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ベルギーの歴史を知るための50章
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年9月20日
- 書店発売日
- 2022年10月6日
- 登録日
- 2022年2月2日
- 最終更新日
- 2022年10月14日
紹介
ベルギーは英仏独に囲まれた西欧の地理的中央に位置し、古来様々な民族や国家が行き交う要衝として繁栄したが、独立は19世紀前半と比較的若い国であり、現代ではヨーロッパの縮図とも呼ばれる。そこに至るベルギーの歴史を、対立をはらんだ多言語社会や国際関係にフォーカスして丹念にひもとく。
目次
はじめに
第Ⅰ部 ベルギー前史
1 ローマ帝国の支配下で――カエサルの征服と「属州ベルギカ」
2 フランク王国――言語境界線の起源
3 中世――分裂の時
4 ブルゴーニュ時代――分裂から統一へ
5 神聖ローマ帝国とハプスブルクの時代――ドイツ支配の時代へ
[コラム1]宗教改革
6 オランダとの決別――八十年戦争
7 啓蒙君主時代――スペイン=ハプスブルクの支配からオーストリア=ハプスブルクの支配へ
8 フランス革命とその余波――ブラバント革命の勃発と失敗
9 ウィーン会議とオランダによる併合――ナポレオン時代の遺産
10 ベルギー独立――フランス語エリートの勝利
第Ⅱ部 近代国家の建設
11 独立時の国際関係――険悪だった初期のオランダとベルギー
12 近代国家の建設――小国の形の模索
13 奇妙な新国家――共和制を目指した立憲君主制国家
[コラム2]明治初期の監獄とベルギー
14 相対的な安定期――統一同盟(ユニオニスム)の変化
15 学校戦争――自由主義政党とカトリック政党のせめぎあい
16 産業の発展と社会構造の変化――労働者階級の組織化
17 初期のフランデレン運動――フランス語の圧倒的優位のなかで
18 個人所有の植民地――レオポルド二世の植民地統治
[コラム3]渋沢栄一とベルギー
19 ジェルラシ南極探検隊――初の国際的南極探検隊
20 産業化と都市開発――経済大国になった小国
21 緊張高まるヨーロッパのなかで――世界大戦前のベルギー外交
22 普通選挙制の導入――カトリックを守るための普通選挙導入?
23 第一次世界大戦――分割統治の結果
24 戦間期のベルギー――分裂と試練の時
25 ドイツ語圏の誕生――将来のベルギーの課題?
26 ベルギー=ルクセンブルク経済同盟――占領下拡大主義の挫折
27 地域言語政策――進む改革、残る遺恨
28 第二次世界大戦――戦後諸問題の発端
第Ⅲ部 戦後のベルギー
29 戦後復興期の対立――ベルギーのデモクラシーが再出発するまで
30 国王問題――レオポルド三世からボードゥアン一世へ
31 連立時代の到来――三大政党による政治の確立と新規参入
32 戦後のベルギー外交――西側への復帰とNATO・欧州統合
33 学校戦争、再び――政治対立の制度化
[コラム4]多極共存型民主主義――妥協の政治
34 植民地の独立――コンゴ動乱と国際的非難
35 フランス語エリートの凋落――反一括法ストライキとその影響
36 ルーヴェン・カトリック大学紛争――中央集権的統治制度の限界
37 分権化改革(1) 一九七〇年憲法改正――グランドデザインなき国家改革
38 分権化改革(2) 一九八〇年憲法改正――何のための国家改革か
39 分権化改革(3) 一九八八年憲法改正――実質的な連邦制へ
40 分権化改革(4) 一九九三年憲法改正――連邦国家の誕生
[コラム5]ベルギーにおける言語と社会――言語問題の社会的起源
41 「ベルギー人道法」が提起したもの――普遍的管轄権と裁判権免除
42 デュトルー事件の余波――国家改革のひずみ?
43 歴史的政権交代――フェルホフスタットの登場
44 「模範的国家」へ――フェルホフスタットの改革と帰結
45 ポピュリズムの時代――ベルギーのデモクラシーはどこへゆくのか
[コラム6]テラス席の姿
第Ⅳ部 テロとベルギー
46 分裂危機――「分割」改革の苦悩
47 二〇一六年三月二二日――テロとその後
48 ベルギーの治安政策――自治の伝統の帰結?
49 イスラーム過激派の進出――なぜブリュッセルが「テロの巣窟」となったのか
50 分極化していくベルギー――それでもベルギーはベルギーであり続ける
[コラム7]パンデミックとベルギー
あとがき
ベルギーの歴史をもっと知るためのブックガイド
参考文献
主要年表
前書きなど
はじめに
(…前略…)
この国は地域によって公用語が異なる多言語国家となっている。北部はオランダ語を話すフランデレン地域。南部はフランス語を話すワロニー地域。加えて人口は国の〇・五%にすぎないが、
第一次世界大戦後、敗戦国のドイツから「ドイツ語圏」を割譲され、これが国の南東部に位置している。さらに地理的には北方のフランデレン地方に位置するが、八割以上の住民がフランス語を話す首都ブリュッセルは、特別に両語圏とされている。ただし、ベルギー全体で見ると、人口比はオランダ語話者の方が六対四で多い。複雑な言語状況を抱えている。
独立以来、特にワロニー地域とフランデレン地域の関係は必ずしも良好とは言えない。これがベルギーを悩ませている「言語問題」だ。「多文化」と言えば聞こえは良いが、悪く言えば「まとまりに欠ける」。
(…中略…)
一九九一年以降、言語問題が解決したという話は聞かない。分裂していないだけで、むしろ問題は悪化していると見る向きもある。
つまり、フランス語話者とオランダ語話者の仲が良いわけではない。しかし国は存続し続ける。長く分裂したまま、それでも存続する国。もしくは、存続しながら、分裂の契機を常にはらむ国。では、なぜ、そしてどのようにして、この国は出来上がったのか。そしてなぜ存続できているのか。本書はこれらの問いを、歴史を読み解きながら、できるだけ簡潔に明らかにしようとしている。
少しヒントを書いておくと、「多文化」で「まとまりを欠いた」が、それでも一つの国であり続けようとするために、この国では国王が特別な役割を担ったり、統治制度を工夫したりしてきた。この国の歴史の焦点は、こうした工夫を見ることにある。しかし、これらの工夫が必ずしもうまくいっていないようにも映るのも、この国の歴史の妙味である。いとも簡単に多民族、多文化、多言語の国をまとめる方法などないのだ。こうした国の苦悩の歩みから、私たちは、従来の「国境」や「国民」などの前提が崩れ去っている、グローバル化時代の国家のあり方、その可能性を考えることもできるはずだ。
実際に、特に最近になって、この国は「なぜ一つの国であり続けられるのか」と問われることが多くなった。今やヨーロッパは、イギリスのEU離脱、スコットランドやカタルーニャの独立運動など「分離」の様相を呈している。ベルギーもその一つとして動向が注目されている。こういう意味で、地理的に西欧の中心に位置し、古くから多くの人びとが往来し、多言語で構成され、時にその対立で苛まされ、それでも一つであり続けようとするベルギーは、現在のヨーロッパが抱える問題を代弁する「縮図」と言われることもある。
先に「できるだけ簡潔に」と記したが、あまりに簡潔に書き上げようとすると、視点を絞り込まなくてはならない。本書は、五〇の章といくつかのコラムに分けて――ゆえに一気に書き上げるのではなく――通史を記述することで、視点を絞り込みすぎず、多様で奥深いベルギーの姿を読者に提示してみたい。そして「多文化」の魅力と可能性も論じていきたい。「ベルギーとはこんな国だ」と言い切りすぎず、この国の複雑な背景を示して、この国が背負った運命(と言うと大げさだが)と魅力を伝えようと思う。
(…後略…)
追記
【執筆者一覧】
松尾秀哉(まつお・ひでや) ※著者プロフィールを参照
今井緑(いまい・みどり)
1986年福岡県生まれ。同志社大学大学院法学研究科公法学専攻博士課程前期課程修了、同大学院博士課程後期課程在学中。修士(法学)。現在、京都芸術大学非常勤講師。アンドリュー・アシュワース、ジェレミー・ホーダー『イギリス刑法の原理』(翻訳、共著、成文堂、2021)。
小松﨑利明(こまつざき・としあき)
1974年東京都生まれ。国際基督教大学大学院行政学研究科博士後期課程博士候補資格取得退学。
MPhil(Peace Studies)。現在、天理大学国際学部准教授。主な著作に、「国際社会の安全保障と自衛権」(関根豪政・北村貴編著『体験する法学』ミネルヴァ書房、2020年)、「アメリカの譲歩とEUの妥協――国際刑事裁判所(ICC)とEUの規範政治」(臼井陽一郎編『EUの規範政治――グローバルヨーロッパの理想と現実』ナカニシヤ出版、2015年)、「国際社会における法の支配と和解」(松尾秀哉・臼井陽一郎編『紛争と和解の政治学』ナカニシヤ出版、2013年)。
原田麻也子(はらだ・まやこ)
1994年京都府生まれ。大学院在学中にモンス大学留学を経て龍谷大学大学院政策学研究科修了。
修士(政策学)。
現在、民間企業勤務。
宮内悠輔(みやうち・ゆうすけ)
1993年東京都生まれ。立教大学大学院法学研究科博士課程後期課程中途退学。修士(政治学)。
現在、立教大学法学部助教。主な著作に、「地域アイデンティティと排外主義の共鳴と隔離――現代ベルギーにおける二つの地域主義政党の事例」『日本比較政治学会年報』第21号(2019年)、「ベルギー地域主義政党の政策的硬直――ウェッジ・イシュー戦略の帰結」『年報政治学』2020-II号(2020年)、など。
上記内容は本書刊行時のものです。