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小商い建築、まちを動かす!
建築・不動産・運営の視点で探る12事例
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年4月10日
- 書店発売日
- 2022年4月10日
- 登録日
- 2021年11月16日
- 最終更新日
- 2022年4月8日
書評掲載情報
2023-03-11 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 山崎亮(関西学院大学教授) |
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紹介
シェアスペースなど場づくりに興味のある設計者や大家さんにオススメの1冊。
働き方の価値観が変化するなか、小商いのある暮らしが自分らしい生き方として注目を集めています。
そんな暮らしを応援するのが、小さな元手から商いが始められ、地域に魅力を与える「小商い建築」。
話題の「小商い」建築 12 事例を、6名の建築家が取材・検証し、空間の特徴や不動産的ポイントもコンパクトに抽出しました。
建築家の実践する場づくりや運営手法も紹介します。
【主な内容】Part.1_小商い建築ができるまで、Part.2_建築家たちの小商い、Part.3_小商い建築で事業にトライ、Part.4_小商い建築でまちに向かって渦をつくれ!、小商い建築のつくり方_設計編・不動産編、ほか。
目次
はじめに 小商い建築は、職住一体型住宅の新しいかたち
Part.1_小商い建築ができるまで
01_伝統的な暮らしに着想を得た町家風賃貸物件
小商いスペース付き集合住宅
欅の音terrace
02_バナキュラーな建築要素から構成された小商いの場
アネックス付き集合住宅
Dragon Court Village
03_フラットなつながりを広げていくプラットフォーム
シェアラウンジと小商いスペース付き集合住宅
八景市場
04_長屋のリノベーションから生まれたまちに開く場
小商いスペース付き集合住宅含む住宅群
大森ロッヂ
Part.2_建築家たちの小商い
05_つながりを設計し、多拠点でまちに広がる
小商いスペース付きアパート/シェア店舗
藤棚のアパートメント/藤棚デパートメント
06_“好きなこと”を共有する“商い暮らし”の新しいモデル
シェア店舗
アキナイガーデン
07_郊外住宅地での働き方を変える実験の場
シェア店舗
富士見台トンネル
小商い建築のつくり方
設計編 [掲載事例から探る 8つの空間的ポイント]
1 集まって小商う
2地域に開く
3 多彩な使われ方を許容する場
4 人びとを受け入れる屋外空間
5プライベートとシェアのグラデーション
6 暮らしとの多様な距離感
7 小商いの場の大きさ
8 手を加えられる余白
不動産編 [押さえておきたい!大家さん向け情報]
Column 小商いプレイヤー向け物件探しのコツ
Part.3 小商い建築で事業にトライ
08_小商いを発展させ、やがてはまちを活性化する
小商いスペース付き集合住宅/シェア型飲食店舗付き集合住宅
つながるテラス/M3-BLD.
09_地方のまちをアキナイとネットワークで再生する
シェアオフィス/アトリエ+ショップ
まちでつくるビル/カンダマチノート
10_設計・企画・運営を並走させ、地域社会圏の価値を高める
店舗・事務所・集合住宅入り複合ビル
西葛西APARTMENTS-2
Part.4 小商い建築でまちに向かって渦をつくれ!
11_ まちを巻き込み、人々を混ぜていく 日常を変える小商いの場
商業ビル
西日暮里スクランブル
12_再開発で生まれた、職住近接の長屋が連なる風景
小商いスペース付き長屋のある商店街
BONUS TRACK
あとがき 小商い建築と建築家
前書きなど
はじめに│小商い建築は、職住一体型住宅の新しいかたち
西田 司/神永侑子/永井雅子/根岸龍介/若林拓哉/藤沢百合
「商うこと」はかつて、暮らすことと同義であったように思います。
「表店」と「裏長屋」とも言われたように、近世まで当たり前だった職住一体の暮らし方。そこには「暮らし」と「商い」の精神的・物理的な境がなく、日々の生活の情報交換やたわいもないコミュニケーションが当たり前のようにありました。
近代化が進むと、効率良く働く環境を確立させるように都心オフィスが生まれ、働く環境から区別された家は郊外での整備が進みました。職住分離のライフスタイルです。
そして昨今では、長時間労働の見直しや女性の社会進出の加速、少子高齢化といった社会課題に伴い、リモートワークや多拠点居住など、職住分離の関係性を揺るがす多様なライフスタイルの価値観が醸成され始めました。そんな折、新型コロナウイルスの猛威は半ば強制的に、家で働くという状況をつくり出したのです。世界中で働くことと暮らすことの共存関係、ないしはそれらをひっくるめた「自分らしい生き方」という問いに向き合う人が増えたのではないでしょうか。職場という物理的な環境がなくなると、本来の家は衣食住のみならず、働くことも休むことも許容可能な、もっとも自由で型のない、時代の変化とともに変わり続ける建築であることに気づかされます。
小商い建築は、過去に学び現代にアップデートさせた新しい職住一体のライフスタイルを体現する住まいの1つです。
近代の住宅整備がもたらした、塀で囲い、近隣からプライバシーの安心安全を閉じて確保しようとする家の形式は、かつての“縁側コミュニケーション”のような気軽な立ち寄りを阻み、近隣との日常的な接点を減少させました。小商いは、暮らしの一部であり、日常的なコミュニケーションの機会を与えてくれます。家の境界を人々の営みが超えていくのです。さらには自分自身の表現の場であり、新たな出会いの機会でもあります。複業を認める企業が増え、”好きなこと”をもう1つの仕事にする人が増えました。自ら一歩を踏み出し、小商いの時間を通して得る体験の充足感は、新しい幸福のかたちを示し始めました。これからは、不動産の資産所有や経済的な豊かさ以上に、こうした精神的な豊かさがライフスタイルに変化をもたらします。小商い建築は、これまでの「住まい」を変えていくきっかけの1つになることでしょう。
本書の編集・執筆を通して、あらゆる小商いプレイヤーの声を聞きました。そして1人ひとりが始めるスモールスタートの物語を聞くうちに、小商い時間には、多くの学びや発見があり、暮らすことと働くことの接近が、生き方そのものをサスティナブルなものにしていることに気づかされました。複業による経済的な安定という側面もあれば、地域の人や友人、家族、まちとの関係性の循環という側面もあります。働くことが暮らすことと同義になるほど、自分の生活が社会の循環のなかで生かされていることに気づくのです。
編著者自身も、小商いに関わることから多くの気づきを得ることで、自分の生活するまちや社会に多視点でアプローチできるようになったという実感をもっています。「建築家」はもちろん建築の専門家ですが、その視点だけでは、見える事象とその捉え方が、どこか専門性に偏ってしまうことがあるように思います。たとえば編著者の1人は、実際に「まちのコーヒー屋さん」として地域との接点をもっています。小商いを営むときには、「建築家」という肩書きが外れます。肩書きとは不思議と、相手(対象)とのコミュニケーションを変えてしまう力をもっているのか、「まちのコーヒー屋さん」として店先に立ち続けていると、「建築家」としての視線から、今までの日常の風景が反転して見え始めるような感覚を得ました。「消費して使う」まちから「自分たちでつくり出す」まちへと意識が変化したのです。
本書では「小商い×建築」がつくり出す場所やできごとが、1人の意識からまちの未来までをどのように動かしていくのか、あらゆる背景や規模において様々な立場で関わるそれぞれの声と実践の状況を、できるだけリアリティをもって描いています。小商いやシェア店舗などという言葉を最近よく耳にし始め、実際どのような効果が起こり得るのか知りたい不動産オーナーも多いのではないかと、そのような方、そして建築関係者を念頭にまとめました。
Part. 1「小商い建築ができるまで」では、小~中規模の集合住宅に小商いスペースが付いた建築事例をピックアップ。大家へのヒアリングを中心に設計者や小商いプレイヤーたちとの共同作業で小商い建築がつくり出されるプロセスを描きます。
Part.2「建築家たちの小商い」では、日頃、場を設計し用意する人がいち小商いプレイヤ ーとしてどのような思いで運営に取り組むのか、実践による気づきを見て取ることができます。
Part.3「小商い建築で事業にトライ」では小商い建築が事業としてどのように成り立っているのか、事例を通して分析。
Part.4「小商い建築でまちに向かって渦をつくれ!」ではデベロッパーが仕掛ける開発において、小商い建築がどのような期待のうえに始まり、効果を生み出していくのかを探ります。
小商い建築とは、店舗機能が付いた建物というだけではありません。働くことと暮らすことがその土地にどう交わり根付くことができるか、そこに関わる人々がどのような人生を描き、そのエネルギーがどのようにまちを動かしていくのか。1人ひとりの営みが社会をかたちづくることのリアリティと可能性から共感の渦が起こることを期待しています。
上記内容は本書刊行時のものです。