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北アイルランド統合教育学校紀行
分断を越えて
原書: 분단을 넘어서 북아일랜드 통합학교 기행
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年2月20日
- 書店発売日
- 2023年2月17日
- 登録日
- 2023年1月18日
- 最終更新日
- 2023年4月3日
紹介
英国植民地政策の結末として引き起こされた紛争によって、国家さらに国内を分断された歴史をもつ北アイルランド。本書は、対立と暴力の連鎖からの克服を目指した北アイルランドの平和運動、そして統合教育の取り組みを、20年にもおよぶ統合学校の調査、関係者へのインタビューで明らかにする。
目次
日本の読者の皆様へ[姜淳媛]
監修者序文 姜淳媛『北アイルランド統合教育学校紀行――分断を越えて』の情熱と意義[藤原孝章]
謝辞 分断を越えて[姜淳媛]
プロローグ
1 なぜ、北アイルランドか?
2 植民地の歴史から分断の深みへ
3 分離主義的暴力から平和と和解へ
4 宗派分離主義[Sectarianism]を超えるための統合教育運動
5 統合教育原則の誓約書(Statement of Principle)
第Ⅰ部 平和を願う統合教育の風
第1章 統合教育の新芽、ラガン(Lagan)統合中等学校で芽吹く
1 ラガン校に触れる
2 ラガン校の誕生と発展
3 平和と和解のための保護者主導の学校
4 超教派のキリスト教精神を奨励するラガン校
5 校長のリーダーシップ
6 教育課程の独自性
7 生徒指導
8 問題行動の扱い
9 ラガン校に通って来て
第2章 ACTの力強い努力の結晶、フォージ(Forge)統合初等学校
1 フォージ校に対するときめき
2 フォージ校の保護者たち
3 絶えず協議と共感で物事を決めてゆく校長のリーダーシップ
4 地域社会に基盤を置く教育課程
5 多文化的環境に適応する統合教育課程
6 フォージ校の余韻
第3章 ラガン校の旧敷地から新しく始まったロホ・ビュー(Lough View)統合初等学校
1 児童の権利に基づいた統合教育としての方向性を打ち立てる
2 オーケストラのハーモニーを醸し出す校長のリーダーシップ
3 自由主義の風土、統合初等学校の余韻
第Ⅱ部 劣悪な地域で芽生えた民衆的統合教育
第4章 進歩的な開かれた教育の可能性、ヘイゼルウッド(Hazelwood)統合中等学校
1 貧困と暴力のなかで統合教育を始める
2 進歩的教育をめざす包容的リーダーシップ
3 開かれた教育課程
4 なぜ、ヘイゼルウッド校なのか?
第5章 貧しい子どもたちの天国、ヘイゼルウッド(Hazelwood)統合初等学校
1 ノースベルファストで誕生した統合初等学校
2 地域と密着せよというパトリシア・マータ(Patricia Murtagh)校長
3 民衆的統合教育課程
4 孫を入学させたいヘイゼルウッド校
第Ⅲ部 最初の地方統合学校が注目を集める
第6章 小さくてかわいい希望の空間、オールチルドレンズ(All Children's)統合初等学校
1 アン・カー(Anne Carr)から聞くオールチルドレンズ統合初等学校の誕生物語
2 のっぽの校長ジョン・ビーティ(John Beatie)
3 子どもたちを幸せにする教育課程
4 小さな村の学校 オールチルドレンズ校を懐かしむ
第7章 統合教育精神を守り競争力を養うシムナ(Shimna)統合中等学校
1 統合学校の設立要求が激増する
2 ケビン・ラム(Kevin Lambe)の統合教育論
3 シムナ(Shimna)校は何が違うのか?
4 粘りのケビンと別れて
第Ⅳ部 テロの痛みを踏み越えて創った統合教育
第8章 暴力から平和へ、エニスキレン(Enniskillen)統合初等学校
1 死と嘆きのなかで誕生した生命と平和の学校
2 楽観的な未来社会を展望するアデル・カー(Adele Kerr)校長
3 ブリッジを受け継ぐ子どもたち
第9章 今日を悩み、明日を切り拓いてゆくエルン(Erne)統合中等学校
1 エルン川を学校の名に
2 校長のリーダーシップの変化――トム・ノーブル(Tom Noble)からジミー・ジャクソンウェア(Jimmy Jackson-Ware)へ
3 統合教育の哲学か、学力の伸長か?
第Ⅴ部 平凡な地域市民たちの熱望を集めた統合学校
第10章 コンテナ教室でも幸せなオーマー(Omagh)統合初等学校
1 普通の人たちが団結して創ったオーマー統合初等学校
2 設立期保護者だった校長と熱血校長
3 アントニー校長の25周年記念スピーチを考える
第11章 地域教育を主導する名門学校、ドラムラー(Drumragh)統合中等学校
1 困難な過程を乗り越えてそびえたつ地域の自慢のドラムラー校
2 英国紳士、ナイジェル・フリス(Nigel Frith)校長の統合教育課程
3 二兎を追うドラムラー校の教育課程
4 オーマー統合学校キャンパスを考えながら
第Ⅵ部 血の日曜日(Bloody Sunday)の都市での統合学校群
第12章 バーべキューパーティから始まった学校創り、オークグロウブ(Oakgrove)統合初等学校
1 「デリーこそ統合学校がなくっちゃね」
2 アン・マリー(Anne Murray)校長の信頼を基盤とするリーダーシップ
3 平和的教育課程が達成される
4 愛が統合学校を生んだ
第13章 地域の統合学校体系を完成したオークグロウブ(Oakgrove)統合中等学校
1 「統合中等学校の設立は延ばすことができない」
2 奉仕・包容・歓待のリーダーシップ
3 生徒の声が最も重要な統合中等学校
4 なぜ、オークグロウブ校なのか?
エピローグ
1 共有学校も見回りながら
2 統合か共有か、あるいは、混合か?
3 北アイルランドは私たちに何を伝えているのか?
参考文献
訳者あとがき
付録1 北アイルランド年表(1967‐2009年)
付録2 共有学校とACT
付録3 北アイルランド統合学校の現況
前書きなど
監修者序文 姜淳媛『北アイルランド統合教育学校紀行――分断を越えて』の情熱と意義
本書は、書名にあるように著者の姜淳媛先生(韓信大学校教授)が、約20年間にわたる北アイルランド訪問したその成果をまとめたものである。特に、2015-17年の3年間にわたる統合学校の訪問調査、授業参観、管理職をはじめ多くの関係者へのインタビューなどが本書の中心となっている。
著者の姜淳媛先生は、平和教育の研究者として韓国で著名である(2019-21年度韓国研究財団優秀研究者賞60人に選ばれている)。そのような姜先生にとって、なぜ北アイルランドなのだろうか。私の推し量るところでは二つあると思われる。
一つは、アイルランドと朝鮮半島の国家と国内における「二重の分断」ともいうべき相似形の歴史である。
「イギリスの最初にして最後の植民地」(尹慧瑛 2007:6)といわれるアイルランドにおいて、差別や不平等、海外移住の構造を生み出し、結果的に連合王国の北アイルランドとアイルランド共和国に分断され(国家の分断)、かつ、北アイルランド国内においても植民地構造が温存され(イギリス植民地支配の残滓、国内の分断)、北アイルランド紛争を招いた歴史は、朝鮮半島が日本の植民地となり、同様の構造を生み出し、独立解放後に朝鮮戦争を引き起こし、結果、韓国内での軍事政権(日帝支配の残滓・親日派政権、国内の分断)と南北朝鮮(国家の分断)という「二重の分断」を招いた歴史とが相通ずる構造をもっていることである(韓洪九著、高橋宗司監訳 2003:93‒145)。
もう一つは、平和教育の観点からみて、分断克服の取り組みが北アイルランドで模索され、平和と和解のための試みと努力として、統合学校という成果が出てきたことである。旧ユーゴ内戦の中で、サラエボで民族を超えたサッカーチームができた事例はあるが(森田太郎 2002)、宗派分離を克服した統合学校のような事例は寡聞にして私は知らない。姜先生が、分断克服の事例として何度も現地の学校を訪問した理由が理解できる。それは、ある意味で分断の中で生きる朝鮮半島ならではの平和教育の問題意識と思う。
(…中略…)
本書は13章から成り立っているように、統合学校への訪問は、初等、中等合わせて13校に及んでいる。その数は統合初等学校47校の約6分の1、統合中等学校20校の3分の1に及ぶ(表2参照)。統合学校そのものは、初等・中等の全学校数及び全在籍数の1割にも満たないが、各章のタイトルにあるように、その成り立ち、特徴、地域の保護者や学校関係者の取り組みは実に多様である。北アイルランドのコミュニティの人々に紛争や和解の記憶をインタビューした酒井朋子(2015)や尹慧瑛(2007)の研究はあるが、分断を克服する和解のプロセス・試みと平和構築の事例研究として、統合学校についてこれだけ多くの学校を訪問し、管理職はじめ多くの人にインタビューし、その実態を明らかにした研究は皆無である。
統合学校の試みは、これまでさんざん争ってきたナショナル・レベルでの「国のかたち」ではなく、ローカル・レベル、コミュニティ・レベルでの保護者、教員、大人の対話の試み、子どもたちの未来を保証する教育の試みであり、平和構築の取り組みといえる。ユニオニスト、ナショナリストといった国家レベル(国のかたち)に昇華しない、ローカルレベルでの社会関係の構築である。それは学校こそがコミュニティの中心であり、児童中心主義の教育こそが子どもたちに未来を提供できるからである。
本書は、統合学校13校を訪問し、調査し、インタビューすることで、平和維持ではない平和構築のアプローチを教育の観点から提示している。その意味で、平和教育の事例研究と提案になり得ている。アイルランド問題との相似形で語られる日韓関係においても、ナショナルヒストリーやナショナリズムの枠組み(国のかたち)にこだわると、平和維持や安全保障の議論、もしくは歴史認識の議論になる。ナショナルレベルでの歴史認識の協働(共同)化の試みは共通教材の作成などが試みられてきたが、平和構築の視点からのアプローチも必要である。注1にあげたような日韓両学会の試みは本書の著者の平和への願いを探る試みであり、継承であると筆者は信じるものである。
上記内容は本書刊行時のものです。