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同性愛をめぐる歴史と法
尊厳としてのセクシュアリティ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2015年8月
- 書店発売日
- 2015年8月31日
- 登録日
- 2015年8月24日
- 最終更新日
- 2016年6月2日
書評掲載情報
2015-12-13 |
朝日新聞
評者: 砂川秀樹(文化人類学者) |
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紹介
性的指向の自由は、人間の尊厳にかかわる人権である。アメリカ最高裁判決で脚光をあびる同性婚もその文脈から擁護されねばならない。本書は憲法や家族法等から同性愛の立ち位置を考えると共に、日本文学やナチズム等、歴史に刻まれた同性愛を深く探究する。
目次
はじめに――同性愛をめぐる歴史と法[三成美保]
総論 尊厳としてのセクシュアリティ[三成美保]
はじめに─歴史的産物としての性愛二元論
一 性の境界の曖昧さと揺らぎ
二 「同性愛/異性愛」二元論の歴史的背景
三 「異性愛(正常)/同性愛(異常)」という性愛二元論の確立
おわりに─日本における今後の課題
第1部 性的指向の権利保障
第1章 「同性愛」と憲法[中里見博]
はじめに
一 日本型ホモフォビア
二 「異性愛」の歴史化と脱自然化
三 日本型ホモフォビアと憲法
四 同性愛差別禁止の憲法上の根拠
おわりに
COLUMN1 セクシュアリティ射程と歴史研究[長志珠絵]
第2章 家族法――同性婚への道のりと課題[二宮周平]
はじめに
一 近代的家族法制度の前提と変容
二 同性カップルの生活保障類型
三 同性婚導入のプロセス
四 親子関係へのアクセス
五 法の果たすべき役割─法の不介入と介入
おわりに
第3章 「同性愛」と国際人権[谷口洋幸]
はじめに
一 前史
二 展開
三 考察
四 むすびにかえて――現状から見えてくる課題
COLUMN2 同性愛解体――LG(レズビアン/ゲイ)二元論から、性的指向の一つへ[原ミナ汰]
第2部 歴史の中の同性愛
第4章 クィアの日本文学史――女性同性愛の文学を考える[木村朗]
はじめに
一 男色から同性愛へ
二 エロティシズムのほうへ
三 女性の同性愛表現
四 宮廷物語の女性同士の性愛関係
おわりに
第5章 元禄期の武家男色――『土芥寇讎記』『御当代記』『三王外記』を通じて[鈴木則子]
一 男色と政治史
二 幕府中枢部から見た大名男色――『土芥寇讎記』
三 御家人層から見た幕府人事と綱吉の男色――『御当代記』
四 儒者が見た綱吉の治世――『三王外記』
おわりに
COLUMN3 ともに嫁ぐか、ともに死ぬか?――前近代中国の女性同性愛[野村鮎子]
第6章 ウィークネスフォビアとホモフォビア――「日本男児」が怖れたもの[内田雅克]
はじめに
一 日清戦争から日露戦後期
二 第一次世界大戦から軍縮期
三 アジア太平洋戦争下
おわりに
COLUMN4 物語としての『青い花』――雛形としての少女文学[山崎明子]
第7章 ナチズムと同性愛[田野大輔]
はじめに
一 「悪疫」としての同性愛
二 「男性国家」の中の同性愛
おわりに
COLUMN5 フランス近代小説に見る同性愛[髙岡尚子]
[資料]同性愛/性的指向/LGBTに関する対比年表[三成美保]
前書きなど
はじめに――同性愛をめぐる歴史と法
(…前略…)
本書の構成
本書では、「性的指向の自由」を「尊厳」にかかわる人権として位置づけ、日本の法と歴史における同性愛の位相を明らかにすることを目的とする。本書は二部構成で、総論以外に全七章、五コラムからなる。
第1部「性的指向の権利保障」では、法的問題を扱った。第1章「『同性愛』と憲法」(中里見博)は、「日本型ホモフォビア」が同性愛を抑圧してきたとし、性的指向は憲法13条で保障されるアイデンティティとしての人権であるとする。第2章「家族法――同性婚への道のりと課題」(二宮周平)は、同性パートナーシップから同性婚へと至った諸外国の事例を紹介し、日本でもまず同性パートナーシップの導入から始めるべきと提唱する。第3章「『同性愛』と国際人権」(谷口洋幸)は、国際人権法では「同性愛」は「マイノリティ」の人権保護の文脈では論じられておらず、「性的指向」として権利保障がなされるべきだと主張する。さらに第1部には、二本のコラムを配した。「セクシュアリティ射程と歴史研究」(長志珠絵)は、戦後の日本史及び日本法制史の研究成果をまとめ、今後の課題を指摘している。NPO法人共生社会をつくるセクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク代表の原ミナ汰氏には、当事者運動についてのコラムを執筆していただいた。
第2部「歴史の中の同性愛」では、歴史と文学を扱った。第4章「クィアの日本文学史」(木村朗子)は、異性愛と同性愛は対立関係になかったという事実に基づき「クィアな性愛」という概念を用いる。女性同性愛を含む「クィアな性愛」は文学表現の宝庫であるが、それは「当たり前」な光景であって、あえてそこに革新性を読み込むべきではないとも注意をうながす。第5章「元禄期の武家男色」(鈴木則子)は、三つの史料を分析して、綱吉の時代に男色と政治が深く結びついていたことを具体的に示す。寵愛を受けた小姓や能役者が出世した例もあれば、逆に、将軍の目に止まらぬよう自衛した若者たちもいた。古代ギリシアの少年愛とは異なり、日本では、小姓・稚児の成人後も「念者―舎弟」の関係が続き、主従関係を補強していた点が興味深い。第6章「ウィークネスフォビアとホモフォビア」(内田雅克)は、明治末から戦前にかけて人気を博した少年雑誌を素材に、弱さへの嫌悪(ウィークネスフォビア)を読み取る。日本人男性の「男性性」が、日清・日露戦争やアジア太平洋戦争あるいは欧米の変態性欲概念の影響を受けながら歴史的に形成されていった過程が少年雑誌の記事からつぶさに読み取れる。第7章「ナチズムと同性愛」(田野大輔)は、ナチスが同性愛を「悪疫」とみなして迫害した歴史的背景を論じる。基本的にはセジウィックのホモソーシャル論が妥当するとし、ナチスがホモソーシャルな「男性国家」であろうとしたがゆえに、男性同性愛者をターゲーットにしたと指摘される。コラムとしては、前近代中国の女性同性愛文学について紹介する「ともに嫁ぐか、ともに死ぬか?」(野村鮎子)、少女マンガを素材に少女たちの同性恋慕を論じる「物語としての『青い花』」(山崎明子)、一九世紀フランス文学において男性同性愛と女性同性愛がどのように描かれたかを紹介する「フランス近代小説に見る同性愛」(高岡尚子)を配した。
本書は、二〇一三年に開催されたジェンダー史学会春季シンポジウム(於・奈良女子大学)の成果をもとにしている。当日の報告者・コメンテーター・司会者に加え、準備会で協力していただいた奈良女子大学の教員にも執筆に加わっていただいた。学会主催者のジェンダー史学会と共催者である奈良女子大学アジア・ジェンダー文化学研究センターの関係者に心から感謝したい。また、本書は、明石書店の世界人権問題叢書の一冊として刊行していただけることになった。出版を引き受けてくださった明石書店の神野斉編集長、及び、短期間で精力的な編集を行っていただいた編集部の源良典氏には、編者として、心からの感謝を捧げたい。
上記内容は本書刊行時のものです。