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しかし、誰が、どのように、分配してきたのか
同和政策・地域有力者・都市大阪
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年3月
- 書店発売日
- 2016年4月29日
- 登録日
- 2016年4月7日
- 最終更新日
- 2021年9月1日
紹介
地域有力者による「まとめあげ」
――――「厄介」な分配問題をめぐって ――――
「自助」「自立」「扶養」などを基調とする日本の福祉においては、人々にお金やモノなどの資源を分配するさい、地域有力者による「まとめあげ」が、戦後も引きつづき行なわれてきた。地域において、お金やモノなどを、誰に、どれだけ分配するかをうまく調整し、実際に差配できたのが、この地域有力者なのである。とりわけ、五五年体制以降の自民党政権は、戦前から続くこの「まとめあげ」を、セーフティネットに見せかけた経済政策として、たえず乱用してきた。
しかし、このような「まとめあげ」は、ほんとうに支援が必要な人に、資源が分配されにくい地域対策であった。戦前がそうであったように、人々は、自分や家族や仲間の生存がおびやかされれば、地域有力者にすがるしかないのである。ふるいにかけられ、「まとめあげ」からこぼれおちてしまった人々は、徹底的に差別されながら、活〔い〕かさず殺さずの困窮を強いられることになる。そして、生活困窮者がとりのこされつづける場所として、「地域なるもの」が形成されていくのである。そのため、「スラム化 → 地域対策 → 再スラム化 → 地域対策」という、悪循環をたどったのだ。
とはいえ、地域有力者による「まとめあげ」に対して、「既得権だ!」といった浅薄な批判を投げつけるだけでは、わたしたちは、この悪循環をすこしも改善できないことも確かである。まずは、とりのこされた地域をめぐる政策や対策の歴史について、わたしたち一人ひとりが、知り、学び、語りあうことから始めるほかないであろう。「まちづくり」のただなかにいる住民たちによって、何が問われ、何が問われなくなってしまったのかを、あらためて問い直す必要があるのだ。
もし、強権的な政治手法に「厄介な分配」を丸投げする安易さに流されれば、わたしたちは、超高齢社会と住宅老朽化にともない、既視感のある貧困と差別とを、いま以上に経験することになるだろう。
* * *
概 要( 詳しい目次は「目次」をご覧ください。)
◆序 章 本書で述べていくこと
◆第1章 生存保障システムの変遷
身分制度の再編成
部落改善から地方改善へ
生存保障システムの体制化
戦後復興と同和政策
◆第2章 ローカルな生存保障
大阪特有の施策
大阪住吉における生活状態
◆第3章 乳児死亡率の低減
地方改良と融和運動
民間金融のひろがり
公的貸付制度の展開
国家の介入と救済?
◆第4章 再分配システムの転換
摩擦の経緯
一九六二年、摩擦のはじまり
調停者としての天野要
分配方式をめぐる争い
◆第5章 再分配をめぐる闘争
「天野事件」とその背景
「天野事件」の発端と推移
◆第6章 再分配システムの果てに
「住吉計画」の設計思想
高度経済成長という時代背景
不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
◆終 章 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
目次
【はじめに】
【序 章】 本書で述べていくこと
目的と方法
先行研究と本書の課題
大阪における社会政策と社会運動に関する研究
大阪における部落とスラムに関する研究
住吉区に関する研究
住吉部落に関する研究
住吉のまちづくり
本書の構成
【第1章】 生存保障システムの変遷
◆ 身分制度の再編成
前近代の身分制度
近代国家の成立と伝染病対策
近代国家と良民社会の形成
◆ 部落改善から地方改善へ
下からの取り組み
下からの取り組みへの統制
融和政策への政策転換
生存にかかわる問題
大阪における施策
地区改善事業
◆ 生存保障システムの体制化
暗黒時代へ
融和政策の展開
◆ 戦後復興と同和政策
「五五年体制」における同和対策
【第2章】 ローカルな生存保障
◆ 大阪特有の施策
大阪・部落・スラム
部落改善事業から地方改善事業へ
地方改善部から中央融和事業協会へ
隣保事業の展開
国家総動員体制――融和事業から同和事業へ
◆ 大阪住吉における生活状態
『都市部落の人口と家族』
「都市的性格」としての社会移動
住吉地区における乳児死亡率
【第3章】 乳児死亡率の低減
◆ 地方改良と融和運動
地方改良
米騒動と住吉
住吉では水平社ができなかった
住吉仏教青年会
地方改善地区整理事業
◆ 民間金融のひろがり
◆ 公的貸付制度の展開
大阪の社会事業と公的庶民金融
大阪庶民信用組合
市設質舗
質屋ニ関スル調査
質屋ト金貸業
市設質舗の利用状況に関する調査
愛隣信用組合
◆ 国家の介入と救済?
融和事業一〇ヵ年計画
大阪住吉における融和運動
町内会・部落会の大政翼賛会への編入
【第4章】 再分配システムの転換
◆ 摩擦の経緯
◆ 一九六二年、摩擦のはじまり
◆ 調停者としての天野要
住吉部落との関係
その人物像
住吉連合町会長という役割
◆ 分配方式をめぐる争い
【第5章】 再分配をめぐる闘争
◆「天野事件」とその背景
事件に至るまで
「問題」の拡大
◆「天野事件」の発端と推移
事件の始まり
闘争の拡大
【第6章】 再分配システムの果てに
◆「住吉計画」の設計思想
反都市としての共同体の想像
スクラップ・アンド・ビルド
◆ 高度経済成長という時代背景
二重構造の中での部落エリア
戦後レジームにおける生存をめぐる政策
不良住宅改良事業の継承
対象者の困難な選定
対象エリアの拡大
住宅建設・教育問題・売春防止・授産所建設
◆ 不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
地域における福祉問題の再発見
隣保館の復活と機能強化
同和事業の効果測定
住居と福祉の関係
福祉と部落問題
部落と医療問題
【終 章】 支援を必要とする人のために――戦後部落解放運動を問い直す
註/ 文献一覧/ あとがき/ 索 引
前書きなど
(「まえがき」より一部を抜粋)
最初に、本書を書くに至った経緯について簡単に述べておきたい。筆者(矢野)は、約15年前から、大阪の部落――とくに都市型部落の典型として位置づけられてきたエリア――のなかで、識字学級などの活動をおこなってきた。同時に、この地域の人びとが直面している問題がいったい何なのかを言葉にするために、調査やフィールドワークをしてきた。
2002年3月、いわゆる同和対策特別措置法の期限が切れ、各地で同和事業の中止・削減がはじまっていく。これにともない、住民の生活やそこに関与してきた人びとの活動に、急激な変化が生じたのである。
なかでも、生活不安定層(高齢者、障害者、母子家庭の人びと)の暮らし向きが悪化していった。当時、ある高齢の方から、「なぜこんなに急に生活がきびしくなったのか」という悲痛な言葉をぶつけられ、答えられず、悩んだ。以来、これほどおおくの人びとの生存に影響を与えてきた同和政策とは、いったい何だったのか、という問いを、避けて通ることができなくなった。[中略]
というのも、部落地域(とくに都市型部落)は急激な構造変動の渦中にあり、一人ひとりの個人の生存も、生存それ自体も、否応なく危機にさらされ続けているからである。この事態は、人びとが自分自身が置かれている状況を語ったり意味づけたりすることを、困難にしている。つまり、生存にかかわる共同性それ自体を形づくり維持していくことが難しくなっているという事態である。
こうした切迫した課題からみても、やはり、部落という空間とそこで生きざるをえない人びとに深く関与してきた政策と運動とは、いったい何だったのかを、あらためて問いなおさねばならないだろう。
上記内容は本書刊行時のものです。