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現代バスクを知るための60章【第2版】
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年6月15日
- 書店発売日
- 2023年6月26日
- 登録日
- 2023年6月6日
- 最終更新日
- 2023年7月7日
紹介
スペインとフランスにまたがるバスク地方。独特の言語や文化が注目されてきたが、独立を求めた武装組織の解散もあり、飲食(ガストロノミー)、観光、イノベーションなど多方面でのグローバルな存在感を近年急速に高めている。初版以後の重要事象を増補し、情報更新を図った改訂版。
目次
第2版刊行にあたって
はじめに(初版)[抜粋]
バスク地方略図
バスク語の語のカタカナ表記に関するガイド
Ⅰ 土地・ひと・ことば
第1章 バスク地方とは――空間領域の問題
第2章 バスク人とは――その起源と自己定義
第3章 バスク語とは――系統不明の謎の言語
第4章 バスクの「家」――家屋の名前・名字・個人名
第5章 山バスク――バセリを中心とする小宇宙
第6章 海バスク――異質な外界との門戸
第7章 バスク的でないバスク地方――分水嶺の南側と飛び地
【コラム1】バスク語を学ぶには
【コラム2】バスク地方の主要都市
Ⅱ 移ろいゆくものと留まるもの
第8章 歴史舞台への登場――ローマ化とキリスト教化
第9章 フエロ体制――旧体制下のバスク地方
第10章 近代化の足音――経済活動の発展と社会的反目
第11章 民族・階級・国家――民族主義・社会主義・国家主義
第12章 抑圧・加担と忍従・抵抗――フランコ独裁下のバスク地方
第13章 グローバルな人の移動――在外同胞と流入者
第14章 日本とバスクとの関わり――端緒としてのカトリックと柔術
【コラム3】世界史の中の「バスク人」
【コラム4】バスク地方の世界遺産
【コラム5】ゲルニカ
【コラム6】内戦の記憶――英国に渡ったバスク学童
Ⅲ 「バスク地方」の形成と再編
第15章 「バスク地方」の形成――領域性の拡大か拡散か
第16章 バスク州――領域・自治権・県制
第17章 バスク・ナショナリズムの行方――その多様化と和平の模索
第18章 ナファロア州――異例の成立過程と更改された特権体制
第19章 錯綜し席巻する「ナバリスモ」――スペインの淵源かバスクの源郷か
第20章 歴史の重み――2種類のderechos históricos
第21章 経済協約と経済協定――高度な財政上の自治
第22章 フランス領バスク地方――変革の兆しか
第23章 バスク・ディアスポラの現在――時間的・空間的隔たりとの向き合い方
【コラム7】アルゼンチンの「バスクの家」
Ⅳ われわれ意識をつくる
第24章 記念日――「祖国バスクの日」と「バスク州の日」
第25章 イクリニャ――民族旗か州旗か
第26章 バスク民族の歌――歌曲の政治性
第27章 バスク語の「正常化」――言語政策と言語権
第28章 バスク語教育の現状――存続・教育から普及へ
第29章 現代スペイン・バスク社会におけるカトリック教会――暴力と分断をこえて
第30章 身体性とバスク・アイデンティティ――伝統スポーツの技法
第31章 バスク・アイデンティティの復興――「記憶」の継承と再生の「場」
第32章 変容するバスク・アイデンティティ――バスク地方辺境域とグローバル都市
【コラム8】シンボルと表象
【コラム9】国際バスク語の日とバスク・ディアスポラの日
【コラム10】コリカ
Ⅴ きずなとしがらみの間
第33章 伝説・伝承――昼と夜、大地と精霊
第34章 歳時記・年中行事――四季と人びとの営み
第35章 伝統的な習俗――古きをたずねる
第36章 諺・格言――古いことばは賢いことば
第37章 口承文芸――時空を越えて、ひとからひとへ
第38章 ベルチョラリツァ――ことばとメロディの職人芸
第39章 力比べ・技競い――労働からスポーツへ
第40章 食文化――バスクの日常の食卓
第41章 バスク女性――伝統社会の神話を乗り越えて
【コラム11】民族衣装
【コラム12】バスク地方の被差別民
【コラム13】エルカルテ・ガストロノミコとはしご酒
【コラム14】牧羊とチーズ製造
Ⅵ 古くて新しいもの
第42章 「グッゲンハイム効果」――美術館誘致による都市再生という投機
第43章 対外活動――国家を介さないディプロマシー
第44章 バスク語環境の近代化――古くて新しい言語へ
第45章 バスク語文学の新たな地平――話しことばから書きことばの芸術へ
第46章 リテラシーとメディア――バスク語による情報の授受
第47章 現代の「バスク音楽」事情――「エス・ドク・アマイル」以降
第48章 現代バスク・アート――オテイサとチリダ
第49章 バスク伝統スポーツのプロ化――ピロタの場合
第50章 助け合いの精神――モンドラゴン協同組合
第51章 新バスク料理とガストロノミー産業――バスク・ガストロノミーの功績
【コラム15】バスク地方の博物館・美術館・文書館
【コラム16】バスク語文学の翻訳
Ⅶ 分断から共生へ
第52章 人口動態の変化――多様化する社会構成員と共生社会
第53章 観光振興とオーバー・ツーリズム――日常生活の質の確保をめぐって
第54章 ジェンダー平等と伝統文化――女人禁制の伝統祭をめぐる確執
第55章 現代スペイン・バスク社会における宗教性――宗教的心性と宗教教育のゆくえ
第56章 研究開発イノベーション――持続可能な社会への道のり
第57章 ICTとバスク語文化――サイバー空間と現実空間
第58章 地産地消と地域呼称――地域のブランディング
第59章 社会的経済――労働から協働へ
第60章 自決権を問い直す――2010年代以降のバスク州の動向
【コラム17】地域通貨エウスコの挑戦
【コラム18】ローカル・コモンズとしての共有地
バスクについてさらに知りたい人のための情報源
略号一覧
地名対照表
前書きなど
第2版刊行にあたって
本書は、2012年に上梓した『現代バスクを知るための50章』の改訂増補版と位置づけられます。
初版の刊行から10年以上の歳月が流れましたが、この間に、日本のみならず、世界の多くの国や地域において、「バスク」に対する関心が、かつてないほど高まっています。バスク語とバスク文化の対外普及を任務とするエチェパレ・バスク・インスティテュートが2007年に設立され、バスク人自らがバスク文化の魅力を対外発信するようになったことは、こうした関心の高まりに少なからず寄与しているにちがいありません。
けれども、今日の「バスク・ブーム」の根本は、スペインおよびフランスからの分離独立闘争を展開してきたETA《祖国バスクと自由》が、2011年に恒久的な武装放棄を宣言し、2018年に組織を解散したことに、むしろ求められるでしょう。1959年にさかのぼって半世紀以上活動したこの組織の存在は、バスク地方に対する負の印象をつねに喚起してきたのですが、ここに至ってバスク地方は、「安全」で「新しい」市場として、飲食、観光、文化、芸術、スポーツ、研究開発イノベーション等の各方面から、がぜん注目され始めたのです。折しも、バスク地方とは反対に独立問題が昨今くすぶりだしたカタルーニャの情勢は、バスク地方への投資行動を相対的に強める誘因になっているとも言われています。
今日の「バスク・ブーム」の立て役者は、日本全国で目下流行している「バスク風チーズケーキ」の例を引くまでもなく、明らかにガストロノミー産業です。日本での流行は世界に先駆けていましたが、『ニューヨーク・タイムズ』紙(2020年12月20日)が、このチーズケーキを「2021年の一番人気(Flavor of the Year)」と予測するや、その高評は世界を駆け巡ったのでした。20世紀末にビルバオ=グッゲンハイム美術館が開館した時もそうでしたが、文化資源の商品化という点において、英語圏メディアの影響力は圧倒的です。しかも、近年のICT(情報通信技術)の急激な革新は、情報の発信・受容のあり方を劇的に変えつつあり、その影響は、国境を越えた人の新たな移動形態とあいまって、バスク社会の隅々にまで波及しています。
本書は、そのような2010年代以降のバスク地方の状況を、政治・経済・社会・文化の各方面から、編者が重要だと判断する事象を中心に新たに書き足しました。執筆陣を初版から少し入れかえて増やし、6部50章であった初版の章立て構成を、7部60章に膨らませ、第Ⅶ部はすべて書き下ろしとしました。ちなみに、第Ⅰ部から第Ⅵ部までの章タイトルは、初版のタイトルをほぼ踏襲していますが、各章の内容は一部もしくは全部を書き改めています。
(…後略…)
追記
【執筆者一覧】
萩尾生(はぎお・しょう) ※著者プロフィールを参照
吉田浩美(よしだ・ひろみ) ※著者プロフィールを参照
石塚秀雄(いしづか・ひでお)
社会的経済学者。主な著書:『バスク・モンドラゴン――協同組合の町から』(彩流社、1991年)、『カルリスタ戦争――スペイン最初の内戦』(彩流社、2016年)、『バスク語基礎学習20週』(彩流社、2019年)、『協同組合思想の形成と展開』(共著、八朔社、1992年)、『社会開発論――南北共生のパラダイム』(共著、有信堂高文社、2001年)。
上田寿美(うえだ・としみ)
沖縄調理師専門学校講師・管理栄養士。専攻:食文化研究、食品学。主な論文:「スペイン・バスク地方の伝統食文化――アルツァイ・ガスタの製造と継承」(『地域文化論叢』18号、沖縄国際大学大学院、2017年)、「スペイン・バスク地方出土のチーズ製造用土器について」(『地域文化論叢』16号、沖縄国際大学大学院、2015年)。
内田瑞子(うちだ・みずこ)
スペイン大使館経済商務部投資・産業協力担当アナリスト。専攻:スペイン語学。主な著作:「スペインのエネルギー政策 その推移と現状」(『エネルギーレビュー』38巻9号、2018年)、「コロナ前の日常に戻ることは善か悪か?」(『エネルギーレビュー』41巻11号、2021年)、「スペイン――風力を主軸とした脱炭素化の取組み」(『風力エネルギー』45巻4号、2021年)。
オルティゴーサ、ガリ(Ortigosa, Gari)
東京外国大学バスク語非常勤講師。2020年から東京バスクの家の代表理事。専攻:翻訳・通訳研究。
梶田純子(かじた・じゅんこ)
関西外国語大学教授。専攻:文化人類学、地域研究(バスク)、民俗学。主な著書:『スペイン文化事典』(共著、丸善、2011年)、『グリムと民間伝承――東西民話研究の地平』(共著、麻生出版、2013年)、『現代スペインの諸相――多民族国家への射程と相克』(共著、明石書店、2016年)。
金子奈美(かねこ・なみ)
慶應義塾大学文学部助教。専門:バスク文学。主な著書・訳書:ベルナルド・アチャガ『アコーディオン弾きの息子』(新潮社、2020年)、キルメン・ウリベ『ビルバオ‐ニューヨーク‐ビルバオ』(白水社、2012年)、『世界の文学、文学の世界』(共著・共訳、松籟社、2020年)。
砂山充子(すなやま・みつこ)
専修大学経済学部教授。専門:スペイン現代史。主な著書:『災害 その記録と記憶』(共著、専修大学出版局、2018年)、『ジェンダー』(共著、ミネルヴァ書房、2008年)。
竹谷和之(たけたに・かずゆき)
神戸市外国語大学名誉教授。専攻:スポーツ史、スポーツ文化論。主な著書:『〈スポーツする身体〉とは何か――バスクへの問いPART1』(編著、叢文社、2010年)、『スポーツ学の射程 「身体」のリアリティへ』(共著、黎明書房、2015年)。『スポーツ学の冒険――スポーツを読み解く「知」とは』(共著、黎明書房、2009年)。
友常勉(ともつね・つとむ)
東京外国語大学大学院国際日本学研究院教授。専攻:日本思想史、地域研究、マイノリティ研究。主な著書:『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』(以文社、2010年)、『戦後部落解放運動史――永続革命の行方』(河出書房新社、2012年)、『夢と爆弾 サバルタンの表現と闘争』(航思社、2019年)。
渡邊千秋(わたなべ・ちあき)
青山学院大学国際政治経済学部教授。専門:スペイン現代史・地域研究。主な著書:『現代スペインの諸相――多民族国家への射程と相克』(共著、明石書店、2016年)、Más allá de los nacionalcatolicismos(共著、Madrid: Sílex, 2021)、『カトリシズムと生活世界――信仰の近代ヨーロッパ史』(共編著、勁草書房、2023年)。
上記内容は本書刊行時のものです。