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コトニスム・カタルシカ
柿ノ木寮蛮勇伝
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2017年12月
- 書店発売日
- 2017年12月26日
- 登録日
- 2017年10月20日
- 最終更新日
- 2017年12月5日
紹介
奈良公園に暮らす雄鹿の一人語りエッセイ。奈良公園の一角に立つ「柿ノ木寮」寮生の生態を、オウワンと名乗る鹿の目から見て描く。貧乏学生の寮自治会での共同生活を、様々な事件を通して面白く描く。単なる「懐かしの昔話」ではなく、現代に通じるエッセンスがある。
目次
口上
鹿の章
第一話 鹿と寮生との因縁
第二話 干渉する鑑賞
第三話 臨泊の布団干し
第四話 耳にダニの話
第五話 春雨でも濡れたくない
第六話 娯楽室のゴクラク
人の章
第七話 恋愛指南とアフターケア
第八話 意趣返しか刃傷沙汰
第九話 夜行軍って何で?
第十話 生来憐みの例
第十一話 仮装行列の装い
第十二話 右顧と左顧
物の章
第十三話 サンダルは靴か?
第十四話 爽やか地獄
第十五話 私のたわし
第十六話 アウト穴の痛快
第十七話 シジミ汁しみじみ
第十八話 変態望遠鏡
事の章
第十九話 凍れる音楽
第二十話 寮祭という名で要塞攻略
第二十一話 女人謹製
第二十二話 非難くんれん
第二十三話 便所のかみさま
前書きなど
柿ノ木寮蛮勇伝
今 野 博 信
口 上
吾輩は鹿である。そもそも名付けられるような境遇にない。これから名付けられそうだと、「名前はまだ無い」などと期待することもない。ただ吾輩を見て、その体の大きさに目を瞠る人間達がいて、吾輩のことをオウワンと呼ぶ者達がいる。それはそれで便利なことだと感じている。その呼び方をする者がいれば、それは「ああ、あそこの寮生だな」と吾輩の方で分かるからだ。
その寮生達というのは、市街地に隣接する珍しいほどに広大な原始林との境界に建つ柿ノ木寮の住人達のことだ。彼らは代々、オウワンの呼び名を伝え続けてきた。その意味するところは、王様の王に加えて中国語読みのワンをさらにトッピングしたものか!と早とちりした新入生がいたが、牡鹿で一番目立っているというだけの話だ。それはそれで明快なことだと感じている。
寮生が吾輩に興味をもったように、吾輩も彼らに興味を持ち続けてきた。彼らはじつに興味深い生態をしている。街中で出会う他の人間達とは違っていることを、吾輩は若い鹿達に教えてきた。それは、中途半端に接しているならば、自分自身が危ない目に遭う可能性を戒めておきたかったからだ。同じ時間と空間を、鹿と寮生は共有している。そこには奇妙なドラマがいくつも生まれる。良い悪いの話ではなく、それらを感じたままを記録しておく。
寮生気質が変化していくのに合わせて、鹿と寮生との関係も少しずつ変わっていく。でもこの先どれほど寮生らが変わっていったとしても安心していてほしい、吾輩ら鹿はいつも変わらずにそこに居るのだから。もし何かに迷うことがあれば、またここに来てほしい。そうすれば、吾輩らも一緒に悩むつもりでいる。
名前:オウワンと呼ばれることがある
年齢:(記録なし)
誕生:厳冬の翌年の春
性別:♂
使命:自律と連帯の伝道
一言:鹿も頑張る。人間も頑張ってくれ。
上記内容は本書刊行時のものです。