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夢、遙か
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年11月18日
- 書店発売日
- 2019年11月20日
- 登録日
- 2019年11月14日
- 最終更新日
- 2019年11月18日
紹介
「部長職を解き調査役を命ずる」という四月一日付の辞令を受けた主人公は、その日から机の配置も変わり部下のいない社員、いわゆる窓際族になった。しかし社内の権力闘争から再び表舞台へ上がるが……。権力闘争に巻き込まれるも同僚への思い遣りの心を大切にし、「義を見て為ざるは勇無きなり」と義を貫く主人公の生き方は、聖書の言葉「日は昇り、日は沈みあえぎ戻り、また昇る」のごとく転変を繰り返す。本作品は、組織の掟と、義や情の間に揺れ動き翻弄されながらも、「人間としてやるべきことは何か」を貫いた一人の男の再生の物語だが、定年後の人生をどう生きるか──という、誰もが抱える後半生の大きなテーマに光を当てた物語でもある。
目次
第一章 止まって見えた大時計の針
第二章 抜け切れない会社人間
第三章 君は何を報告したのだ
第四章 あなたは運のいい人だ
第五章 言われたとおりにやれ
第六章 社長が行方不明です
第七章 今度は君が社長だ
第八章 賽は投げられた
第九章 最初に見せたのは誰だ
第十章 常務が自殺
終 章 夢、遙か
あとがき
前書きなど
あとがき
公園の桜が散りはじめたころ、一通の転居通知が届きました。
「役職定年になり、後任の若い所長が決まりましたので、下記へ引っ越しました。 しばらくは営業所にいて定年まで働くつもりです。よろしく」と、印刷した新しい住所の上に手書きしてあります。
差出人は、現役時代に本社で一緒に仕事をした元同僚で、優秀な社員でした。連れだって上野公園へ夜桜を見に行ったことなど一緒に働いたころを懐かしく思い出しました。
振り返ると、バブルが崩壊したあと多くの企業が再生を目指して奮闘した時期が過ぎ、ようやく明るさが見え出したころでした。しかし一部に金融機関の不良貸し付け問題や権力闘争がくすぶるなど緊迫した雰囲気が漂っており、優秀な社員が若くして亡くなったり、なかには自裁という最期を選んだ者もいました。
定年まで働くことはサラリーマンにとって一つの目標で、また定年は、「その後の人生をどう過ごすか」を考える人生の節目でもあります。今や、人生百年時代、高齢化が進むなかで「定年後の人生」は大きな課題です。役職定年もひとつの節目です。
「しばらくは営業所いて定年まで働くつもりです」という転居通知の末尾の一行に一抹の寂しさを覚えました。もっと前向きに、「しばらく働き、長年の夢の実現を目指します」とか、「精一杯働いて満足しています」 といった心意気を伝えてほしかったのかもしれません。その一方で、時代とともに働く環境が変わっても、「人間の気持ちは変わらないものだ」と改めて思いました。
「人間は、自分が考えるほど不幸でもないし、それほど幸福でもない」(ラ・ロシュフコー)といいます。
ともあれ、人間として生まれてきたからには、清く、正しく、美しく、良心に忠実に生きたいものです。 また、人にやさしく、愛をはぐくみ、これまでの人生で抱いてきた夢を実現したいものです。
この物語は、一通の転居通知に触発され、私の現役時代の体験や見聞にフィクションを交えて創作した、ある一人のサラリーマンのドラマです。主人公は権力闘争に巻き込まれるも、同僚への思い遣りの心を大切にし、「義を見て為ざるは勇無きなり」と義を貫きます。そして、組織の掟と、義や情の間に揺れ動き翻弄されながらも、「人間としてやるべきことは何か」を考え抜いた結果、ひとつの道を選択したのでした。
版元から一言
小説の時代背景は、昭和から平成にかけてのバブル景気に沸く金融業界。著者が産経新聞の記者時代に書いた『日本銀行物語 日銀マンの光と影』、『ザ・バンク 最先端を拓く三和マン』(産経新聞社)の流れを汲む続く企業小説です。ただし物語の中心は「社内抗争のドラマ」というより「定年後の人生をどう生きるか」に悩む主人公の心の揺れ動きにあります。その点で本作品は、人間関係に揺れ動く主人公の微妙な心理を巧みに描いて優れた文学となりえています。
上記内容は本書刊行時のものです。