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和声を理解する
バス音からの分析
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年3月25日
- 書店発売日
- 2023年3月24日
- 登録日
- 2023年2月27日
- 最終更新日
- 2023年3月19日
紹介
古今の名曲から学ぶ和声法。
従来の教本では困難な「独習」を可能にした 画期的なテキストが誕生!
「様式和声の考え方をうまく用いれば、
和声を実際の音楽に即して経験し、それと同時に、
そうした経験を通じて調性音楽の和声というものの
基本的な原理を学ぶことができるはずです。
本書は、まさにそうした意図のもとで書かれた和声教本です。
音楽を深く学ぼうとする人々にとって、この教本が、
和声への「耳」と「眼」を養う大きな助けとなるに違いない。
そう信じて疑いません。」
──近藤譲「緒言」より
海外で一般的な和音記号を使用し、和声のさまざまな規則を教えるだけでなく、古今の名曲において諸規則がどう適用されているかを解説することで、従来の教本では困難な「独習」も可能にした。
国際的に活躍する作曲家が共同執筆し、愛知県立芸術大学、お茶の水女子大学での3年間の使用をへて、満を持しての一般発売。
目次
緒言(近藤譲)
はじめに(山本裕之)
第1章 基本編
i. 和音とは何か
1. 西洋古典音楽における「和音」の定義
2. 構成音の名称
3. 和音の原型と大譜表表記
4. 和声とは何か
ii. 和音の構造
1. 音程
2. 和音の協和と不協和
iii. 調と和音記号
1. 教会旋法と調の定義
2. 和音記号
iv. 和音構造と数字付き低音
1. 三和音の構造変化と転回形
2. 数字付き低音
3. 転回形の和音記号
4. 転回形と「拡張和音」「経過和音」
v. 和音の機能とカデンツ
1. 導音
2. 和音の度数による機能
vi. カデンツと和音の機能強度
1. バス音の「強い」機能
2.「 弱い」機能
vii. 終止
4つの終止形
viii. 4声体の配置
1. 4声体
2. 書き方
3. 声部の音域と配置のバランス
4. 各構成音の配置
5. 重複できない音
6. 第3音の重複
7. 省略できる構成音
ix. 声部進行の原則
1. 声部進行上の制限
2. 声部相互の関係
3.「連続」の禁則、「並達」の制限
x. 掛留音と第7音
1. 掛留音と予備
2. 7度掛留を表す数字
3. 掛留音の重複禁止
xi. 七の和音
1. 七の和音の種類と不協和性
2. 七の和音の転回形
3. 七の和音の数字および記号表記
4. 七の和音の響きと転回形がもつ性質
5. 予備音と限定進行音
6. 重複できない音
7. 避けられない第3音の重複
8. 第5音の省略
9. バス音からみた七の和音の機能
xii. V7・vii6の和音
1. V7の性質
2. V7の基本形および転回形の配置と連結
3. vii6の配置およびIまたはI6への連結
第2章 和音外音
i. 掛留音
1. 掛留音
2. 掛留音を表す数字
3. 二重掛留音
ii. バロック時代の和音外音
1. 経過音
2. 隣接音、二重隣接音
3. 先取音
4. カンビアータ
iii. 古典派以降の和音外音
1. 倚音、二重倚音
2. 逸音
3. 上行掛留音
4. 和音外音の半音階化
5. 強拍と弱拍
iv. 和音外音の還元
還元と分析
第3章 バス音型と機能
i. バス音と基本形の和音・拡張和音
1. バス音の2度上行、下行
2. バス音の3度上行、下行
3. バス音の4度上行、5度上行
ii. バス音と経過和音
1. I6/4
2. IV6/4
3. V4/3、V6/4
4. 2の和音
iii. 機能原則からの逸脱
1. SにI6/4が挟まれるカデンツ
2. DにIV6が挟まれるカデンツ
3. TにIIが挟まれるカデンツ
4. 挟まれるカデンツの複合
第4章 機能的和声進行の原理
i. 強進行
根音の5度進行
ii. 全終止・変終止
1. 全終止の形態
2. 全終止時の先取音
3. Sを前置する全終止
4. 変終止の形態
iii. 弱進行
1. 根音の3度進行
2. 根音の2度進行
3. 2度進行の声部処理
iv. VIの和音
1. VIの和音の機能と性質
2. VIの和音の2度進行
v. 偽終止
偽終止の特徴
vi. 強進行ゼクエンツ
1. ゼクエンツの仕組み
2. ゼクエンツの継続と終了
vii. 弱進行ゼクエンツ
1. 弱進行のみによるゼクエンツ
2. 強進行を交えた弱進行ゼクエンツ
viii. 半終止
1. 半終止の特徴
2. フリギア終止
第5章 転調
i. 転調の原理
1. 転調の種類と仕組み
2. 転調の分類
3. 対斜
4. ピボット和音
ii. 代表的な転調
1. 長調の属調への転調
2. 短調の平行調への転調
iii. その他の近親調転調
1. 平行調への転調
2. 属調方向への転調
3. 下属調方向への転調
iv. 一時的な転調:借用和音
1. ドッペルドミナント
2. ドッペルドミナントの後続和音
3. 下属調方向からの借用
4. 同主短調からの借用
v. 転調の確定
転調と終止
vi. 転調の連鎖
1. 経過的な転調
2. 半音階的転調
vii. 同主調転調
同主調転調の種類と効果
viii. 遠隔転調
1. 2度調、3度調への転調
2. 異名同音調への転調
第6章 和音の種類の拡大
i. 九の和音
1. 属九の和音の配置と限定進行音
2. V9の進行と第9音の限定進行音
3. V9の用例
ii. VII7と減七の和音
1. 長調におけるVII7
2. 短調におけるVII7と転回形
3. 減七の和音による異名同音転調
4. 減七の和音の近親調からの借用
iii. ナポリの六の和音
拡張和音としての「ナポリの六の和音」
iv. 増三和音
拡張和音としての増三和音
v. 増六の諸和音
1. ドッペルドミナントとしての増六の和音
2. 増六の和音による遠隔転調への応用
vi. IVの付加和音
1. 付加4の和音
2. 付加6の和音
3. 付加46の和音
第7章 和声とリズム
i. 強拍と弱拍
1. 強拍と弱拍の区分け
2. 強拍の機能支配性
3. 終止形の機能支配性
4. ヘミオラ
ii. 和音設定とリズム
1. 和音の区分け
2. 機能配分のむら
iii. 保続音
保続音と機能
第8章 模倣
i. 2声模倣
1. バス音と2声の模倣
2. 和声的声部を含む2声の模倣
3. バス声部を含む模倣
ii. 多声模倣
多声部による模倣
第9章 和声のさらなる応用と展開
i. 和音化する和音外音の促進
1.「 意外な響き」を作り出す和音外音
2. 臨時記号と異名同音
ii. トニック外の機能からの開始
Tを避ける開始機能の効果
iii. 主調外の調性からの開始
1. 偽の調性の提示
2. 曖昧な調性の提示
iv. D和音における下方変位音
おわりに
主要参考文献
引用譜例索引
索引
前書きなど
緒言
バロック、古典派、ロマン派の音楽の構造と形式、そしてそれらの時代の作曲家の作曲様式を深く理解しようとするなら、和声の知識が不可欠です。少し乱暴なたとえですが、それは、文章をきちんと理解するためには文法を知らなければならない、ということに似ているかもしれません。
人間の言語がどのようにして始まり、調えられ、変化・発展してきたのかについては、いろいろな推論があるでしょう。それでも、まず文法が理論的に整えられ、そこから言語実践が始まったとは考えがたく、むしろ、慣習的な約束事にもとづいた言語実践が先にあって、その後に、そうした慣例が文法の理論へと整備されていったと考えるのが自然であるように思えます。そしてこのことは、音楽にも当てはまるでしょう。
バロック時代の初め頃(すなわち、16世紀から17世紀への変わり目の頃)に、それまでのルネサンス時代の旋法にもとづいた音楽構造に代わって、調性(長調・短調)による和声を基盤とする音楽が実践されはじめます。しかし、和声の組織的な理論が整えられるのは、それから1世紀ほども経った18世紀になってからのことで、特にジャン゠フィリップ・ラモー(1683–1764)が打ち立てた理論は、その後の和声論の礎になりました。和声がいったん理論化されると、作曲家たちはその理論を意識するようになります。つまり、実践が理論によって影響されるようになるわけです。そしてその後19世紀には、和声の理論はさらに緻密に組織化されていき、それが今日用いられているさまざまな和声教本の基礎になっています。
18世紀と19世紀は、近代の科学的な思考法が急速に発展した時代です。そうした時代の空気を強く反映して、理論家たちは、単一の原理にもとづいて演繹的に和声を体系化することを試みました。いっぽう、作曲家たちは、そうした理論に影響さ
れつつも、必ずしもそれに完全にはとらわれずに作曲を実践しますから、理論と実践の間には多少のずれが生じることもあります。19世紀の理論家の中には、そうした「ずれ」を、「作曲家の誤り」だと考えた人も見られます。たとえば、ベルギーの理論家フランソワ゠ジョゼフ・フェティス(1784–1871)は、ベートーヴェンの和声の「誤り」を彼が校訂した楽譜で修正しようとしましたし、ドイツの理論家フーゴー・リーマン(1849–1919)は、マックス・レーガーの和声の「間違い」を嘆いています。
また、理論家たちは、当時の歴史観(進歩史観)にしたがって、19世紀の和声をその究極の完成形であると見なし、それ以前の時代(特にバロック時代)の音楽に見られる和声を、完成形に向けての発展過程に過ぎないと考えて、過去の和声様式がそれ自身の時代の音楽実践の中で果たしていた固有の役割や価値を軽視してしまう傾向も見られます。
学習者のために、和声の原理をわかりやすく整った形で(つまり整然とした理論的な体系にもとづいて)示そうとすると、作曲家たちが行っていた実践(つまり、音楽現場の和声)から乖離してしまう恐れがあり、また、和声様式の時代ごとの変遷を理解することが難しくなる。そのいっぽうで、組織化された体系や「規則」が示されないままに単に実践を通じて和声を経験的に習得するには、膨大な時間をかけた豊富な音楽体験が必要になってしまう。今日の和声教育の課題は、この両極の狭間にあってそうした困難をどのように調停し克服するかということにあります。
過去の時代の実際の音楽を例として用いて、それぞれの時代の音楽様式の中での和声の理解を促すという考え方は、「様式和声(stylistic harmony)」と呼ばれています。これまで日本で多く用いられてきた和声教本は、主として理論とそれに伴う規則(ふたたび言語にたとえれば、それは「文法」のようなものです)を学ぶことを中心として書かれており、様式和声の考え方は、ごく最近まであまり見られませんでした。しかし、様式和声の考え方をうまく用いれば、和声を実際の音楽に即して経験し、それと同時に、そうした経験を通じて調性音楽の和声というものの基本的な原理を学ぶことができるはずです。
本書は、まさにそうした意図のもとで書かれた和声教本です。音楽を深く学ぼうとする人々にとって、この教本が、和声への「耳」と「眼」を養う大きな助けとなるに違いない。そう信じて疑いません。
近藤 譲
上記内容は本書刊行時のものです。