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北タイ・冒険の谷
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年4月20日
- 書店発売日
- 2021年4月23日
- 登録日
- 2021年4月2日
- 最終更新日
- 2021年5月21日
紹介
「テントの中で目をつぶると、自然や生き物の気配が近づいてくる。――渓流、大風、木の葉、ヨタカ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ブタ、ネズミ、コウモリ、カエル、トカゲ、ガ、セミ、クモ、キリギリス。奥行きのある空間へと私は融け込んでいく。そんなふうに眠る」
北タイで2008年から10年以上ボランティア活動をしてきた「元欧米志向」青年のエッセイです。驚きの連続の先にあったのは? よほど居心地が良かったのでしょうか、青年はこの谷の自然と人にすっかりまいってしまいます。
魅力的なイラストとあざやかな写真、おしゃれなデザインはアジア・エッセイのイメージを一変させます。
目次
1〈シンプルに暮らす〉……衣・食・住の知恵
テントと寝袋.セーター.目覚し時計.山の恵み.即席麺.竹の椀.炉端のネコ
*北タイ山村とはどういうところか
2〈森を大事にする〉……環境と伝統の継承
小鳥とリス.山火.生け贄.林道の復旧.天気雨. 盗伐.野鶏.
*北タイ山村で私はどんな活動をしているか
3〈助け合って働く〉……今日の生業と交通
マイティX.トウガラシ.田んぼの休日.チキン・レース.焼畑の火入れ.薪拾い.町の
T字路
*現地活動をはじめるまでの「失われた一〇年」
4〈外の世界と折り合う〉……「独自性」の展開
ヨハン牧師.欧米のNGO.ムエタイ選手.村びとのペース.解熱鎮痛薬.若者とSNS.ハーモニー.老婆と太陽.
*北タイの少数民族は多数民族をどのように見ているか
5〈自立心を養う〉……子どもとコミュニティ
水まわり小屋.クリスマス・キャロル.バイク少年.青年僧.薬草茶.セミ取り.ローイ・クラトン
*子どもの「好きな食べもの」ランキング
6〈恋人たちは考える〉…… 規範と自由のはざま
密林の恋.ミドル・エイジ.主婦の手際.町の女.棚田の亭主.婿入り婚.片想い
*われらが中年男性は「婚期」をなぜ逃したのか
7〈訪問者は体験する〉…… 山村への加入儀礼
灼熱の里山.ER.ジャスミン茶. 精米機.かりんとう.モスキート・ラケット.ヒメカブト
*山村ならではの「リフレッシュメント」
前書きなど
はじめに
私は、日本国内に本部を置く小さなNGO(非政府組織)の現地担当です。
二〇〇八年から現在まで、年に三回ほど北タイの山奥を訪問し、そのつど数週間から数カ月間滞在してきました。一年の大半を過ごすこともあります。
北タイとはふつう、タイ国の北部八県を指しますが、本書では特に、ミャンマーと国境を接するチエンマイ県、チエンラーイ県、メーホンソーン県の山岳地域に照準を合わせています。広大な森林に覆われた山々の谷あいなどに、本書の舞台である少数民族の村が点在しています。村の人びとは山の斜面で焼畑等を行ない、自給自足的な生活を営んでいます。
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私がふだん寝泊まりしているのは、電気の来ていない、郵便物も届かない、もちろん携帯電話やインターネットも通常使えない集落です。
そこで私は、村びとと一緒に食卓を囲み、同じ言語で語らい、暗がりではロウソクを灯し、夜は寝袋にくるまって眠っています。ちなみに少数民族の言語は、タイ語とは異なります。
主に取り組んでいるのは、苗木移植や簡易水道建設などの森林緑化・山村支援活動と、伝承歌収集や野鳥観察などの野外調査活動です。
たとえば、日の高いうちは野山へ出てツルハシを振るい、その晩にはたき火を囲んでお年寄りの語りに耳を傾けます。土地ならではの感動や気づきの連続で、「毎日が冒険」とも言える日々を過ごしています。
ボランティアを数日間から数週間北タイの山村へ受け入れる手伝いもしています。これまでに現地で寝食を共にしたボランティアの人数は、日本やタイの大学生を中心に、少なくとも四〇〇人に上ります。
ボランティア仲間からしますと、私の日頃の言動は、根っからの東南アジア愛好者のそれに見えるそうです。しかし実際のところ、一昔前まで私は、欧米文化に熱中するあまり、東南アジア文化にほとんど関心がありませんでした。ところが二〇〇六年、私は「転向」しました。学生時代にお世話になった恩師のカバン持ちのような形で出かけた北タイの山奥で、その自然や生活の魅力に、心を奪われたからです。まさに鱗のようなものが目から落ちました。
このとき特に引き込まれたのは、村びとのこんな様子です。村びとは、朗らかに飾らず、それとなく気を配り、村の伝統や慣習を守って民族の矜持を保ち、隣人どうしで助け合って暮らしています。私は、村びとに敬愛の念を抱きました。
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八年ほど前、村びとが、私の姉とその息子三人を山村へ迎え入れてくれたことがあります(義兄は仕事のため日本で留守番)。
甥三人は当時、小五、小三、幼稚園年長で、彼らにとってはじめての海外ボランティア体験でした。三人は一週間、村の子どもたちと一緒に、朝から晩まで森の中で過ごしました。
苗木を植え、鍬仕事もしました。それから、熟れた木の実をもぎ、野鳥や小動物を追いかけ、小川の中を走り、高い木や岩場に取りついて登り、たき火をして玉子やイモを焼いて食べました。
後日甥たちは、さっぱりした表情で言いました。
「無我夢中で駆けまわっていたから、言葉が通じないとか、習慣が違うとか、そういう事に気づかなかった!」。私はそれを聞いたとき、「子どもはそういうものだよね」と少々尊大にうなずきました。しかし次第に、「君らのおじも、それと同じ心境だ!」と思い直しました。
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私は、日本へ一時帰国するたびに、北タイ山奥の、自然や生活の魅力について、甥たちと同じような感覚で、周囲に語ってきました。「転向」から一〇数年がたちますが、その魅力の全体像を描き出すにはいまだ至っていません。
しかし近年、「これまでに私の胸を熱くし、あるいは心をとらえた感動や気づきの一部だけでも、多くの方々に紹介することを許していただけたら」という思いが、抑えがたくなりました。そして今日までにエッセーを五〇本書き、それらを本書にまとめることができました。
一般に紹介されることの少ない「タイ山奥の大自然や土に近い生活」に御関心がおありの方々、昨今の科学技術の発展スピードに対し「期待とともに少々の戸惑い」を覚えていらっしゃる方々、そして今後東南アジア諸国の発展途上地域で「現地に根ざしたボランティア活動やフィールドワーク活動」に関わりたいとお考えの方々にとって、本書が、少しでもお役に立てる部分を含んでおりましたら、私の望外の喜びです。
版元から一言
アジアっぽくないおしゃれなエッセイです。
上記内容は本書刊行時のものです。