書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
現代中国における都市新中間層文化の形成
「小資」の構築をめぐって
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年5月30日
- 書店発売日
- 2024年5月24日
- 登録日
- 2024年4月30日
- 最終更新日
- 2024年6月25日
紹介
1990年代以降、中国は社会主義の枠組みから消費社会へ移行し、その中で都市新中間層の勃興が顕著になっている。本書はその変遷を解明し、「小資」概念を中心に文化的特質と社会的影響を探求した。消費社会化とイデオロギーの葛藤を通じて、都市新中間層のメディア文化について文化社会学の視点から新たな地平を開こうとする一冊。
目次
はじめに
序章 「小資」を構築する
第1節 現代中国の都市新中間層
第1項 都市新中間層の誕生と勃興
第2項 都市新中間層に対する表象・認識
第2節 都市新中間層をめぐる「小資」の構築
第1項 社会変動を刻印する「小資」の構築
第2項 表象実践として捉えられる「小資」の構築
第3項 「小資」の構築からみる中国の近代化
第3節 都市新中間層に関する先行研究
第1項 欧米・日本の新中間層研究
第2項 中国の新中間層研究
第3項 「小資」研究
第4節 研究資料と構成
第1部 「小資」概念の変容:都市新中間層との結合
第1章 「小資産階級」概念から「小資」概念への変容
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第3節 研究方法
第4節 「2つの階級、1つの階層」の変遷にみる「小資産階級」の実態
第1項 「2つの階級、1つの階層」の形成(1956年以前)
第2項 「2つの階級、1つの階層」の序列化の深化(1957年-1977年)
第3項 「2つの階級、1つの階層」の解体(1978年-1980年代)
第4項 新たな階層構造の形成(1990年代以降)
第5節 階層構造の変動と絡み合った「小資産階級」イメージの変容
第1項 知識人層を批判する「小資産階級」イメージの汚名化(1956年以前)
第2項 政治闘争による「小資産階級」イメージのラベリング化(1957年-1977年)
第3項 「小資産階級」イメージの脱ラベリング・脱汚名化(1978年-1980年代)
第4項 「小資産階級」から「小資」への変容(1990年代以降)
第6節 結論
第2部 「小資」概念の展開:都市新中間層のメディア文化の創出
第2章 「小資」文化の担い手の文化資本獲得
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第1項 文化資本の定義・役割
第2項 学校での文化資本の獲得様式
第3節 研究方法
第4節 文化資本の獲得:教育制度の面から
第1項 文化的再生産の遮断と再興
第2項 高等教育改革
第3項 エリート大学生から都市新中間層へ
第5節 文化資本の獲得:学生文化の面から
第1項 知識人的ジャーナリズムがリードした「文化熱」
第2項 学生文化のなかで獲得した文化資本
第6節 結論
第3章 「小資」文化の生産体制の整備
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第3節 研究方法
第4節 「小資」文化を生産するメディア体制の構造
第5節 エリート大学生のメディア従事者の役割
第1項 中産階層的雑誌・新聞におけるメディア従事者の役割
第2項 ポータルサイトにおけるメディア従事者の役割
第3項 「小資」図書におけるメディア従事者の役割
第6節 結論
第4章 「小資」文化の「中間性」の規定と相対化
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第3節 研究対象
第1項 「小資」文化の生産に取り組んだ『上海壹週』
第2項 高尚な文化的趣味を育成する出版文化
第4節 『上海壹週』における都市新中間層的ジャーナリズムの形成
第1項 エリート大学生による経営方針
第2項 エリート大学生による編集方針
第5節 『上海壹週』における「小資」文化の差異化
第1項 「機関紙文化」との差異化
第2項 「小市民文化」との差異化
第6節 結論
第3部 「小資」概念の衰退:都市新中間層との乖離
第5章 マスメディアにおける「小資」概念の衰退
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第3節 研究方法
第1項 批判的言説分析
第2項 『南方都市報』・『広州日報』・『羊城晩報』に関して
第4節 消費社会化の中の都市新中間層
第5節 三大紙における「小資」言説の変容
第1項 「小資」言説の操作化
第2項 「小資」言説の萌芽期(2001年-2005年)
第3項 「小資」言説の発展期(2006年-2012年)
第4項 「小資」言説の衰退期(2013年-2019年)
第6節 結論
第6章 ソーシャルメディアにおける「小資」概念の衰退
第1節 問題提起
第2節 研究視角の検討
第3節 研究方法
第1項 「豆瓣網」における「小資」文化
第2項 研究資料と分析方法
第4節 社会的コンテクストと絡み合った「豆瓣網」
第1項 技術
第2項 法制度
第3項 産業構造
第4項 組織構造
第5項 職業経歴
第6項 市場
第5節 「豆瓣網」における「小資」文化の変容
第1項 評論文を中心とする映画コンテンツ生産(2005年-2008年)
第2項 ランキングを中心とする映画コンテンツ生産(2009年-2019年)
第6節 結論
終章 「社会転型」のなかの「小資」
第1節 「小資」の構築のメカニズム
第2節 「小資」の構築と社会変動の圧縮性
第3節 都市新中間層の大衆化現象の解明にむけて
あとがき
初出一覧
参考文献
付表1 『上海壹週』の各コラムに掲載されるコンテンツの詳細
付表2 三大紙における記事の内訳
前書きなど
はじめに
新型コロナウイルスのパンデミックが発生する前の、傍目も気にせずに何でも手当たり次第に買うという中国人観光客の「爆買い」現象は、いまだに日本社会の記憶に新しいことだろう。メディアの過剰報道に接した多くの日本人は、中国人観光客の旺盛な消費能力に驚いたであろうが、中国の都市新中間層にあたるそうした人々の実態を知ることはあまりないだろう。社会主義国として、本来ならば、存在すべきではない都市新中間層の誕生と勃興は、現代中国の社会変動を映し出し、日本社会が現代中国に対する認識を刷新する切口と言えるだろう。
1990年代以降、社会主義市場経済体制の確立によって、中国社会は、伝統型社会から現代型社会へと転換するという新たな時期に突入した。社会体制の転換の加速化を背景として、都市新中間層の誕生と勃興は、学者、政府、メディアなどの注目を集めている。日本社会でも「中流」、「中間層」、「中産階級」などの概念が盛んに議論されているように、中国の都市中間層に対して、「中産階級」、「中産階層」、「中等収入者」、「小資」などの概念が使用されている。それぞれの概念および概念から発展した言説は利用者の意図や立場を反映しているが、本書ではとりわけ、学者、政府、メディアが投げるまなざしの収束点としての「小資」概念に目を向ける。
「小資」とは、もともと「小資産階級」、すなわち「プチブルジョア」の中国語訳の略語であった。しかし、1990年代以降は、都市新中間層に特化する代名詞となった。ほかの概念と比べて多様な媒体で流通していた「小資」概念は、1990年代以降の中国の社会体制の変動という文脈に強く依存する特有の産物であり、新聞、雑誌、インターネットといった多様なメディアにおいて個性的消費を強調するコンテンツ、いわゆる「小資」文化を発展させていった。ただし、2010年以降、「小資」概念も「小資」文化も都市新中間層との結びつきから離脱し、かつてほどには注目されないようになった。
本書では、そのような「小資」概念の変容・展開・衰退を「小資」の構築として捉える。「小資」の構築のプロセスは、1949年の中国から始まったが、本書は便宜的に、2019年までの70年間の歴史を取り扱った。このような考察は、現代中国の歴史を貫いているが、そのなかでも、とりわけ1990年代以降の社会主義市場経済の確立を嚆矢とする社会体制の転換加速期に注目する。また、「小資」の構築のプロセスに従って、本書を、第1部「『小資』概念の変容:都市新中間層との結合」、第2部「『小資』概念の展開:都市新中間層のメディア文化の創出」、第3部「『小資』概念の衰退:都市新中間層との乖離」というような三部構成を立てる。
(…中略…)
日本社会はかつて「一億総中流」社会と呼ばれており、中産階層の大衆化が高度成長の印として多くの注目を集めた。30年遅れだが、高度成長に突入してきた中国も都市新中間層の拡大によって世界から視線が向けられている。それぞれの社会背景や歴史時期は異なるから、中国の都市中間層は完全に日本の中間層と同じ道を辿ることはおそらくないだろう。ただし、冒頭で触れたように、「爆買い」など、グローバリゼーションは中国の都市中間層の存在を日本人に察知させるチャンスを作り出した。「他者」として中国の都市新中間層の形成や実態を知ることは、「失われた30年」と呼ばれた経済の低迷が続いている現時点の日本人読者にとって、「自己」である日本社会の戦後史を再思考する上で、適切な機会となるだろう。少しでもそのような成果を出すことができるのであれば、日本社会で本書を出版する意義があると思っている。
上記内容は本書刊行時のものです。