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自滅する大都市
制度を紐解き解法を示す
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年1月25日
- 書店発売日
- 2021年1月26日
- 登録日
- 2021年1月6日
- 最終更新日
- 2021年3月26日
紹介
深刻なヒートアイランド現象、震災で甚大な犠牲者が予測される木造密集地域、雨水とともに河川に流出する排泄物や生活排水。日本の都市の住みにくさは、戦後から現代までに制定された法規制が、利権や思い込みにより是正されないことが原因だ。
本書ではそれらの弊害を明らかにしながら、都市の「解剖・病理・モデル・治療」といった観点から4つに章を分け、疑問と回答という形式で、近・現代史ほか様々なデータを引きつつ人間のための住み良い都市のかたちを提言する。
都市再生は制度見直しに知恵を絞ることによって可能で、巨額の公共投資は必要としない。
東京五輪やIR、スーパーシティ構想への提言も。
目次
【目次】
第一章 いまの都市のかたち・・・どうしてこうなった?
Q1 戦後、木造戸建てが主流になった理由は?
Q2 なぜ木造住宅密集地域が広がったままなのか?
Q3 どうして沿道に、中高層ビルが壁のように建ち並ぶのだろうか?
Q4 最近、タワーがどんどん建つのはなぜ?
Q5 どれだけ道路を整備しても、渋滞がなくならないのはなぜだろうか?
Q6 道路が町境なのは、当たり前なのか?
Q7 東京が一極集中になったのはなぜ?
Q8 大都市が現在のかたちになったのは、業者の目先の利益のため?
第二章 都市が壊れる・・・このままで長続きするのか?
Q9 木造密集地域での地震火災はどれくらい危険なのか?
Q10 猛暑日が増えたのはなぜ?
Q11 高層ビルの圧迫感は、金額換算してどれくらいの不利益を与えているか?
Q12 地域のつながりが失われることの不利益は?
Q13 標準世帯って何?
Q14 延焼遮断帯は本当に防災に役立つのか?
Q15 都市空間は十分に活かされているか?
Q16 戸建てが建て込んでいるのに、なぜ都市空間に無駄があるのか?
Q17 車が道路空間を無駄遣いしていないか?
Q18 日本の都市広場から失われたものは?
Q19 公有地は誰のものなのか?
Q20 施設補助だからうまくいく?
Q21 都市集積の利益は誰の手に?
第三章 江戸の都市に学ぶ・・・コンパクトな緑化都市の姿
Q22 町家では内と外をどのように分けていたのだろうか?
Q23 江戸は核家族主体で職住分離の形式だったのだろうか?
Q24 江戸の道は、実質的に誰が管理していたのだろうか?
Q25 江戸の町人50万人を統治していた役人の人は?
Q26 江戸の貧困対策は?
Q27 江戸は緑化都市だった?
第四章 未来の都市を探る・・・パーツを見直し制度を改める
Q28 木造密集地域の不燃化は、本当は無理なのでは?
Q29 違法建築でも不燃化できるのか?
Q30 財政負担なく、共同建替えを促す方法はあるのだろうか?
Q31 大都市を低層化したら、いたずらに都市圏が拡大するのではないか?
Q32 共同建替えをしても、やっぱり街並みは整わないのでは?
Q33 人間優先で道路を管理する方法は?
Q34 現代の都市では相互扶助は期待できるのか?
Q35 都市は格子状でないといけないのか?
Q36 巨大資本でなければ、市街地再開発はできないのか?
Q37 町は株式会社化に馴染まない?
Q38 社会保障を、機関補助から人的補助に転換できるか?
Q39 ベーシックインカムにして財政は成り立つのか?
Q40 国の果たすべき役割はどうなるのか?
TOPICS
東京五輪に公益性はあるのか?
IRは都市に必要か?
都市マネジメントの視点で捉えた新型コロナウィルス感染症対策
スーパーシティ構想は、都市創生の切り札か?
前書きなど
はじめに
日本ではこの国に住む7割近くの人びとが都市に集まり、暮らしています。都市は日々、心地よく暮らし、活き活きと仕事をして、出会いや遊びや楽しみをもたらす場であってほしいと誰もが思っているでしょう。
しかし実際には、こうした願いは適えられていません。暮らしは高くつき、長時間通勤で疲れ果てナイトライフどころではなく、道は車優先で歩きづらく、酷暑に悩まされ、緑も乏しく、木造家屋は地震火災に見舞われる可能性が極めて高いといった具合で、都市生活者の生活満足度は決して高くありません。より良い生活のために人びとが努力と工夫を重ね、官民一体で都市再生に本腰を入れ、建設・不動産業者も力を尽くしているのに、どうしてうまくいかないのでしょうか?
調べていると、どうも迷信ともいうべき思い込みから制度的な枠組みができ上がり、利害が絡んで直せなくなっていることが原因に思われます。思い込みとは例えば以下のようなものです。
・都心ほど地価が高いので、都心はオフィス街、郊外は住宅街として同心円状に都市は構成するべきもの。
・国土が狭いから、巨大な高層建築で都市を構成しなければならない。
・お互いに迷惑にならないように、区域と建物を 住居、商業、工業など用途で区分する。
・社会的再生産のために、夫婦と子どもからなる標準世帯を主として住宅を整える。
・理想は庭付き一戸建て。日本の気候では木の家が一番だ。
・道路は効率と安全のために車優先で整備しなければならない。
・道幅をとって沿道にビルを並べれば、延焼は止められる。
・生活保障は政府に任せておけばよい。
こうした迷信の裏には、分け隔ての発想が隠れています。そして制度として固定され、迷信はやがて「子どもの遊び場がなくなった」「車がないと生活が成り立たない」など人々の身体行動を制約し、「結婚・マイホームで一人前」「単身男性には住宅ローンの審査が厳しい」「隣人の顔を知らない」「一流企業の都心のオフィスがいい」と人びとの価値観にまで沁み込んでいきます。そしてこの歪んだ制度の下では、それぞれが力を尽くすほど、著しい外部不経済と不公平がもたらされることになります。こうして都市は自滅していきます。
厄介な迷信を振り払うには、その論拠を見定めて、事実に基づいた分析によってこれを検証することです。現在の都市をかたちづくる建築類型を見出し、その制度的背景を探るといった解剖的手法。こうした制度がつくった都市が引き起こす、外部不経済を分析する病理研究。このような分析と江戸の都市モデルを照らし合わせることで、治療法、すなわち人間のための都市として再生させる手立てや制度のあり方も自ずから見えてきます。
本書では、以上のような解剖・病理・モデル・治療といった観点から4つに章を分け、全部で40の問題と解答を用意しました。読み進めるうちに都市に関わるリテラシーを備えて迷信が振り払われ、人間のための都市、分け隔てのない社会という本筋に戻り制度が改められる助けになるのであれば幸いです。
上記内容は本書刊行時のものです。