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実践に学ぶ 特別支援教育
ASD児を中心とした情緒障害教育の成果と課題、そしてこれからの姿
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年7月
- 書店発売日
- 2017年7月10日
- 登録日
- 2017年4月13日
- 最終更新日
- 2018年5月11日
紹介
学校現場では、友達関係を中心とした対人関係の問題、また、落ち着きのなさや忘れ物など行動調整にかかわる問題のために、通常の学級での適応が困難になっている子どもたちがいます。おもにASD(自閉スペクトラム症)、そしてADHDの特性をもつ子たちです。本書は、ASD児を主たる対象とした情緒障害教育半世紀を振り返ってその成果と課題を明らかにし、引き継ぐべき教育の姿を提示するものです。研究者や医者とは異なる実践家の視点で、その子の将来のために今行うべき適切な指導内容と方法を伝えます。
目次
はじめに
年表●ASD(自閉スペクトラム症)児等の教育
ASD(自閉スペクトラム症)の呼称について
第1部 小学校情緒障害教育の歩み
1 黎明期―1965年~1975年
2 積極的指導の広がり―1976年~1985年
3 発達障害概念の拡大―1986年~2006年
4 特別支援教育へ―2007年~
5 歩みの成果と課題―今後に向けて
第2部 今後への期待―引き継ぎたい教育の姿
その1 対象児の実態把握と支援計画
1 入級・入室相談
モデル① 実態把握票
2 教師が把握する子どもの実態
3 教育計画
モデル② 通級指導学級のねらいと指導内容
4 指導形態の意義・目的を意識する
その2 指導の実際
1 言語・コミュニケーション、言語概念の指導
実践例① 言葉の時間:こんなときどうしよう
実践例② 言葉の時間:皆の心をつかむのはどっちだ!? ディベート大会!!
実践例③ 分数の学習における言語の概念指導
2 ソーシャル・コミュニケーションの指導
実践例④ 自己理解・他者理解の一連の指導から
3 感覚・運動の指導
実践例⑤ 動作模倣・サーキットトレーニング・リトミック
4 認知の指導
実践例⑥ 行動調整・プランニング能力向上の指導「立体作品を作ろう」
5 読み書き障害や読み書きのつまずきへの対応
実践例⑦ つまずきの背景にある障害特性に着目した読み書きの指導1
実践例⑧ つまずきの背景にある障害特性に着目した読み書きの指導2
実践例⑨ つまずきの背景にある障害特性に着目した読み書きの指導3
6 個別場面でも小集団でもできる感覚・運動の指導
実践例⑩ 室内の調度品を利用したミニサーキット
実践例⑪ ちょっとした工夫で展開できる活動、教材・教具
文献リスト
協力者一覧
まとめにかえて
前書きなど
1969年、東京都杉並区立堀之内小学校に通級制の情緒障害学級が開設され、わが国の公立学校における情緒障害教育がスタートしてから、50年経とうとしています。当初から、小学校における情緒障害教育は、ASD(自閉スペクトラム症)児を中心とした発達に偏りのある子どもたちへの教育の場として発展してきました。東京都に続いて他の道府県でも情緒障害学級が開設され、多くの地区で、東京都と同様に「親子学級方式」で指導が始まりました。
この間、医療技術の進歩にともない、ASDの概念は大きく変わり、文部省・文部科学省、教育委員会や現場の教員たち、障害児の療育関係者もその影響を受けてきました。一方で、教育と他の領域の人たちの違いは、症状みるのではなく、人をみるということでしょう。研究者の緻密な研究、医療現場での多彩な症状をもとにした諸説には、説得力がありますが、ときとして、「木を見て森を見ず」という傾向が出ることも否めません。
ASDの概念が変わったり、教育システムが変化したりして、対象となる子どもたちの状態は、大きく様変わりしましたが、今日においても小学校の情緒障害教育(特別支援教育)の中心は、ASDやADHDなど、発達に偏りがある子どもたちであることには変わりありません。状態像が大きく変化してきた背景には、乳幼児期からの適切な療育の成果が影響していると考えられます。同時に脳の研究の飛躍的な進歩により、障害特性をつかみやすくなり、治療や教育の可能性も広がりました。また、間接的ではあっても、症状を緩和できる薬物の開発も進み、保護者も療育関係者も教員も、子どもへの対応がしやすくなってきたといえます。
ここにきて、「発達障害」という概念が非常にあいまいになっています。特に教育においては、現象にとらわれて目立つ部分に注意が集中してしまい、人としての全体像を見失ってしまったり、症状形成の背景をみなかったりする風潮が強まっている実態があります。
文部科学省や東京都教育委員会は、通常の学級に在籍する「発達障害児」が6%強おり、そのうち「教科学習に困難がある者」が半数以上を占め、「教科の補充指導」を行うことにより、適応状態の改善が期待できると考えているようです。しかし、通級指導や巡回指導を望む子どもたちのなかで、学習上の困難がある子どもはごく少数です。学校現場では、友達関係を中心とした対人関係の問題、落ち着きのなさや忘れ物など行動調整にかかわる問題のために、通常の学級での適応が困難になっている子どもたちが多いと実感しています。教育は、一時的な成果で「結果が出た」といえるようなものではありません。子どもたちの将来の姿を見通して、今必要なことを、適切な方法で指導することこそが重要なのです。
長く自閉症研究と実践に携わった者として、これまでの約半世紀を振り返り、情緒障害教育の成果と課題を明らかにし、これからの教育の充実に寄与したいと考えました。研究者や医者などの立場とは違う、実践家の視点で、これからの情緒障害教育(特別支援教育)の何らかのヒントとなるものを届けたいと願い、本書を作成しました。
2017年5月
編者 水野 薫
関連リンク
http://honnotane.com/
追記
編者の水野薫先生の講演についてのお知らせ
2017年7月27日(木)10時より 帝京平成大学 冲永ホール
全国情緒障害教育研究協議会50周年記念東京大会で 演題「発達障害教育における指導者の専門性とは」の記念講演があります。
上記内容は本書刊行時のものです。