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芦生原生林今昔物語
京都大学芦生演習林から研究林へ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年11月1日
- 書店発売日
- 2021年11月1日
- 登録日
- 2021年10月6日
- 最終更新日
- 2023年3月3日
書評掲載情報
2022-03-10 |
社叢学研究(シャソウガクケンキュウ)
2022年3月号 評者: 前迫ゆり |
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紹介
京都、由良川最源流域に残された芦生(あしう)の森。この貴重な原生林がどのようにして守られてきたのか。同地で研究生活をスタートさせた生態学者が伝える、森から人間へのメッセージ。
目次
Ⅰ 秘境芦生(あしう)
1 由良川源流
2源流の山と渓谷
3原生林
4演習林の設置
5森林軌道・トロッコ道
Ⅱ 芦生での暮らし・村の行事
(1)芦生での生活
1芦生に赴任
2ご馳走は廃鶏
3宿舎の断水
4芦生分校
5夜川と夜づけ(つけ針)
6交流
7雪
(2)芦生案内
1松上げ
2芦生熊野権現神社のワサビ祭り
3芦生神社と中山神社
4廃村灰野
5地蔵峠と一石一字塔
6野田畑の木地師居住地
Ⅲ 長治谷
1須後(芦生)から長治谷へ歩く
2長治谷小屋
3雪下し
4今も気になっている私の判断
5キノコの宝庫
6救助を求める
Ⅳ 学生実習
1樹木・造林実習
2生玉子
3女子学生の登場
Ⅴ 自然の宝庫
1哺乳類(けもの)
2 猟銃が与えられる
3芦生の鳥類
4カミキリムシ
5豊富な植物相
6芦生を基産地とする動植物
7未解決で残ったこと
8嫌われるムシ
9食べられる山の木の実
Ⅵ ツキノワグマ研究
1はじめてクマに会う
2クマハギ(熊剥ぎ)
3加害時期
4国際クマ学会でクマハギを講演
5被害防止
6クマ捕獲
7食べもの
8円座
9クマに発信器を着ける
10冬ごもり・越冬穴
11クマの写真を撮る
Ⅶ 土壌動物研究
1森林の土壌動物
2各地の森林で土掘り
3芦生での土壌動物研究
4ミミズ研究
5ミミズの糞塊生成量・土壌耕耘量
6種類の解明
Ⅷ 芦生今昔・将来
1景観の変化
2楽しかった下谷
3芦生ダム建設問題の発生
4ダム計画の進展
5蟷螂の斧
6原生林は残った
7評価高まる芦生原生林
8芦生集落と原生林の共存共栄
前書きなど
私が初めて芦生へ入ったのは大学院に入学してすぐ、昭和36(1961)年5月の連休のこと、当時4回生だった中島義昌さんたちとであった。京都駅から国鉄バスで美山町安掛へ、京都交通バスに乗り換えて終点田歌へ、田歌からは須後の演習林宿舎まで歩いた。学生宿舎は夕食時の6時から9時まで自家発電の電灯がついたが、9時に合図があり、消灯、あとは石油ランプであった。廊下にたくさんの石油ランプがぶらがっていた。この自家発電は昭和26(1950)年にはじまり、芦生の集落との共同経営だったようだ。演習林では消灯は9時だったように記憶しているが、芦生集落では10時だったと聞く。実習の学生を早く寝させるためだったのだろうか。ともかく、最奥の集落にも夕方だけだが電灯が灯っていた。
次の日は須後から内杉谷を遡り、幽仙谷からケヤキ峠近くの尾根へあがった。内杉谷林道はヒツクラ谷との合流点落合橋あたりまで開設されていたようだが、もちろん、学生に車を出してはくれない。やっと尾根に上がると、保存木に指定されていた大きな連理のミズナラがあった。下谷の最上流のオホノ谷、ノリコの滝の横を下って下谷の谷底をあっちこっちと何度も丸木橋を渡り、本流(上谷)との出合である中山で、対岸の左岸へ渡り、雪のまだ残っていたドイツトウヒ林を抜け、丸木橋を渡ると背の高いススキの向こうに銅版屋根の建物、長治谷小屋がようやく見えてくる。たっぷり一日の行程であった。今では林道が開通し、ほぼ1時間で行けるが、まったく林道のない時代のこと、須後から長治谷まで16㎞の旧歩道を歩いた経験をもつ人はもう少ない。
版元から一言
日本各地には、大学が持つ演習林、研究林などの森林があります。その中でも、京都大学芦生演習林(現京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション・芦生研究林)は、かつて植物分類学者の中井猛之進氏が「植物ヲ學ブモノハ一度ハ京大ノ芦生演習林ヲ見ルベシ」と記したように、豊富な植物や動物のいる、貴重な原生林です。
著者は1966年に京都大学助手として現地に赴任。その後も現地の人たちと関わり、研究を続けています。芦生の50年史を語れる数少ない人物といえるでしょう。
木材需要による森林伐採、揚水発電によるダム計画、何度か消滅の危機を乗り越えた芦生の森が、私たち人間に何を伝えてくれるのか。研究者としてだけではなく、同地に暮らした経験から、秘境での暮らし、研究の面白さ、なにより森の素晴らしさを伝えてくれる本になっています。
上記内容は本書刊行時のものです。