書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
災害とレジリエンス
ニューオリンズの人々はハリケーン・カトリーナの衝撃をどう乗り越えたのか
原書: We Shall Not Be Moved: Rebuilding Home in the Wake of Katrina
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2014年7月
- 書店発売日
- 2014年7月25日
- 登録日
- 2014年7月23日
- 最終更新日
- 2014年7月30日
書評掲載情報
2014-10-19 |
読売新聞
評者: 開沼博(社会学者、福島大学特任研究員) |
MORE | |
LESS |
紹介
私たちはこの土地を離れない! カトリーナ襲来によって廃墟と化した街。目の前の悲惨な状況、政府の大失態と高圧的な態度……。この街を愛するがゆえに、過酷な試練と闘い決して屈せず、コミュニティ再生に懸けた住民と地域リーダーたちの勇気と希望の物語。
目次
序文
まえがき
主な登場人物
第Ⅰ部 クレセント・シティとカトリーナ
第一章 「故郷を思い出す場所」
第二章 無防備な街
第三章 「間借りした家のソファー」
第Ⅱ部 一年後
第四章 「世界すべてが灰色」
第五章 ビラージ・デ・レスト「地図にその名をまた刻む」
第六章 ハリグローブ「地区を作り直す」
第七章 レイクビュー「邪魔するな」
第八章 ブロードムア「これはどこにでもある計画ではない」
第九章 ロウワー・ナインス・ウォード「質問ばかりで、答えのない会合」
第一〇章 各地区と市全域の都市計画「約束はもらえど、守られず」
第Ⅲ部 鳴り響く鐘の音
第一一章 ブロードムア「日常生活を取り戻せ」
第一二章 ビラージ・デ・レスト「皆、つながっている」
第一三章 ハリグローブ「ゆっくり、けれど確実に」
第一四章 レイクビュー「状況は大きく変わった」
第一五章 ロウワー・ナインス・ウォード「家にいるのが一番」
第一六章 栄誉
エピローグ
謝辞
訳者あとがき
タイムライン カトリーナ来襲とその後
原註
前書きなど
訳者あとがき
たとえば、集中豪雨であなたの暮らす街を走る河川が氾濫し、何カ月も水が引かない状態に陥ったとしよう。居住地域への立ち入りが禁止され、何日も家に戻れず避難生活を余儀なくされたとしよう。そのうち、突然、市から「あなたの住む地区は緑地化対象区域になりました。緑地化実施まで、あと四カ月あります」と宣告されたら、あなたならどうするだろうか。突然、「あなたの地区は『緑の円』の中にありますから、立ち退いてもらうことになるでしょう」と言われたらどうするだろうか。しかも、その災害がそもそも行政の大失態が原因で引き起こされたのだとしたら?
二〇〇六年一月。米国南部ルイジアナ州の、ジャズの本場ニューオリンズには、実際に市長からそう宣告された住民たちがいた。前年の八月末に来襲したハリケーン・カトリーナが同市に残した爪痕は、確かに大きかった。ただし、ハリケーンは住民にとって大きな脅威ではあれ、地理的な条件を考慮すれば、決して想定外とはいえない。市民の中には、ハリケーンの保険に加入するなど自衛策を取っている人たちもいた。想定外だったのは、政府の対応だった。実のところ、このとき甚大な水害をもたらした直接の原因はカトリーナそのものではない。もともと不備のあった堤防が十分に補強されることなく決壊した結果、洪水が引き起こされたのである。住民の本当の苦労は、カトリーナ上陸時ではなく、その後に待っていた。
事態が悪化したのは、行政が市民の支えになるどころか、行政本来の仕事を市民に委ねていたからだ。つまり、住民の立場になって働くべき行政がきちんと機能しておらず、街の主人公である住民が議論のテーブルに不在のまま、新たな都市計画が考えられようとしていた。甚大な被害を受けた場所はすべて更地にして緑化しようという大胆なアイデアが出ること自体、住民不在の証しである。本書原題の「We Shall Not Be Moved」という言葉には、そんな理不尽かつ悲惨な状況にあっても、「決してここから離れない。何ものも私たちを動かすことはできない」という、住民の強い意志が見て取れる。ハリケーン・カトリーナを境に、ニューオリンズの歴史は変わった。同時に、住民たちのニューオリンズ市民としての生き方も大きく変わった。その再生の様子はトム・ウッテンの描く数々の物語に任せるとして、カトリーナを経験し、コミュニティ問題のプロ、地域のリーダーとなった登場人物たちのその後の様子をほんの一部だけ紹介しよう。
ブロードムアを「緑の円」から救い出したラトーヤ・キャントレル女史は、現在、舞台をニューオリンズ市議会に移し、ディストリクトBの責任者としてその能力をいかんなく発揮している。ハリグローブで若者たちへのサポートに尽力したケビン・ブラウン氏は、現在も、父親が創設したトリニティ・クリスチャン・コミュニティを拠点に活動を続けている。聖パウロ教会帰還支援センターでは、コニー・ウッドウ女史が、二〇一二年一〇月、ハリケーン・サンディが直撃したニューヨークの市民に対して、同じ被災者だからこそできる支援活動を展開した。そして、二〇一一年に二五歳で『フォーブス』誌が選ぶアンダー30・トップ30(法律・政策)に選出された我らがトム・ウッテン氏は、現在、古巣ハーバードのケネディスクールに戻り、リサーチフェローとして教育改革の研究活動を続けている。
廃墟を目の前にして未来を思う……本書に登場する誰もが、目の前の瓦礫を片付けることで精一杯だったはずだ。それでも彼らは、これからの世代の将来を思い描き、萎える心を幾度となく奮い立たせてきた。復興の道は長く険しいが、地区のリーダーたちは「恩送り」(自分が受けた恩をその人返すのでなく、未来の人に返すこと。ペイフォワード)の精神で、それぞれができることに精一杯今も取り組んでいる。それは、今、本書を開いているあなたの姿かもしれないし、未来のあなたの姿かもしれない。
(…後略…)
上記内容は本書刊行時のものです。