降は「作品集」)は、受講者が教室で発表した文章を集め、期ごとに1冊ずつ有志が自主的に制作したもので、その巻末に千本氏が一文を付け加えた体裁になっています。
私自身、一時期、千本文章教室の生徒であり、遡ること30年ほど前には千本編集長のもと、「朝日ジャーナル」別冊などの編集スタッフに加えていただいたこともありました。そうした機縁もあり、3年ほど前、文集に書かれた千本氏の文章をすべて拝見する機会を得たところ、その内容のおもしろさに思わず惹き込まれていきました。
題材は国内外の社会情勢から映画や文学、身近な知友の動静、自らの失敗談まで諸事百般。なかでも戦争やホロコースト、差別問題や冤罪事件など、人の愚かさが引き起こしてきた現代史の闇に触れるとき、筆鋒は鋭く熱を帯び、一方で母親や友を語る筆運びは濃やかにしてどこまでも楽しげでした。その見識の冴え、書く対象に立ち向かう姿勢の剛毅にして飄々、偏らず、奇を衒わず、適度なユーモアも忘れず、そして何よりも明晰であること──まさに「文は人なり」と感じたものです。
千本氏が、教室で毎回、顔を付き合わせてきた生徒たち一人ひとりを思い浮かべながら毎期末、直接、手渡すように書かれた文章は、「何を」「どのように」書くかについての見本となったに違いないと思わせるに足るものでした。それらは講義の余滴にとどまるものではなく、我々の心に “考えるための種” を蒔いてくれるものでもあり、それが次の段階の “書く” という言葉の芽吹きを促すものになっています。最良の文章教室だと思いました。
ところがそんな折も折の2019年4月、療養中と聞いていた千本氏の訃報に接しました。ああ遅かりし、と一瞬思ったものの、同時に私の中で、この文業を1冊にまとめたい、という気持ちがムクムクと湧き起こってきました。それから3年、コロナ禍という厄災もあり制作も遅れましたが、ここにようやく出版の日を迎えることができました。
本書の表題は、千本氏が第1回目の講義(1985年10月)で言われた「よく生きることがよく書くことにつながる……」からとりました。書き手の生き方や問題意識をも厳しく問う千本氏の生きる姿勢そのものです。本書にはその初回の講義について書かれた「由来記」(1987年)から最終稿となった「三方からの言葉」(2015年)までの掲載分をすべて収めました。
その最終稿の末尾には、東電福島第一原発事故以降、災害の実相を現場から発信し続ける福島の詩人・若松丈太郎さんについて、「(若松さんの)詩文に接したのは、東電福島第一原発爆発直後の2011年5月のことだ。騒動の尻馬にのるようにして、少しはものごとの深みに触れよう、考えるべきことを考えねば、と耳をすましてみたのが出発点だった」とあります。昭和から平成にかけて書き継がれた千本氏の文章がまさにそうで、どの話題についても、「ものごとの深みに触れ、考えるべきことを考え、耳をすます」という姿勢で貫かれています。そうした一つひとつの文章に千本氏が託したメッセージを、次代の人々に手渡すこと、それが私の小さな願いです。それが叶うのであれば、何もいうことはありません。
版元から一言
国内外の社会情勢(特に戦争や差別問題)から映画や文学まで、経験豊かなジャーナリストの眼が捉えた題材をもとに、教室の生徒たち一人ひとりに毎期末、直接手渡すように書かれた文章は、「何を」「どのように」書くかについての見本でした。それらは講義の余滴にとどまるものではなく、我々の心に “考えるための種” を蒔いてくれるものでもあり、それが次の段階の “書く” という言葉の芽吹きを促すものになっています。そうした意味でも本書は最良の文章教室です。
上記内容は本書刊行時のものです。