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労働の福祉力
働きがいのある連帯社会の形成
- 出版社在庫情報
- 不明
- 初版年月日
- 2025年3月20日
- 書店発売日
- 2025年3月13日
- 登録日
- 2025年2月4日
- 最終更新日
- 2025年3月11日
紹介
歴史、政策、実践の観点から福祉と労働の関係性を問う本書。移民の社会保障、社会的連帯経済、就労支援の事例を中心に、エンパワメントおよび社会システムへの包摂の可能性を探る。社会福祉の今後を展望する画期的な試み。
目次
はじめに[仁科伸子]
第1章 歴史的に見た貧困救済と労働の関係性[仁科伸子]
1 労働可能な者を救済しない救貧の歴史
2 福祉国家体制の成立と転換
第2章 グローバリゼーションによる社会問題の多様化[仁科伸子]
1 グローバリゼーションとは何か
2 移民や外国人労働者の統合
3 日本における外国人労働者の増加
4 外国人労働者と社会的包摂
5 社会的包摂の社会福祉学的理解
6 日本における外国人に対する所得再分配政策の現状と課題
7 地理的に広がる格差
8 移民流入による社会的排除やコンフリクトは避けられるのか
第3章 移民労働者と社会保障[松本勝明]
1 社会保障にとっての国籍の意味
2 外国人の平等取扱い
3 ドイツ社会保障における外国人の取扱い
4 EU市民である外国人の滞在及び社会給付の受給
5 考察
第4章 市民権と労働[西﨑緑]
はじめに
1 市民権とは何か
2 移民・外国人労働者の受け入れについての政策と制度
3 移民の受け入れと福祉国家の持続性
おわりに
第5章 共生と協同を推進する制度――各国の関連法制を探る[廣田裕之]
はじめに
1 インクルーシブな労働を生み出す法人格や制度とは
2 福祉の現場での労働に適する可能性の高い法人格
3 各法人格を超えた概念や法制度
4 社会的連帯経済に関連する記載のある憲法
5 社会的連帯経済に関する国際労働機関決議および国連総会決議、欧州連合(EU)での動き
まとめ
第6章 事例から考える「働きがいのある連帯社会」
事例Ⅰ 移民労働者を包摂する社会的連帯経済――スペインの事例より[廣田裕之]
はじめに
1 スペインにおいて外国人が就労許可を取得する方法
2 アフリカとの連帯に向けたバレンシア協会(AVSA)および協同組合COTASA
3 トップ・マンタ(カタルーニャ州バルセロナ市)
4 レス・アベーリェス(カタルーニャ州レウス市)
5 社会的包摂企業(WISE)やそれに類する事例
6 日西間の法制度などの違い
まとめ――スペインと日本との状況の違いを考慮に入れて
事例Ⅱ 難民のドイツ労働市場への統合[松本勝明]
1 統合政策の発展
2 統合政策の基本的考え方
3 統合法による統合政策
4 難民の労働市場へ統合
まとめ
事例Ⅲ ローガンスクエアにおけるペアレント・メンター事業――参加、エンパワメント、社会的包摂[仁科伸子]
1 ローガンスクエア近隣地域
2 ローガンスクエア・ネイバーフッド・アソシエーション
3 ペアレント・メンター事業
4 働くことの意味
事例Ⅳ 働くことで、力を得る――小国町サポートセンター悠愛のお姫様Aさん[仁科伸子]
いってきまーす[椋野正信]
事例Ⅴ 韓国の労働形成型社会的企業の事例[金吾燮]
1 韓国の障害者雇用状況
2 韓国の社会的企業
3 労働形成型社会的企業POSCOHUMANS
4 持続可能な事業と新たな雇用への挑戦
おわりに
事例Ⅵ 社会福祉法人グリーンコープ ファイバーリサイクルセンター――就労支援事業所での取り組み[西﨑緑]
1 グリーンコープと福祉事業の取り組み
2 グリーンコープがファイバーリサイクル事業にかかわることになった経緯
3 抱樸館福岡との連携
4 アル・カイールアカデミーとの関係
5 就労支援事業について
6 ファイバーリサイクル事業の運営の仕組み
事例Ⅶ 社会起業による福祉と労働のクロスオーバー――ソーシャル・ビジネスを手掛りに[牧里毎治]
1 店の構えから
2 これまでの歩み
3 アジア人女性たち
4 SALAの向かうところ
5 店主の想いと願い
6 福祉と労働をつなぐ
7 ソーシャル・ビジネスを媒介に
事例Ⅷ 自ら求めるサービスを創り出す協同組合の福祉事業[熊田博喜]
はじめに
1 日本における生協の成立とその動態(第一期:1978-1944)
2 戦後における日本型生協の成立と家庭会と班の発展(第二期:1945-1983)
3 生協を基礎とした福祉の成立(1983-1997)
4 生協を基礎とした福祉の発展(1998-現在)
5 生協を基礎とした福祉の活動形態の変遷
おわりに
終章 本書の取りまとめと今後の課題[仁科伸子]
1 ワークフェアは貧困を減少させたのか
2 労働の福祉力
3 福祉事業は市場で生き残れるか?
4 労働を組み込んだグッドプラクティスとその限界
5 協同とディーセント・ワークによる可能性
あとがき
索引
前書きなど
はじめに
(…前略…)
第1章は、福祉と労働の歴史的な関係性を救貧から福祉国家への移行、そして新自由主義による変革の流れに沿って分析し、検証することを試みている。産業革命期の救貧法においては、「働けるものは、救済の対象ではない」とする考え方が主流であり、基本的に困窮者は家族が救済し、どうしても不可能な場合には、教区やコミュニティ、国が救済するという考え方が基本であった。そして欧米では、「労働可能な者は救済しない」という基本的な考え方に基づき、ワークハウスと呼ばれる、見せしめや、矯正教育、強制労働の機能を備えた機関があった。本章では働けるものは働くことを基本としたワークフェアの考え方は、実は歴史の中にすでに息づいていたことを再認識している。社会保障や社会福祉が、国家の責任となるのは、大恐慌などを経て、貧困が科学的に社会の問題であるという認識が成立したのちである。製造業中心の資本主義の発展が、福祉国家の成立を促し、社会福祉法制が充実していくが、1970年代以降、オイルショックなどの経済危機により、福祉国家は財政的な限界に直面し、福祉政策が見直された。新自由主義政策が始まると、小さな政府主義と市場の活用が、福祉政策にも採用され、就労を重視した「ワークフェア」や社会的企業が、福祉と労働を結節する役割として発展していった。
第2章では、グローバリゼーションと高齢化により、ヨーロッパ社会でも外国人労働者や移民が増加したことと、社会的包摂とは何かについて検討している。移民の受け入れは、アメリカでもヨーロッパ諸国においてもコンフリクトを生じている。社会的包摂は、ヨーロッパで生まれた社会政策的概念であり、移民文化を受け入れるという意味もあるが、労働を通じて社会システムの中に移民を包摂していくことが本質であるという議論を展開している。
第3章は、ドイツの社会保障における外国人の位置づけについて取り上げている。日本と同様に社会保険を中心とする社会保障を有するドイツは、長年にわたりさまざまな国から幅広い外国人を受け入れており、外国人の社会保障に関して生じる問題やその対応策について、政策的・学術的な議論が豊富に蓄積されている。そこで、この章では、外国人の社会保障に関する基本的考え方やドイツ社会保障における外国人の位置づけについて検討し、それをもとに、外国人労働者が増加している日本での制度の見直しについて考察している。
第4章は、移民や外国人労働者に対する市民権について、歴史的、国際的な視点から分析している。この章全体のテーマとして、移民労働者の受け入れと市民権の関係がグローバル化した社会において重要であることが考察されている。この章では、次の4つの重要なポイントが指摘されている。
市民権の概念は古代ギリシア・ローマに遡り、参政権や法的権利が一定の集団に与えられた。近代では、フランス革命を経て、国民と市民が同義に扱われるようになった。20世紀後半からのグローバル化により、移民や外国人労働者の増加が各国に影響を与え、これまでの市民権の概念が再検討されるようになった。EU の統合によるEU 市民権は、国境を越えた移動や労働の自由を保障し、国籍を持たない移民への市民権も含めた新たな枠組みを形成した。移民や外国人労働者を受け入れることは、労働力の確保や社会保障制度の維持に貢献する一方で、文化的な摩擦や社会統合の課題も生じる。特に、日本のように少子高齢化が進む国では、外国人労働者の役割が今後さらに重要視される可能性がある。アメリカ、カナダ、EU の各国は、移民政策において異なるアプローチを取っている。アメリカやカナダでは、移民や外国人労働者に市民権を与える政策を進めており、特に高度な技能を持つ労働者が優遇されている。日本もこのような国際的な動向に倣い、移民労働者の受け入れ制度を整備しているが、外国人労働者の権利保障の面ではまだ課題が残っている。
第5章では、福祉にかかわる労働の支援や、協同組合などの法人格を通じて社会的な目的を追求する法制度の必要性と、その国際的な展開を詳しく分析している。多様な人々を包摂するのに適した法人格として、社会的企業、社会的協同組合、労働統合社会的企業(WISE)、労働者協同組合などが紹介されている。これらの法人格は、利益の最大化ではなく、社会的目標達成を優先する点が特徴的である。また、本章では、ドイツやスペイン、韓国など、社会的企業に関する法制度が整備された国々の例を取り上げ、各国で異なる社会的企業の定義や支援制度について比較検討した。協同組合や社会的経済(社会的連帯経済)は、単なる営利追求ではなく、社会的な目的を掲げる経済活動の一環として発展してきたが、これにより、社会的弱者への支援や地域社会への貢献を目指している点も指摘されている。
本格的に進む高齢社会や人口減少による労働者不足によって、産業社会のパラダイム転換が進むと、外国人労働者やバックグラウンドの異なる人々が統合されるシステムや、労働のあり方の変化に対応するしくみが必要となる。
その一つの鍵が、協同による労働である。
第6章は、福祉において労働がどのような意味を持っているかを示す7つの事例を提示している。まず、事例Ⅰ「移民労働者を包摂する社会的連帯経済―スペインの事例より」、事例Ⅱ「難民のドイツ労働市場への統合」、事例Ⅲ「ローガレスクエアにおけるペアレント・メンター事業―参加、エンパワメント、社会的包摂」では、外国人労働者や難民、移民の社会的包摂についての事例を取り上げている。重要な点は、尊厳ある労働によって、労働者がエンパワメントされるという指摘である。事例Ⅳは、働く喜びがエンパワメントにつながったことを示す事例となっている。事例Ⅴは韓国の労働形成型就労の例を紹介している。事例Ⅵは、生活協同組合による働く場の創造について、事例Ⅶは、労働によって自ら求めるサービスを創り出した事例を取り上げている。事例Ⅷは、利益の追求を第一義的な目的とせず、社会的課題の解決を目的として起業されたソーシャル・ビジネスの一例を紹介している。飲食業を通じて、日本に暮らす外国人女性たちが社会参加できるよう支援し、その過程でスタッフや顧客の共感と協力を得て事業が展開されていく様子がつづられている。
終章では、労働には、移民、難民、外国人労働者や障害者など、社会から排除されがちな人々を社会システムの中に包摂する力、尊厳ある労働によってエンパワメントする力があること、そして自ら働く場や求めるサービスを創り出せることや、社会問題を解決する機能があることを指摘し、当事者主権や新自由主義をルーツとして、多様に立ち上がってきている点を確認した。
本書は、社会福祉学の研究を通して福祉と労働の関係性とその意味を、法律の専門家、社会的連帯経済の推進者とともに問うたものである。福祉と労働の研究をまとめるにあたって、ディーセント・ワーク、生活賃金闘争や就労支援政策の効果に関する統計学的な研究は今後の課題となっている。このため、まだ議論として荒削りの部分もあるが、過去20数年間、日本で起こっていることをさらに深く考え、さらには、ディーセント・ワークや新たな働き方の普及にわずかでも貢献できることを願っている。
上記内容は本書刊行時のものです。