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ラダックを知るための60章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年9月30日
- 書店発売日
- 2023年9月22日
- 登録日
- 2023年7月20日
- 最終更新日
- 2023年9月29日
書評掲載情報
2023-11-11 | 日本経済新聞 朝刊 |
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紹介
かつてインド領チベット、あるいは西チベットとも呼ばれたラダックは、ヒマラヤ山脈中のラダック王国として成立、千年後の現在もインド連邦直轄領としてその独自性を誇っている。本書は厳しい自然に対峙しているラダックとそこにいきる人びとの営みを紹介する。
目次
はじめに
Ⅰ ラダックの概観
第1章 ヒマラヤの自然――高標高、乾燥地帯という厳しい環境条件
第2章 ラダック王国の成立――経済基盤としての国家間長距離交易
第3章 ラダックの人口動態――――平衡から労働人口の移入
第4章 ラダックの宗教的多様性――仏教、イスラーム、キリスト教の共存
第5章 憲法指定部族法令の制定を経て連邦政府直轄領ラダックの形成――「ラダック人」としての帰属性と再出発
【コラム1】ラダックにおけるチベット難民とダライ・ラマ14世
Ⅱ 歴史
第6章 ダルドと北方騎馬民族の到来(紀元前2000年~9世紀)――アーリア人とモンゴロイドの混成によるラダック人の起源
第7章 ラダック王国成立期(c.900~1400年)――吐蕃王国滅亡後の逃走
第8章 ラダック王国発展期(c.1400~1600年)――太陽と月にたとえられた獅子王と虎僧
第9章 ラダック王国衰退期(c.1600~1834年)――交易経済基盤の喪失
第10章 ジャム王グラブ・シンの将軍ゾラワール・シンによるラダック攻略――ドグラ統治の成立(1834~1846年)
第11章 ジャム・カシミール藩王国の成立と英領インド帝国の統治(1846~1947年)――盛んな国際交易と英領インド帝国の戦略的介入
第12章 インド独立後のラダックの現代化(1947年~現在)――ジャム・カシミール州ラダックとしての出発から連邦直轄領ラダックへ
【コラム2】ラダックの地政学的位置づけ
Ⅲ 農耕と生態
第13章 ヒマラヤ地域の生計活動――標高差を利用した生存戦略
第14章 農耕と水の配分――階層性と平等原理との折衷
第15章 収穫と分配――わかちあいのこころによる特別な分配方法
第16章 脱穀と家畜――家畜の貸借関係によるたすけあいのこころ
【コラム3】大麦の計量単位と貸借契約
Ⅳ 果樹栽培
第17章 果樹栽培――下手ラダックにおけるあんずなどの果樹栽培
第18章 あんずの収穫と加工方法――石皿を用いたあんず油の抽出
第19章 あんずの生産物と利用方法――交易商品としての価値
【コラム4】バルティスタンにおけるあんず
Ⅴ 上手/下手ラダック、ザンスカールにおける移牧
第20章 家畜の育種――ヤクと牛の交配による品種改良
第21章 ラダックのブロック、ジョンサ、プー――標高差を利用した移牧
第22章 ザンスカールの人口、標高、耕地面積、家畜数――標高による生計基盤の変化
第23章 ザンスカールのドクサ――新たな余剰生産物を生み出すための展開
第24章 ラダックにおける乳製品の生産体系――ヨーグルトからバターとチーズへ
Ⅵ チャンタン高原における遊牧
第25章 チャンタン高原の遊牧民――季節毎の固定地点を巡る周回型移動
第26章 チャンタン遊牧民における家畜の認識――家畜の分類と名称
第27章 ヤクの管理と利用――出産から離乳まで
第28章 パシュミナ山羊の管理と利用――交易品であるパシュミナの生産
第29章 羊の管理と利用――羊毛織布であるスナンブの製作
【コラム5】ヤク、山羊、羊の毛皮の利用
第30章 家畜の再生産と危機管理戦略――たすけあうこころの制度的発動
第31章 危機管理戦略と人口移動――チャンタン遊牧民のレーへの移住
【コラム6】チャンタン遊牧民のカレンダー
Ⅶ 交易経済
第32章 短距離/中距離交易――ともにいきるこころと共生関係
第33章 国家間長距離交易と輸出入関税――ラダック王国の交易経済
第34章 交易商人とアルゴン――現在に続く異民族とともにいきるこころ
第35章 交易経済から観光経済への転換――新たな経済発展への戦略
【コラム7】ラダック祭と観光誘致
Ⅷ 社会と協力
第36章 ラダックの家族と家制度――隠居制家族
第37章 婚姻規制と婚姻制度――一妻多夫婚から一夫一妻婚への変化
第38章 ラダックの結婚式――スクセキョンセとバクストン
第39章 結納と持参財――アジャンの役割
第40章 ラダックの結婚歌――問答歌とひとつになるこころ
第41章 灌漑と協力――ひとつになるこころと帰属性
第42章 家族の協力――人間活動系とたすけあいのこころ
【コラム8】ラダックの親族名称
Ⅸ 食文化
第43章 大麦の食事――主食としてのコラックとパパ
第44章 小麦の食事――主食と副食による献立の変異
第45章 そば、粟、米の食事――多様な料理方法の展開
第46章 乳製品と肉の食事――穀物と家畜の組み合わせから成る料理
第47章 日々実践される食事――料理のこころ
【コラム9】茶と大麦酒
Ⅹ 儀礼
第48章 葬儀と祖先供養――悲しみから感謝のこころへの転換
第49章 誕生祭――喜びからいきる勇気への転換
第50章 新年――悪霊の追放としあわせを願うこころ
第51章 ラーへの奉納儀礼――超自然的力の認識と守護の祈願
Ⅺ 仏教とシャマニズム
第52章 ラダック仏教の歴史的背景と現在――来世のしあわせを願うこころ
第53章 仏教僧院の祭礼――仮面舞踊と悪霊追放
第54章 ダルドのボノナ祭礼とラーの招請――人間と神々の自然な関係
第55章 僧院の祭礼とシャマニズム――人びとの期待に応えるシャマンの登場
第56章 仏教儀軌による悪霊の調伏――超自然的戦略によるこころの操作
第57章 シャマニズムによるこころの治癒――神々に憑依されるシャマン
【コラム10】ラダック僧院の祭礼日程
Ⅻ 政治と帰属性
第58章 ラダック王国の政治――現代に至る歴史的連続性
第59章 ラダック王国の遺産――座列を巡る伝統と帰属性
第60章 ラダック人の帰属性――現代に継承される言語と文化
【コラム11】ラダック語の正書法とアルファベット転写方式
ラダックを知るための参考文献
おわりに
前書きなど
はじめに
ラダックはヒマラヤ山脈中のラダック王国として成立し、千年後の現在もインド連邦直轄領ラダックとして、その独自性を誇示し続けている。
1974年に外国人の入域が解禁されたラダックは、厳しい自然に対峙していきる人びとと、僧院でチベット仏教を実践する僧たちという現代の秘境としての神秘的な姿を現わす。そのため、この地域は未知なる地理的フロンティアであるばかりでなく、精神的フロンティアでもあった。
現在、ラダックは雄大な自然と豊かな伝統文化を観光資源に、インフラの整備と交通の便を図り、旅行者が容易に入ることのできる地域として再登場した。
本書はラダックに関するエリア・スタディーズとしての幅広い項目、すなわち、自然(地理、環境)、歴史、経済(農耕、果樹栽培、移牧、遊牧、交易、観光)、社会、文化、儀礼、宗教、政治の詳細な解説、および概観の提示をおこなう。
さらに、ここでは、人間の活動に焦点をあてた記述により、ラダックにおける人びとの生きざまの理解を試みる。その上で、ラダック王国の伝統という歴史の連続体としての現在のラダックの位置づけと展開、またそれを可能にする言語と文化の継承とラダック人としての帰属性(アイデンティティ)を提示する。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。