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通説に挑む文学教材の研究 高校篇
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年9月
- 書店発売日
- 2016年9月1日
- 登録日
- 2016年7月22日
- 最終更新日
- 2016年9月1日
紹介
「山月記」は、新人作家をめざして三年間妻子を放置した中島敦の懺悔録である。精緻な読みで、森鴎外「舞姫」や井伏鱒二「山椒魚」など定番教材に関する通説に挑む十三篇。
目次
第一章「舞姫」の構図――引き裂かれた愛の悲劇――
第二章 堀辰雄「曠野」――古典と西洋の融合――
第三章 太宰治「貧の意地」――西鶴のパロディー――
第四章 太宰治「女賊」の位相――戦略としての西鶴の翻案――
第五章 中島敦「山月記」――自画像としての李徴――
第六章 中島敦「弟子」――游侠の魂――
第七章 中島敦「李陵」――人間と運命――
第八章 井伏鱒二「山椒魚」――結末の改訂――
第九章 井伏鱒二「遙拝隊長」――村の力学――
第十章 井伏鱒二『漂民宇三郎』 ――村社会からの離脱――
第十一章 宮本輝『螢川』の生成――父の発見――
第十二章 現代詩の鑑賞と指導・会田綱雄
第十三章 現代詩の鑑賞と指導・黒田三郎
前書きなど
本書では文学研究の立場から高校教科書の文学教材に関する通説を検証し、より適切な読みを提案する。たとえば、「舞姫」の太田豊太郎は出世のために恋人エリスを発狂させ、しかもその背徳を親友相沢謙吉へ転嫁するかに見える。そのため、大変評判が悪い。豊太郎は許せない、ひどい男だと糾弾する授業になりかねない。しかし、『国民之友』(明治二三年一月)掲載時には、「我がかへる故郷は外交のいとぐち乱れて一行の主たる天方伯も国事に心を痛めたまふ……」という一節があった(後に削除)。
天方伯爵は国を揺るがす条約改正問題に悩み、諸外国との交渉に備えて、外国語に堪能な豊太郎を随行員に加えて帰国しようとした。それをうけて、天方の秘書官相沢は豊太郎とエリスの仲を引き裂いた。舞姫(踊り子)は売春もするので西洋では蔑視されており、外交官の妻にふさわしくないからである。エリスは豊太郎と正式に結婚して、踊り子という蔑まれる身の上から脱出しようと願ったが、条約改正という国策の犠牲になったと見ることができよう。本来は、引き裂かれた愛の悲劇として読むべきではなかったか。本書では、そのように新たな読みを提案していく。
本書の中心となるのは、『月刊国語教育』(東京法令出版、一九八一年―二〇一一年、通巻三七二号で休刊)に連載した論考である。「古典と近代文学」(一九九二年四月―九月)、「現代詩の鑑賞と指導」(一九九三年四月―九月)、「中島敦の世界」(一九九五年五月―一〇月)、「井伏鱒二の世界」(二〇〇〇年四月―九月)などを連載した。「山月記」や「山椒魚」など近代の名作をわかりやすく解説し、教材を読み解く基礎となるように努めた。
私は宮城教育大学で主に近代文学の講義や演習を担当し、相澤秀夫教授と国語科教育法を分担した。相澤教授が「国語科教育法Ⅱ」で具体的な授業の進め方を教え、私は「国語科教育法Ⅰ」で文学教材の読み方を教えた。どう教えるかの前に、どう読むかを考えよ。そこから適切な発問も生まれる。教師用指導書には誤りが多いので、安易に頼るな。自力で教材を読み解く教師をめざせ、と指導した。それが本書の背景となっている。
なお、本書の姉妹篇として『通説に挑む文学教材の研究(中学篇)』(鷗出版)も刊行した。中・高教材の芥川龍之介「鼻」や茨木のり子の詩「わたしが一番きれいだったとき」を中心としている。いずれも適切に読まれてこなかったし、研究にも誤りがある。教師用指導書の解説にも誤読や盗用があることを指摘した。合わせて読んでいただければ、幸いである。
各論考の初出や原題はそれぞれの末尾に付記した。旧漢字・旧仮名遣いの文章を引用する場合は、漢字のみ新字体に改めた。原文にルビがない場合でも、難解な語句や人名などには便宜的にルビを付けた。(「まえがき」より)
上記内容は本書刊行時のものです。