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コロニアリズムの超克
韓国近代文化における脱植民地化への道程
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2007年10月
- 書店発売日
- 2007年10月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
朝鮮半島の近代文化の深層を読む!
過去の植民地の遺産を「隠蔽」し、新たな国民共同体の文化を「構築」しようとする欲望とは、実は、植民地被支配の状況の中で経験した植民地的主体の自己矛盾の延長線上で発生したものである。つまり、植民地以後の韓国文化の「脱植民地化」への企画は、それ自体植民地支配がもたらしたもっとも根深い遺産に他ならない(本書「序」)。韓国の「植民地経験」と「脱植民地化」の相互因果的関係を明らかにした画期的なポストコロニアリズム文化論。
目次
序 脱「植民地的主体」への追求――隠蔽と構築のポリティックス
Ⅰ 翻訳と移植の交差――植民地以前
一 キリスト教文化の受容と「ハナニム」の誕生
二 近代初期韓国作家の言語横断的実践──近代小説という表現制度の移植
Ⅱ 支配と被支配の屈折――植民地期
一 被支配者の言語・文化的対応──金史良「草深し」
二 民族と民族語の存在拘──金史良「光の中に」
三 植民地「國語」作家の内面──金史良「天馬」
Ⅲ 国民文化という蹉跌――植民地以後
一 韓国近代文学における母語中心主義
二 『抗日闘争文学』というイデオロギー──金史良「駑馬万里」
三 「恨」言説における自民族中心主義
前書きなど
韓国文化の「隠蔽と構築」のポリティックス
植民地期とその前後の朝鮮半島の文化現象を、現在の国民共同体のシステムとイデオロギーの条件の中で、どのように対象化し、書き直すことができるのだろうか。また、一九七〇、八〇年代の韓国で軍事独裁体制、反共・反日教育、民主化革命などをほぼ無防備の状態で体験し、一九九〇年代の初頭に来日留学して以来、異邦の者として日本社会に住み着いている私自身の流動的かつ分裂的主体性の位相を、どのように把握することが可能だろうか。そして、過去の研究対象と現在の認識主体を相互介入させながら、新たな文化の場所を模索し、顕示することは、はたしてどのようにして可能だろうか。
本書は、こうしたポストコロニアリズム的な問題設定のもとで、主に植民地期の朝鮮人作家と独立以後の韓国人作家の文学テクストを、日・韓の近代文化の比較研究という観点から評釈した論稿を収めたものである。しかし、各章の論考は、統一的なテーマに従って網羅的に組織したものでもなければ、鳥瞰的な結論をメタ言説として再生産したものでもない。テクストの具体的な分析作業を通して浮上するそれぞれの問題を、感覚的な形象として明瞭にあらわすことを目標にしたものである。
版元から一言
朝日書評◎◎◎柄谷行人評◎2007/12/02
植民地化が強いた言語経験の普遍化
近代日本の小説は、近代西洋の小説を翻訳することを通して形成された。だから、その意味内容がいかに日本的であろうと反近代的であろうと、すでに近代・西洋の影響下にある。この事実を別に恥じる必要はない。恥ずかしいのは、そのことを知らずに、 「日本独自の文化」などといってまわることだ。これは日本に限られた経験ではない。そもそも、西洋で最初の近代小説を書いたとされるダンテも、先ずラテン語で書いて、それをイタリアの一地域の言葉に翻訳したのであり、その結果として、近代イタリア語(国語)が生まれたのだ。
韓国の近代小説についても同様のことがいえる。ただ、問題を複雑にしているのは、それが、日本に植民地化されたなかで、日本の近代小説を翻訳するということを通して形成されたことである。それは、植民地化された文化状況を克服し、韓国文化の自律的な伝統を実現することを主張する人たちにとって、認めたくない事実である。しかし、著者の考えでは、植民地時代のそのような経験を否認することそのものが、コロニアリズムの遺産にほかならない。「コロニアリズムの超克」は、先ず、この事実を認めるところからしか始まらない。
さらに、著者は、日本語で書いて芥川賞の候補となり、戦後は北朝鮮で活動した小説家、金史良の作品を詳細に分析しつつ、植民地化が強いた言語横断的な経験を、たんに否定的に見るのではなく、また、韓国に特殊なものとして見るのでもなく、むしろ、人間にとって普遍的な事態として見ようとする。純粋でオリジナルな言語や文化など存在しないのだ。こうして、著者は、韓国文化のオリジナリティーと特異性を唱える、さまざまなナショナリストの言説を痛烈に批判する。
しかし、著者が特に言及しないにもかかわらず、読者は、ここで韓国について指摘されていることが、ほとんどそのまま日本についてあてはまることに気づかされるだろう。その意味で、本書は、韓国人の特殊な経験を普遍化するという課題を、見事に果たしたといえる。
上記内容は本書刊行時のものです。