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煙草ゲリラの反撃
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2022年12月10日
- 登録日
- 2022年11月19日
- 最終更新日
- 2023年2月14日
紹介
「万国の煙草族、愛煙家は団結せよ!」
20XX年、「煙草を吸う者は死刑」とする法案が可決される。7月7日,禁煙ファシズムに抗して男女14人の多国籍抵抗グループが東京に集結,非暴力煙草ゲリラの決行日を8月15日とした─。
■表題作に「地球煙草紀行」を併録,
歴史学者による“煙草小説”刊行!
目次
1 煙の社会/2 上京/3 就職/4 大阪出張/5 禁煙趨勢/6 禁煙・禁煙・禁煙、ああ禁煙/7 理論武装/8 煙草値段の暴騰/9
悲鳴/10 煙草族の抵抗開始/11 武闘/12 弾圧/13 禁煙団と禁煙踊り/14 禁煙超党派内閣の成立/15 第一回抵抗会議1/16
第二回抵抗会議/17 煙草ゲリラ/18 死刑
地球煙草紀行
1 アジア煙草事情/2 オセアニア煙草事情/3 マダガスカル・南アフリカ煙草事情/4 ヨーロッパ煙草事情/5 ロシア煙草事情/6
アメリカ・カナダ煙草事情/7 中米煙草事情/8 日本帰国
前書きなど
18 死刑
ついに地裁で僕に対して「死刑」判決が出た。裁判員裁判でも一部の裁判員に動揺が見られたとはいえ、全員が「死刑」に賛成し、最終的には異論は出なかった。一応、高裁でも「死刑」、最高裁に上訴したが、却下された。煙草を吸ったことによる初めての死刑判決である。見せしめであろう。思っていたほどの動揺はなかった。
他の煙草ゲリラ参加者の十人は無期懲役から懲役二、三年の有期刑となった。これでいいのだと思う。全員が死刑になる必要はない。僕一人で充分だ。検挙されなかった三人がどうなったのか、分からない。逃げおおせることを心より祈った。
担当の看守は、「あんた以外も厳罰となるが、死刑にはならないだろう」と予言していた。その通りになった。
なぜ僕だけが死刑かというと、計画者、実行者で、ニコチン・タールが最も強い缶入りピースを吸ったからだ、と聞いた。伊集院は老人であるし、温情で最低の懲役二年となった。彼は煙草を銜えて数歩、歩んだだけで転び、取り押さえられたのだから当然だろう。
ところで、この担当の看守は温情のある面白い男だった。人生最後にこうした看守と出会えたことは幸いだった。
看守は、「昔はヘビースモカーで、一日五箱を吸っていた」と自慢した。「けれど必死で止めたのだよ。だって仕事がなくなるでしょう。食えなくなるでしょう。……あんたも煙草法が出た段階で止めればよかったのだよ」。
看守は「内緒だよ」と言いながら、いろいろな情報を教えてくれた。とにかく彼は口が軽い。各新聞は一斉に「死刑判決は当然」と書き立てている、と。
死刑存続論者である法務大臣の気まぐれな決定が何時になるか分からない。死刑になるまでの期間はどのくらいあるのか分からないのだ。看守は頼んでいたノートとペンは差し入れてくれた。死刑の期日がいつになろうとも、その日まで「煙草ゲリラ」の顛末を書いておきたい。心は静かだ。できれば、このノートを完成させるまでは何とか処刑されないことを望むだけだ。
上記内容は本書刊行時のものです。