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日本の福清出身華僑の生活誌
移住、生業、故郷とネットワーク
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年3月31日
- 書店発売日
- 2025年4月15日
- 登録日
- 2025年3月17日
- 最終更新日
- 2025年3月24日
紹介
19世紀末以降、福建省福清地域から来日した華僑たち。その多くは、呉服行商を生業に日本津々浦々を歩き回っていた。戦後、世界秩序が再編され、華僑を取り巻く外部環境も目まぐるしく変動し、彼らの職業、生活、アイデンティティは大きく変容していった。「エゴ・ドキュメント」から読み解く福清出身華僑の移住・定住の軌跡は、「周縁的存在」である個々の華僑の視点から見た「日本社会」の近現代史でもある。
目次
序章 福清出身の華僑・華人をめぐる視点
1 問題の所在
2 先行研究についての検討
3 本書の視座と研究方法
4 本書の構成
第1章 福清出身者の日本移住と呉服行商
はじめに
1 福清人の日本移住の歴史
2 明治初期の福清出身者
3 呉服行商人の福清出身者の来日とその実態
4 まとめ―近代日本の新たな社会構造のなかで生存空間を見出す
第2章 福清の呉服行商人と近代日本の農村社会―ある華僑の回想録への解読を通して
はじめに
1 福清呉服行商人と日本農村の近代産業化
2 「変わらない」農村の慣習と行商人
3 村の一員か、厄介なよそ者か
4 まとめ―日本社会を逆照射する
第3章 ドキュメントから見る福清華僑の「移動」
はじめに
1 日中戦争勃発前の暮らしと移動
2 日中戦争下の華僑
3 戦後の華僑の「帰国」と「探親」
4 まとめ―「大きな歴史」のなかに福清出身者の「移動」と暮らしを位置づける
第4章 戦後における職業転換とコミュニティの再編
―福岡、熊本、鹿児島在住華僑を中心に
はじめに
1 一九世紀末から二〇世紀初頭の福清人と中華料理店経営
2 熊本林一族によるスーパーマーケット経営への展開
3 熊本の華僑コミュニティと同郷者ネットワーク
4 鹿児島県の華僑
5 まとめ―地方における福清出身華僑の職業転換とコミュニティの再編
第5章 移住・再移住と地方都市の近現代化―三重県と島根県へ移住した福清出身者
はじめに
1 和歌山県から三重県・尾鷲市へ―林孫琪の貸金業への転身
2 尾鷲市に移住したほかの福清出身者
3 津市唯一の華僑として―蔡義雄一家の移住
4 経済成長期の尾鷲と福清出身華僑の移住
5 島根県の福清出身者と華僑コミュニティ
6 まとめ―日本の流通革命とともに
第6章 福清華僑二世による同郷紐帯の継承と同郷意識―旅日福建同郷懇親会の設立と活動
はじめに
1 戦前の福清出身者による同郷団体
2 華僑青年運動と福建出身の二世華僑
3 戦後の福建出身者による同郷団体の復活と連携
4 日中国交回復前の旅日福建同郷懇親会
5 日中国交回復後の同郷懇親会
6 旅日福建同郷懇親会の活動から見る二世華僑の民族意識と同郷意識
7 「ポスト二世」の福清出身者コミュニティと旅日福建同郷懇親会の新たな機能
8 まとめ―継承されていく同郷紐帯と同郷意識
第7章 「異郷」から「故郷」へ―神戸普度勝会における「孤魂」の行方を追って
はじめに
1 神戸華僑による普度
2 華僑と死者供養
3 「普度」と福清出身華僑
4 まとめ―「異郷」が「故郷」に変わった時
第8章 文化的・社会的システムとしての「故郷」―移住、文化継承とコミュニティの「連続性」
はじめに
1 「復活」した宗族
2 「福清人」による移住の連続性
3 宗族の「復興」と福清出身華僑
4 移住の連続性と伝統文化の新たな担い手
5 まとめ―文化的、社会的システムとしての「故郷」
第9章 「民族」や「人種」を超えて―絵本作家・画家葉祥明のコスモロジー
はじめに
1 葉祥明の平和絵本と「葉祥明の世界」
2 「世界」への認識の形成
3 画家としての使命感への融合
4 まとめ―コスモポリタンという生き方
第10章 文化人類学における華僑華人研究の意義と方法
はじめに
1 「華僑華人」研究は何を問題にしてきたの
2 華僑華人研究の系譜
3 これまでの華僑華人研究の主な理論的枠組みと著作
4 まとめ―華僑華人研究の試み
終章 福清出身華僑と近現代日本
1 呉服行商を主な生業とした一九世紀末から終戦まで
2 局部集中的な定住が進む戦後混乱期から一九八〇年代まで
3 「新」華僑が増加する一九八〇年代半ば以後
4 同郷・同族ネットワークと文化継承に果たす「故郷」の役割
5 福清出身華僑が生きてきた近現代日本
6 方法としての華僑華人研究
あとがきにかえて―謝辞
参考文献
索引
前書きなど
本書は、日本における華僑華人コミュニティを構成する主な集団の一つである福清出身者について多角的に考察することを目的とする。具体的には、戦前から呉服行商などの「雑業者」として移住してきた老華人の移住・定住の歴史を整理しつつ、彼らの生業、生活、コミュニティおよび故郷との関係などについて通時的、共時的に分析することで、これまで知られてこなかった福清出身華僑華人の全貌を体系的に描きだしていく。
戦前から来日した福清出身者に関しては、経済力が弱く、地方に分散居住していた状況に加え、彼らに関する資料が限られているため、戦前の呉服行商の実態、農村部での生活および戦後の職業転換、コミュニティの再編など、いまだ解明されていない部分が多い。また、一九七〇年代以降に出国した福清出身移民は、新しい社会体制や文化政策が導入された中国で生まれ育った世代であり、価値観や行動様式がそれ以前の
老華僑と大きく異なっているところが多く見受けられるものの、故郷である福清(の村)との血縁・地縁紐帯を維持している(いた)ことと、それゆえに福清出身老華僑との間にもなんらかの形のつながりを持っていると考えられる。したがって、中国人移民を移住時期に基づき「新華僑(華人)」、「老華僑(華人)」と別個の集団に分けて議論するよりは、同じ「福清出身者」というカテゴリーで捉えることのほうが有効である。本書では、異なる時期に移住した福清出身者をめぐる諸課題を、彼らをつなげる「共通項」としての血縁、地縁の原点でもある「故郷」という枠組みに置き換え、多角的に検討していく。
華僑華人が比較的頻繁に、かつ多方面に移動し、ルーツと第一、第二の居住地など複数の「場所」に関係することから、数世代にわたる福清出身者の移住・定住過程およびそれが関連する複数のフィールドでの調査は必要である。つまり、一族の構成員は福清から日本のみでなく、インドネシア、香港、台湾など複数の場所に移住(移動)し、移住後も互いにつながりを保ち、トランスナショナルな「家族」(越境家族)を維持しているからである。したがって、本書では、従来の「横浜華僑」、「神戸華僑」のように居住地単位から華僑華人を見るのではなく、個々の華僑やその家族(一族)のストーリー(家族誌)を可能な限り詳細に検討するというアプローチを採ることで、華僑と居住地および故郷との重層的関係性とダイナミズムを明らかにしようと心がけている。
二〇一三年の春から二〇二四年までの間、筆者は、北海道から鹿児島まで、日本各地に分散居住している数十名の福清出身者に対して断続的にインタビューを行ったほか、彼らのルーツ(故郷)である福建省福清地区の村々や、一族のほかのメンバーが居住する香港、台湾などにおいても調査を行った。それと同時に、京都、神戸在住の福清出身者による普度勝会などの伝統行事に参加し、参与観察を行ってきた。こうした福清出身のインフォーマントの協力の下で、数世代にわたる口述資料のほか、手記、回想録、古写真、証明書(ドキュメント)、同郷団体の名簿など、貴重な文字資料も多く収集できた。各章において、これらの材料を各地域の時代的背景と結びつけながら、様々な角度から福清出身者について検討していく。一つ一つの家族誌、そして一人一人のライフ・ヒストリーを通して、特定の地域の華僑華人コミュニティのみでなく、時間軸、空間軸および対人関係軸(ネットワーク)が構築する立体的空間のなかで、「その時」、「その場」にいた「その華人」を定位する。そうすることで、福清出身者の血縁・地縁紐帯の機能および彼らが移住者であるゆえに持ちうる多面性を浮き彫りにすることが可能だと考えられる。
上記内容は本書刊行時のものです。