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ソーシャル・インクルージョンへの挑戦
排斥のない社会を目指して
- 出版社在庫情報
- 品切れ・重版未定
- 初版年月日
- 2007年11月
- 書店発売日
- 2007年11月22日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2015年8月22日
紹介
グローバリゼーションとともに切り捨てられる社会的弱者。社会不安を増大させる社会的排斥へのスウェーデンおよびEUのの先進的な事例を紹介するとともに、わが国でも始まりつつあるソーシャル・インクルージョンへ挑戦を紹介する。
目次
はじめに
刊行によせて
第1部 ソーシャル・インクルージョンの構想――スウェーデンの挑戦――
第1章 EUおよびスカンジナビア諸国におけるソーシャル・インクルージョンへの挑戦
第2章 スウェーデンにおけるソーシャル・インクルージョンの実現を目指して――社会的弱者へのセーフティネットの構築
第3章 貧困と社会的排斥を克服するためのスウェーデンの行動計画〈2003―2005年版〉
第4章 教育におけるインクルーシブな方法による排斥の克服
第2部 ソーシャル・インクルージョンの試み――日本の課題――
第5章 貧困と社会的排斥を克服するための私たちの課題
第6章 地域福祉政策と市民主権
第7章 地域福祉における公私協働の意義とソーシャルワーカーの役割
第8章 精神障害者の社会的排斥から見えるもの
第9章 社会的排斥をめぐる心理臨床的考察
第10章 特別支援教育とインクルーシブ教育の展望――普通学級と重症児教育の課題として
第11章 高齢者ホームレス支援事例に見る社会的排斥
第12章 エクスクルージョンからインクルージョンへ――若者・高齢者・女性
第13章 ソーシャル・インクルージョンの実現を目指して
〈資料〉
スウェーデン社会サービス法(SFS2001:453)
あとがき
執筆者紹介
前書きなど
刊行によせて
私たちはグローバル化した世界に生きている。このことは、海外で生じている出来事を認識し、影響を受ける機会が増えていくことを意味する。新たな知識が生まれる度にそれは即座に世界中に広がり、ある国での経験が即座に他の国で活用される時代になっている。こうした状況はコインの裏表にもたとえられる。コインの表側の面としては、新たな選択肢や可能性が開かれる。選択肢や可能性を認識することにより選択の幅は広がる。選択の幅の拡大により、私たちを解放し、豊かにする可能性がふくらんだ。しかしコインの裏側の面として、グローバル化した世界の認識は私たちの責任を問う。グローバル化した世界とは、すべての人が自らの認識、知識、経験に応じて貢献することを期待される世界である。
社会の加速度的変化もコインの裏表にたとえられる。最新の技術により、情報は世界のあらゆる場所に同時に到達する。日本の技術革新も発信された途端に欧米の知るところとなる。世界を結ぶビジネス活動は24時間休むことがない。これは商品やサービスの生産の増加につながる。富と福祉の発展に寄与する可能性も拡大する。しかし同時に、行動に移すスピードも私たちのプレッシャーとなる。場合によっては、反射的に行動を起こすというリスクに陥ることもある。
社会福祉の分野はますます重要なものとなっている。誕生から死に至る生涯の中で、社会福祉に関するさまざまの要因が私たちに影響を与える。例えば人口構造の変化、さまざまな社会的問題の出現、社会経済上の変化、労働生活、市民社会、支援に関する社会的意志の変容などが挙げられる。さらに、社会福祉に関する良案を国家間で共有することが切実な課題となってきた。
こうした動向は何に由来するのだろうか。社会政策分野の研究者は収束理論と普及理論という2つの主要な理論を指摘する。収束理論に従えば、社会の発展が類似してくれば社会福祉システムも類似する傾向にある。程度の差はあれ各国とも同じような道筋を辿って発展する結果、長期的には福祉システムも類似したものになっていく。
また普及理論によれば、良案は良案であるからこそ他の国へと広がると考える。グローバライゼーションと最新の情報通信技術(Information Cummunication Technology: ICT)によって、福祉システムや有効な方法は国家ならびに国家を超えた地域共同体において即座に周知され、精査され、適用される。
日瑞両国の社会福祉の発展を目的とした両国の研究者や実践家の協働は以前から行なわれてきた。両国には類似点と相違点がある。両国ともに技術的にも経済的にも高度に発展した国である。一般的に両国民とも高い生活基準にある。人口統計上の特徴も類似した点が多く、両国ともに高齢者の割合が高い。反面、歴史と文化、地理と気候、人口の規模には相違がある。日本の人口はスウェーデンの約13倍である。
本書は、日本とスウェーデン(EUも含む)における福祉の重要な側面に焦点を当て比較を行なっている。第1部では、 EUおよびスカンジナビア諸国を中心としてヨーロッパの状況が扱われる。ヨーロッパは福祉国家の変容に直面している。スウェーデンの社会福祉、およびヨーロッパにおけるインクルーシブ教育においては、それぞれさまざまな計画が実行されつつある。これらは個々の領域の福祉的挑戦に取り組む積極的な方法の例として理解することができる。第2部では、日本の状況が中心に扱われている。多様な領域および立場から日本の福祉の現在と未来について述べている。全体として、日本の福祉的挑戦に対する包括的な視点を提供している。
本書の意図は2つである。1つは現在および今後の社会福祉システムのあり方を探求することにある。私たちはそれぞれの視点から、重要な領域について今後どのように挑戦すべきかを述べるように努めた。もう1つは、日本の現状から今後の展望を切り開く志をささやかながらも示そうとした。
日瑞両国の間で、本書をめぐって共有された経験(ときには不安であり、ときには希望である)をさらに深めるためには、さらなる両国間の議論と研究が必要であろう。本書が行政の関係者および各分野の研究者や専門家の間で多少とも有効な示唆となることを私たちは願っている。
2007年初秋 スウェーデン・カールスタットにて ベンクト・G・エリクソン
上記内容は本書刊行時のものです。