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黒人法典
フランス黒人奴隷制の法的虚無
原書: Le Code Noir ou le calvaire de Canaan
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年6月30日
- 書店発売日
- 2024年6月27日
- 登録日
- 2024年5月21日
- 最終更新日
- 2024年7月23日
書評掲載情報
2024-10-26 |
朝日新聞
朝刊 評者: 隠岐さや香(東京大学教授・科学史) |
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紹介
1685年からビジネスのため黒人を厳格に管理・所有するための法律が世界に先駆けてフランスで制定された。聖書を都合よく解釈し黒人を物品として扱い、1848年まで続いた黒人法典の存在を無視したルソーやモンテスキューら啓蒙思想家たちを苛烈に糾弾した問題作が待望の刊行。
目次
凡例
序論
第一部 黒人法典 偏見の光のもとで
第一章 始まりの呪い
第二章 人間? それとも獣?
第三章 人間未満の獣 獣化した人間
第四章 神学者たち 白人=聖書主義と単一起源説、精神の堕落と身体の醜悪
第五章 哲学者たち 複数起源説、肌の色、自然奴隷説、白人=聖書主義
第六章 単一は平等にあらず 黒人の魂は何色か
第七章 彼らを救おう 〈天国〉への貿易によって
第八章 黒人法典
第九章 記憶と忘却 復刻の理由を説明する
第二部 黒人法典 本文と註釈
一 前文
二 カトリシズム 奴隷にとって唯一にして義務である宗教(第一~七条)
三 同棲、結婚、奴隷に対するその民法上の帰結(第八~一三条)
四 奴隷の埋葬(第一四条)
五 奴隷制の日常 移動についての規定(第一五~二一条)
六 奴隷制の日常 奴隷の食事と衣服(第二二~二七条)
七 所有権に関する奴隷の無能力(第二八~二九条)
八 司法上の奴隷の無能力(第三〇~三一条)
九 刑法上の奴隷の責任(第三二~三七条)
一〇 逃亡と隠匿の罪(第三八~三九条)
一一 奴隷に対峙する司法と奴隷主(第四〇~四三条)
一二 商品としての奴隷(第四四~五四条)
一三 解放とその帰結(第五五~五九条)
一四 結語(第六〇条)
第三部 黒人法典 啓蒙の影のもとで
第一章 奴隷たちが発言する ル・モア=ラック、クゴアーノ
第二章 自由の蜃気楼 「復帰法」
第三章 モンテスキューの飾言
第四章 ルソー 言い知れぬ奴隷制
第五章 レナルとその他の者たち 別の黒人たちに別の物言いを
第六章 「黒人の友」たちの詭弁
第七章 エピローグ ナポレオンからシェルシェールへ
第一三版へのプロローグ
第一二版へのプレリュード
カドリージュ叢書初版への序文
プラティック・テオリック叢書第七版へのまえがき
年表
訳者解説 未来のラス・カサス
訳者あとがき
書誌
主要人名索引
前書きなど
訳者解説 未来のラス・カサス
(…前略…)
このような歴史の語り直しの気運のなかで、現在、フランスが奴隷貿易と奴隷制に関与したことのシンボルのようにみなされているのが、本書の主題である「黒人法典」と呼ばれる法文書だ。この法文書は、フランスの歴代王のなかでたいへん権勢を誇ったルイ一四世の治世下の一六八五年三月に発布された。たとえば、二〇二三年六月にリニューアルを果たしたパリの国立移民史博物館の常設展では、移民史の起点の象徴年をこの法文書発布の一六八五年に定め、奴隷貿易と奴隷制の記憶を語ることから始めている。さらに「黒人法典」が注目を集めるようになるにつれてその研究も進み、「黒人法典」は施行時の名称(当時は「奴隷に関する王令」といったような名称で複数あり)ではなく、一七一八年からそう命名され一般化した呼び名であることや、黒人法典に署名した「コルベール」が、ルイ一四世の絶対王政を支えた財務総監ジャン=バティスト・コルベール(一六八三年に他界)ではなく、その同姓同名の息子だったことなどが指摘されている。
少し大げさに言えば、黒人法典がいまのようにフランスの奴隷貿易と奴隷制のシンボルとなり、この法文書をめぐる研究が活性化するようになったのは、本書で黒人法典のことが知られるようになり、議論の的になったからである。少なくとも本書がフランスにおける黒人法典の認知に貢献した文献であるのは疑いようがない。原著が刊行された一九八七年当時、黒人法典は一部の歴史家のあいだで知られる程度のものであり、奴隷貿易と奴隷制の歴史のなかの一コマにすぎなかった。原著のなによりもの貢献は、古文書や古い専門書のなかに埋もれていた黒人法典というテクストを復刻し、だれもが読めるようにしたことにある。あとで述べるように、少し変わった構成と書き方をとる本書はかならずしも読みやすい本とは言えない。にもかかわず、初版刊行から現在に至るまで、原著は版を重ねて読み継がれている。
(…中略…)
このことを別様に言えば、著者は、黒人法典の発掘を通じて、奴隷貿易と奴隷制をめぐる問題群を発見し、これらをフランスの思想史のなかに導入したのである。なぜフランスはアンティル諸島の黒人奴隷を黒人奴隷として正当化する法律を制定したのか。なぜ一六八五年に制定された黒人法典は、人権や平等をうたう啓蒙主義の時代を平然と生き延びて一六〇年以上も続いてきたのか。こうした問いに答えるためには、たんに黒人法典を復刻するだけでは十分ではなく、黒人法典が成立する以前にまでさかのぼり、フランスで黒人がどのように当時の言説のなかで表象され、論じられてきたのかをたどる必要があったのである。
(…中略…)
上記のような問題意識の結果、本書の構成は少し複雑なものとなっている。まず、黒人法典についての本でありながら、その成立の具体的な経緯に関する記述は最小限に抑えられているといってよい。これに関しては、以下でも触れる資料的な制約という以上に、第二部に収められた法典本文と註釈に集中してほしいというのが著者の意図だったように思われる。その第二部をサンドウィッチのように挟んでいるのが、中世から近世にかけての神学的な議論を取り上げる第一部、そして、フランス啓蒙思想が黒人法典に対して示した沈黙、また奴隷制に異議を申し立てた後続世代の理論家たちにまで取りついた人種差別的偏見を問題とした第三部である。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。