書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
地熱地質調査と生産井掘削ターゲット
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年5月1日
- 書店発売日
- 2019年6月1日
- 登録日
- 2019年6月29日
- 最終更新日
- 2019年6月29日
紹介
2011年の福島第一原子力発電所事故以来,再び地熱開発が盛んになっている。しかし,地熱開発の最大の問題は,高額な投資をして掘削した坑井が不成功に終ってしまうことである。掘削を成功させるためには掘削ターゲット選定が重要であり,その前段の地熱地質調査が欠かせない。
本書では,国内外で100坑井以上の地熱井掘削に携わった佐藤浩(元・日本重化学工業取締役)が,50年の実務経験に基づき,生産井掘削ターゲット設定の考え方を余すことなく示している。地熱関連の実務者のみならず,再生可能エネルギーに興味を持つ一般・学生の読者にも手に取っていただきたい一冊である
目次
まえがき
用語、略語および記号
第1章 断裂と透水性についてーーーーーーー
1.1 断裂と透水性についての基礎知識
1.2 既存坑井の断裂と透水性 ~NEDOの促進調査に基づいて~
1.3 断裂の一般的な様式
1.4 断層の種類と透水性
1.5 火成活動に伴う断裂と透水性
1.6 その他の各種断裂
1.7 地熱構造と地熱系
1.8 kh=10-12m3以上の地域とkh =10-13m3以下の地域との違い
第2章 地熱井の少ない地域での地熱地質調査と掘削ターゲットーーーーーー
2.1 地質図と断裂系解析
2.2 変質帯調査・流体包有物調査
2.3 地質構造発達史(熱史)の構築
2.4 各種調査と地質との対比
2.5 掘削ターゲット選定、その1
第3章 地熱井(調査井)がある地域での地熱地質調査と掘削ターゲット ーーーーーー
3.1 既存掘削データの解析
3.2 地質図、地質断面図の修正および変質帯断面図の作成
3.3 坑井内の諸調査
3.4 坑井内データによる物理探査の再解析および追加調査
3.5 地熱系モデルの作成
3.6 掘削ターゲットの選定、その2および掘削中の対応
第4章 kh=10-12m3以上の地域の代表的な事例ーーーーーー
4.1 北海道地方
4.2 東北地方、湯沢雄勝地域
4.3 九州地方、豊肥地域
4.4 じょうご型カルデラ地域
引用文献
あとがき
索引
前書きなど
2011年に制定された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(通称:固定価格買い取り制度、Feed in Tariff、FIT )、JOGMECによる「地熱資源開発調査事業費助成金交付事業」「出資・債務保証」および国立・国定公園内での地熱開発規制緩和により、再び地熱開発が盛んになっている。しかし、地熱開発の最大の問題は、高額な投資をして掘削した坑井が不成功に終わってしまうことである。掘削を成功させるためには、掘削ターゲット選定が重要であることは言うまでもない。
現在、すでに地熱エネルギー・ハンドブックを始め地熱に関する秀逸な本が出版されていて、地熱開発に関する大きな方針が示されている。しかし、最近「生産井掘削ターゲット」についてのより突っ込んだ指針が欲しいとの要望に押され、今回本書を執筆するに至った。著者の一人佐藤は、1969年に地熱開発に携わって以来、松川、葛根田1号機、葛根田2号機、森、メキシコ、ラ・プリマベーラなど各地の掘削ターゲット選定に従事してきた。その本数は生産井、還元井および調査井を含め総数100坑井以上である。中には不成功に終わった坑井もあって、堂々と胸を張れるような経験ではないかもしれない。したがって、本書では佐藤の専門とする構造地質学に重きを置いた生産井の掘削ターゲット選定に焦点を当てて執筆した。物理探査や地化学調査などの専門の技術者からみると物足りないと思われる。物理探査や地化学調査などによる掘削ターゲット選定については改めて専門家による出版をお願いしたい。
なお、還元井の掘削ターゲットについては本書では扱わなかった。その理由としては、
・還元する場所としては断裂があって、貯留層圧力が低い(地下水位が低 い)場所を見出さねばならない。しかし、このような場所は地熱貯留層の
縁辺部にあることが多く、断裂が少ないため、生産域を探すよりも難しい。
・日本の地熱地域では狭い範囲内に断裂が集中しているため、還元した地
熱流体が周囲の岩盤から熱を奪って流体温度が上昇するといったプロセ
スよりも、還元熱水が生産域の流体温度を低下させる方が多い。このこ
とは、還元によって貯留層の圧力保持や涵養の効果を把握するのが難し
いことを示唆している。
・地下還元はEGS (Enhanced Geothermal System ; 強化地熱システム) 技術に
結びつくテーマであり、今後の研究・実証が必要な分野である。
したがって、還元については改めてまとめる必要があると考えている。
佐藤の手元に残っていた多くの資料は、退職、転勤、引っ越しなどで散逸してしまい、少ない資料での執筆になってしまう恐れがあった。また、佐藤の経験はどうしても、北海道道南地域を含む東北日本に片寄っているほか、最近の新しい技術や企業のノウハウ収集に疎い傾向にある。そこで、現在共に掘削ターゲット選定に携わっている㈱ニュージェック伊藤成輝氏と佃十宏氏に手伝ってもらった。伊藤氏は地下水・地盤関係の専門家であるが、近年は地化学分野の担当者として、吉田裕博士の協力を得て、現地での温泉・ガスの採取から解析までを行っている。一方、佃氏は物理探査の専門家であるが、比抵抗構造に影響を与える変質鉱物の分析や解析にも精通している。
ところで、地熱開発に携わっている関係者に、「生産井掘削ターゲット」の話をすると、必ず言われることがある。
・100%当たる探査方法はないか。
・面倒くさい基礎知識はいいから、直ちに当たる方法を教えてくれ。
・ターゲット選定に一般化された近道はないのか。 など、いわゆるハウツー(how to)を知りたがる傾向にある。しかし、日本列島の地質は大変複雑で、各地熱地域は特有の地熱系を構成しているので、「必ず当たる掘削ターゲット」のような教科書や手引きを書くことは難しい。地熱掘削ターゲット選定に王道はなく、地道な調査・解析・研究の積み重ねが成功に結びつく鍵となると確信している。
本書を出版するに当たり、常に励まし、各種協力をいただいた地熱技術開発㈱中田代表取締役社長を始めとする社員の方々、および㈱ニュージェックの赤澤司史氏、志田原巧氏に感謝の意を表したい。
2019年5月1日 佐 藤 浩
版元から一言
著者の一人佐藤 浩(さとう こう)さんは地熱エネルギー分野では国内でも有数なエキスパートの一人です。
日本各地にある有望な候補地の中から地熱エネルギーを取り出して利用するというのは、一つとして同じ条件のない自然相手ということもあり、机上の理論よりも実地の経験がものを言うのだと思います。
その経験を後進にしっかりと残して日本の地熱エネルギー開発に貢献したいというのが佐藤氏の本出版の動機だと聞きました。
わたしなどは複雑な数式を見て頭を痛くしながら校正を見たのですが、きっとその道を学ぼうとする方々には、その数式が輝いて見えるのだろうなと想像しながら本づくりをした次第です。
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。