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琉球・沖縄寄留民の歴史人類学
移住者たちの生活戦術
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年2月20日
- 書店発売日
- 2022年2月28日
- 登録日
- 2022年2月2日
- 最終更新日
- 2022年2月28日
書評掲載情報
2022-07-15 |
図書新聞
3552号 評者: 武井基晃(筑波大学人文社会系准教授) |
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紹介
18世紀から20世紀にかけての琉球・沖縄社会において断続的に生み出されてきた、居住人や寄留民と呼ばれる移住者の歴史経験に着目し、社会のなかで「正規の」制度的な位置づけをもたなかった人びとや、権力が規定する秩序からはみ出したり、あるいははじき出されたりした人びとが、どのような社会関係をつくってきたのかを考察した学術的成果。
「きょうだい」を論じることで、従来の歴史学および文化人類学的なアプローチでは捉えられなかった階層文化としての琉球/沖縄像を提示する。
目次
序章 なぜ寄留民を研究するのか
1、研究の目的と背景
2、ポリティカル・エコノミー研究と親族研究
3、本書の構成
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第I部 居住人を生み出した琉球王国──近世
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第1章 上層士への道
1、地頭の種類と人数
2、不安定な地頭
3、地頭になった経緯
4、上層士の〈父系出自〉と〈家〉
第2章 中・下層士の経済基盤
1、給与と役職の体系
2、役職の安定度
3、旅役と心附役における役得
4、士の流動性
第3章 王府組織を生きた兄弟たち
1、麻氏十一世の兄弟
2、臨時役時代と兄たちの支え
3、晩年の出世と戦略
4、中・下層士の戦術と兄弟
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第II部 制度改変のインパクト──近代移行期
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第4章 王府解体と屋取の形成
1、近代沖縄の士族
2、明治政府による秩禄処分
3、無禄士族の行方と屋取形成
4、制度の外の屋取形成
第5章 土地制度と屋取
1、地割制下の居住人
2、私有地を獲得した居住人
3、土地制度の改変と寄留民
4、制度的拘束と屋取
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第III部 〈きょうだい〉の民族誌──近現代
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第6章 士族系寄留民の生活戦術
1、問題の所在と対象
2、〈きょうだい〉を結びつける文化的規範
3、屋取の経済的展開
4、個人の努力と〈きょうだい〉
5、近代的状況における〈きょうだい〉
第7章 百姓系寄留民と屋取
1、屋取の景観
2、屋取の空間的展開
3、〈きょうだい〉を基点とする地域集団
4、士族・百姓屋取と〈きょうだい〉
第8章 糸満漁民の開拓戦術
1、移住者の流動的状況からの秩序形成
2、移住と村落形成の歴史
3、二十世紀前半の「門」における〈きょうだい〉世帯
4、開拓推進の核としての〈きょうだい〉
5、門中の論理と〈きょうだい〉の論理
6、実践の結果としての秩序
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終章 体制的秩序からはみ出すこと、二者が対等につながること
1、階層文化としての親族
2、〈門中のイディオム〉と〈きょうだいのイディオム〉
3、寄留民の歴史人類学
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補論 東アジア親族研究史――〈父系出自〉〈家〉〈きょうだい〉で捉える親族
1、東アジア親族研究と国家
2、戦略としての親族──〈父系出自〉〈ネットワーク〉〈家〉
3、戦術としての〈きょうだい〉
4、寄留民の戦術としての〈きょうだい〉
注
参考文献
あとがき
索引
前書きなど
《社会の中で「正規の」制度的位置づけを持たなかった人びと、権力が規定する社会秩序からはみ出し、はじき出された人びと。そのような人びとが権力とどう関わり、どのように生き、どのような社会をつくってきたのか。これが本書を貫く問いである。
具体的には、18世紀から20世紀にかけての琉球・沖縄社会において、断続的に生み出されてきた居住人(チュジューニン)、寄留民(キリューミン)と呼ばれる移住者の歴史経験に着目する。居住人・寄留民とは、故地を離れて別の場所に移住して定着した人びととその子孫を指す。彼・彼女たちは、最初の移住から数世代を経てもよそ者とみなされ続け、体制的な秩序の外や境界で生きてきた。とはいっても、秩序からはじき出されただけの受け身の存在ではなく、独自の生活の実践を積み重ねる中で自分たちの集落、屋取(ヤードゥイ)を形成したケースも多い。既存の秩序からはじき出されながらも、独自の社会空間的な秩序をつくってきたのである。
本書の目的は、居住人・寄留民をはじき出した秩序(体制的秩序)と、居住人・寄留民がつくり出した秩序(寄留民的秩序)の二つを捉え、これらの秩序の形成過程を現地調査と史料分析によって歴史的に明らかにすることである。この目的を果たすために三つの課題を設定する。第一に、居住人・寄留民が生み出された政治経済的コンテキストを明らかにすること。第二に、屋取が形成された政治経済的コンテキストを明らかにすること。これらを踏まえて第三は、階層ごとに異なる社会戦略・戦術の特徴を明らかにすることである。
抗いがたい大きな歴史の流れの中で生きた居住人・寄留民の歴史経験をひもとくことは、権力や社会構造が個人の生き方をどのように規定したかを明らかにすると同時に、権力や社会構造に完全には組み込まれない個人や集団の主体性と自律性を明らかにすることでもある。本書は、社会と個人のダイナミックな関係性を、長期的な歴史の中で捉える歴史人類学的研究である。
研究の時間枠組みは、近世琉球の基本的な制度が出揃った18世紀初めから、寄留民の生活スタイルが大きく変化しはじめる1950年代までを中心とする。3世紀にわたるこの期間は、一般的に「近世」「近代」「現代」と区分される。これは、政治体制の転換とそれに伴う大きな社会変動を指標とした区分であるが、居住人・寄留民の歴史経験からみると、ある種の連続性が認められる。本書では、何が持続して何が変化したのかに注目しながら、居住人・寄留民の歴史経験を捉える。それによって明らかとなるのは、歴史学的な沖縄研究では見えなかった新しい琉球・沖縄史像と、これまでの文化人類学的沖縄研究が捉えてこなかった階層文化としての親族である。》
――序章より
上記内容は本書刊行時のものです。