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発達障害者は〈擬態〉する 横道 誠(著) - 明石書店
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発達障害者は〈擬態〉する (ハッタツショウガイシャハギタイスル) 抑圧と生存戦略のカモフラージュ (ヨクアツトセイゾンセンリャクノカモフラージュ)

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発行:明石書店
四六判
216ページ
並製
価格 1,800 円+税   1,980 円(税込)
ISBN
978-4-7503-5702-7   COPY
ISBN 13
9784750357027   COPY
ISBN 10h
4-7503-5702-2   COPY
ISBN 10
4750357022   COPY
出版者記号
7503   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
在庫あり
初版年月日
2024年1月30日
書店発売日
登録日
2023年12月20日
最終更新日
2024年2月1日
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紹介

自らも発達障害の当事者であり、自助グループを運営する著者が、当事者間では一般的ながら、支援現場ではまだ浸透していない発達障害者の〈擬態〉について11名にインタビュー。当事者の「生きた声」と「発達障害者の内側から見た体験世界」をリアルに伝える。

目次

 はじめに

第1章 ふつうっぽさを出そうと「擬態」をしていましたが、「ふつうじゃなさ」が周囲に漏れていました。
    ――固体うさぎさんへのインタビュー

第2章 僕の問題は書字障害で、文字が頭に浮かんで来ないんです。
    ――Tenさんへのインタビュー

第3章 世間とどう向きあったらいいのか、最適解はわかっていません。
    ――向坂くじらさんへのインタビュー

第4章 女性に擬態して、定型発達者に擬態して、日本人に擬態しようとしました。
    ――ジガさんへのインタビュー

第5章 毎年のように国家資格に挑戦しつづけていて、一〇個の国家資格を持っています。
    ――おぐっちょさんへのインタビュー

第6章 私を助けてくれているのは趣味です。趣味のお陰でメンタルの安定が保てている部分があります。
    ――しのぴーさんへのインタビュー

第7章 サルトルが言った「地獄とは他人のことだ」という言葉に完全に共感します。
    ――すふさんへのインタビュー

第8章 「擬態」は抑圧だと思っています。じぶんを抑えながら、死んだような気持ちになって仕事をしていました。
    ――きいちゃんへのインタビュー

第9章 私の当事者性は、日本の女性で、就職氷河期世代で少し発達障害者というところにあります、たぶん。
    ――大井さんへのインタビュー

第10章 みんなが顔色をうかがっているなかで先陣を切って飛びこんでいくのが好きなんです。
    ――しーやんへのインタビュー

第11章 周囲とひたすら戦っていた。どうして明文化されていないものに合わせないといけないのって思って。
    ――まごっとさんへのインタビュー

 おわりに

前書きなど

はじめに

 かつて知的障害のない自閉症は、アスペルガー症候群と呼ばれ、その特徴について精神科医のローナ・ウィングは社会性の障害、コミュニケーションの障害、想像力の障害という「三つ組の障害」という説明を与えました。うまく社交ができない、言語の運用や非言語の身振りなどが特異で、独特のこだわりがあり、他者の心のうちがわからない、という「症状」の組みあわせを意味しています(Wing 1981)。
 二〇一三年に刊行された『精神疾患の診断・統計マニュアル』第五版(DSM-5、邦訳は二〇一四年)によって「アスペルガー症候群という病名は廃止され、自閉症もアスペルガー症候群を含むさまざまなサブタイプも「自閉スペクトラム症」という病名に統合されました。二〇二二年に刊行された同書第五版修正版(DSM-5-TR、邦訳は二〇二三年)でもそのままなのですが、ウィングが提唱した「三つ組」が知的障害のない自閉スペクトラム症者の中核特性だという見解を、多くの精神科医や心理士が根強く保持しています。
 けれども近年になって、海外の自閉スペクトラム症研究で、ある種の患者が訴える生きづらさのうちに自閉スペクトラム症の特徴が表れているのに、その挙動からはそれがわかりにくい、自閉スペクトラム症がない「定型発達者」に見えるという事例が注目されるようになって、その人たちの挙動が「カモフラージュ」(camouflage)と呼ばれ、研究されるようになりました。カモフラージュには、人目につくと思われる自閉スペクトラム症由来の言動を隠す「仮面着用」(masking)と、自閉スペクトラム症由来の社会性・コミュニケーション・想像力の欠如として受けとめられるものを穴埋めする「代償」(compensating)があると指摘されています(Fombonbe 2020)。
 「カモフラージュ」とは日本語にすれば「偽装」や「迷彩」のことです。ある種の動物たちが体の形や模様を生かして周囲の風景に溶けこんだり、場合によっては体の色や形を変えたりして危険を切りぬけることです。そのような演技を自閉スペクトラム症者は迫られているというわけです。このような「カモフラージュ」はどこまで自閉スペクトラム症者に特有なのでしょうか。たとえば、ある文化圏から別の文化圏に移住してきた場合、あるいは生活する地域や労働する環境を変更した場合、「郷に入っては郷に従え」の精神で、誰でも「カモフラージュ」するのではないでしょうか。
 その考え方は必ずしもまちがいではないと思います。けれども自閉スペクトラム症者の場合は、そもそも第一次的な体験世界、つまり感覚や認知のあり方という点で定型発達者と大きなズレがあるために、その「カモフラージュ」がとりわけ注目に値することになります。サラ・バーギエラは、自閉スペクトラム症のカモフラージュがとくに女性の当事者に顕著だと強調しつつ、男性やノンバイナリー(男女とは異なる性別を自認する人)にも見られることに注意を促しています(バーギエラ 2023:40)。しかし私は、カモフラージュは自閉スペクトラム症者だけではなく、発達障害者一般にも看取されると思うのです。注意欠如多動症(ADHD)や限局性学習症(SLD)の当事者も固有性の高い体験世界を形成しているために、しばしばカモフラージュをしていると私は感じてきました。発達障害者としてのそれぞれの特異性に対して、当事者たちがどのような「カモフラージュ」をつうじて対応しているのかが本書でサンプル提示され、解説されていきます。
 田宮裕子と田宮聡は、「カモフラージュをすることには、社会生活がスムーズになる、就職で有利になるといった利点もありますが、日常生活において絶え間なく自分の行動をコントロールしなければならない結果、心理的に疲れ切ってうつ病や不安症を発症したり、自己肯定感が低下したりするという欠点も指摘されています」と解説します(バーギエラ 2023:45)。そのとおり、カモフラージュの本質とは、それが抑圧の結果であり、かつ生存戦略の発動でもあるということです。そのリアルな実態を提示していくことが本書の課題となります。

 (…後略…)

著者プロフィール

横道 誠  (ヨコミチ マコト)  (

京都府立大学文学部准教授。1979年生まれ。大阪市出身。文学博士(京都大学)。専門は文学・当事者研究。単著に『みんな水の中――「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院)、『唯が行く!――当事者研究とオープンダイアローグ奮闘記』(金剛出版)、『イスタンブールで青に溺れる――発達障害者の世界周遊記』(文藝春秋)、『発達界隈通信――ぼくたちは障害と脳の多様性を生きてます』(教育評論社)、『ある大学教員の日常と非日常――障害者モード、コロナ禍、ウクライナ侵攻』(晶文社)、『ひとつにならない――発達障害者がセックスについて語ること』(イースト・プレス)、『解離と嗜癖――孤独な発達障害者の日本紀行』(教育評論社)、『グリム兄弟とその学問的後継者たち――神話に魂を奪われて』(ミネルヴァ書房)、『村上春樹研究――サンプリング、翻訳、アダプテーション、批評、研究の世界文学』(文学通信)が、共著に『当事者対決! 心と体でケンカする』(世界思想社)、『海球小説――次世代の発達障害論』(ミネルヴァ書房)、編著に『みんなの宗教2世問題』(晶文社)、『信仰から解放されない子どもたち――#宗教2世に信教の自由を』(明石書店)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。