書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
通説に挑む文学教材の研究 中学篇
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2016年9月
- 書店発売日
- 2016年9月1日
- 登録日
- 2016年7月22日
- 最終更新日
- 2016年9月1日
紹介
芥川龍之介「鼻」や茨木のり子の詩、西鶴などを精緻に読み、戦後の読みの授業を主導した一読総合法や文芸研方式を検証し、教師用指導書の独断と盗用を告発する十二篇及び付録二篇。
目次
◆第一部 文学研究と教材研究の架橋
第一章 鴎外文学の新しい読み――「最後の一句」と「寒山拾得」――
第二章 芥川龍之介「鼻」の構図
第三章 二つの「鼻」の授業――西郷文芸学への疑問――
第四章 芥川龍之介「蜘蛛の糸」の独自性
第五章 芥川龍之介「六の宮の姫君」ノート――古典の変容と再生――
第六章 西鶴「小判のゆくえ」の授業――一読総合法の暴走――
第七章 「ちいちゃんのかげおくり」の方法と基底――あまんきみこの戦争児童文学――
◆第二部 茨木のり子研究から見る欠陥指導書
第一章 茨木のり子ノート
第二章 茨木のり子と戦争
第三章 茨木のり子とルオー
第四章 現代詩の鑑賞と指導・茨木のり子
第五章 教師用指導書の独断と盗用
◆付録一 筑波大学附属中学校見学記/付録二 アメリカ作文教科書の特徴とその影響
前書きなど
本書では文学研究の立場から中学教科書の文学教材に関する通説を検証し、より適切な読みを提案する。第一部「文学研究と教材研究の架橋」は、読みを深めるためには文学研究と教材研究の交流が不可欠だという立場で述べた。その中心は芥川龍之介「鼻」(中・高教材)の読みである。これは長い鼻の持ち主、禅智内供の悲喜劇を描いた短篇である。長い鼻をゆでて短くした内供は周囲の露骨な嘲笑に傷つくが、鼻が元に戻って安堵する。
西郷竹彦氏(文芸研)は「芋粥」の貧しい五位には同情すべきだが、偽善者の高僧内供には同情すべきでないと言う。結末では長くなればまた笑われる、という意地悪な期待を読者は抱かざるをえないと解釈する。ところが、文芸研に属する教師の授業で、ある中学生が長い鼻にもどった時の「ほとんど、忘れようとしていたある感覚が、再び内供に帰ってきたのはこの時である。」について、「本当の自分の帰ってきたような感覚」と読んだ。内供は生来の自己を発見したのである。それは西郷氏や文芸研の教師たちを超えており、文芸研方式の読みの限界を露呈している。
芥川は「鼻」「羅生門」など『今昔物語集』に取材した歴史小説で有名になったが、古典をどう利用しているのか。「蜘蛛の糸」(小・中教材)や「六の宮の姫君」も取り上げ、芥川の方法を解明した。
さて、文芸研方式と一読総合法は戦後の読みの授業を大きく変えた。一読総合法を検討するために、田島伸夫氏の西鶴「小判のゆくえ」の授業を取りあげた。貧乏浪人たちの宴席で一両紛失し、上座の者から帯を解いて潔白を証明する。偶然一両持っていた者が切腹して疑いを晴らそうとすると、誰かが一両投げ出して救った。この話は従来、武士の義理人情の美しさを描いたものとされた。だが、田島氏は一両投げたのは友を救うためではなく、小判のゆくえを追及する中で身を守るためだと解釈し、封建体制に縛られた浪人たちから義理のばかばかしさを読みとった。それは画期的な読みにも思われるが、内助たちは単なる貧乏浪人ではない。「流行遅れの朱ざや」を差す無法な六法者であった。そこから全面的に読み直し、一読総合法の問題点を明らかにする。
ところで、あまんきみこの「ちいちゃんのかげおくり」は小学校教材だが、戦争を再び起こしてはならないという願いが根底にある。それは、第二部で取りあげる茨木のり子の願いとも共通している。
第二部では、茨木のり子の詩「わたしが一番きれいだったとき」(中・高教材)について、詩人からの書簡もふまえて総合的に探究した。それにもとづき、教師用指導書(東京書籍、中学二年)の解説が独断にすぎないことを実証した。同じ詩を扱う三省堂の指導書(中学二年)は、私の「現代詩の鑑賞と指導 茨木のり子ノート」(『月刊国語教育』一九 九三年四―五月)の盗作であることも論文で告発した。すると、両社はこっそり指導書を改めた。そういう危険なものを信用してはいけない。私自身も若い時、指導書を盲信して高校の「鼻」の授業で失敗したことがある。
付録の「筑波大学附属中学校見学記」では、優れた読書教育を紹介する。「アメリカ作文教科書の特徴とその影響」では、言語技術としての作文教育がすでに国語教科書に波及している現状を報告する。
各論考の初出と原題はそれぞれの末尾に付記した。旧漢字・旧仮名遣いの文章を引用する場合は、漢字のみ新字体に改めた。原文にルビがない場合でも、難解な語句や人名などには便宜的にルビを付けた。
なお、本書の姉妹篇として『通説に挑む文学教材の研究(高校篇)』(鷗出版)も刊行した。定番教材の森鷗外「舞姫」や中島敦「山月記」、井伏鱒二「山椒魚」などを取りあげた。教材を深く読むという点では共通しているので、合わせて読んでいただければ幸いである。(「まえがき」より)
版元から一言
口絵に茨木のり子からの著者宛のハガキ・書簡をカラーで収録。
上記内容は本書刊行時のものです。