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三浦綾子論
その現代的意義
- 初版年月日
- 2022年4月20日
- 書店発売日
- 2022年4月5日
- 登録日
- 2022年2月21日
- 最終更新日
- 2022年4月20日
紹介
2022年に生誕100年を迎え、没後20年以上が経った現在でも、三浦綾子の文学はまったく色褪せていない。
「罪と神によるゆるし」をテーマとした作品群に強固な普遍性があるのはもちろんだが、そこにはさらに読者の心を揺さぶる何かがあるのではないだろうか。
本書は、その“何か”を論理的に解説するとともに、著者の三浦綾子作品に対する真摯で熱い思いを余すところなく伝える一冊と言える。
目次
第一章 「絶望」と「再生」の間 ―『道ありき』『石ころのうた』―
第二章 渦巻く嫉妬 ―『氷点』―
第三章 「わびる」と「ゆるす」 ―『続氷点』―
第四章 「愛する」=「ゆるす」 ―『ひつじが丘』―
第五章 「犠牲」と「約束」 ―『塩狩峠』―
第六章 「教育」と「反抗」 ―『積木の箱』―
第七章 「執着」のもたらす禍根 ―『天北原野』―
第八章 「災難」か「試練」か ―『泥流地帯』『続泥流地帯』―
第九章 「殉教」した息子 ―『母』―
第十章 「昭和」「戦争」そして「教育」 ―『銃口』―
最終章 三浦文学と私
前書きなど
〝あたりまえ〟の力 ~巻頭言にかえて
森下辰衛(三浦綾子読書会代表)
二〇〇六年八月六日の午後、旭川大学で開かれた近代文学会での先生の『氷点』についての発表を聴かせていただいたのが、小田島先生との出会いでした。その日は朝五時のテレビ番組で、福岡から一年の計画で旭川に来て三浦綾子記念文学館で研究をしていた私が紹介されたのですが、そんな早朝の番組を先生は観ておられて、ご発表のあと近づいた私に「今朝、テレビ見ました!」と言って下さいました。先生ははじめから、明るく率直で、隔てのない方でした。
私はその日の先生のご発表に一目惚れしました。作品に向かう姿勢が誠実で、奇をてらう流行の思想や分析の道具などなく、物語を人間に寄り添って読む〝あたりまえ〟の道から考察がされていました。そしてその真っすぐさが、そのまま深さになっている! これは質の良い方だと思いました。一般の人に文学を語るなら、まさにこの恐るべき〝あたりまえ〟の扉から語り招き入れるのが王道で最良だからです。私はすぐに三浦綾子読書会を釧路で一緒にリードしていただきたいとお願いしました。
一〇月一三日、釧路での三浦綾子読書会がテーマ『塩狩峠』で始まりました。それが、私が北海道で開拓した最初の読書会でした。私は翌月には、教授になる直前だった福岡の大学をやめて北海道に残るという〝あたりまえ〟でない決心をしたのですが、小田島先生がおられなかったら、決心出来ていたかどうか。
小田島先生は他にも読書会や講座をなさる釧路の文学活動の中心の一人です。啄木や原田康子のほか、桜木紫乃さんや河﨑秋子さんなど現代作家も扱われます。先生が主宰された喫茶店ジスイズでの朗読会は文化の熟成現場特有の芳醇な香りが溢れるものでした。
釧路三浦綾子読書会は隔月で既に十五年、八十回を超えました。私は年二回のみであとは先生を中心として良い会が持たれ続けています。この読書会と共に書きためて来られた作品論の数々が三浦綾子生誕百年の今年、一冊になりました。こんなにうれしいことはありません。
あとがき
そもそもは今から十年前のこと。三浦綾子の作品論を毎年紀要に発表すれば定年退職を迎える頃に十本の論文が揃う。その際には単行本の形で『三浦綾子論』を上梓するのもいいかもしれない。漠然とそう考えていた。
本来であれば昨年の三月いっぱいで釧路高専を退職するはずだったが、その後諸事情を考え再雇用での二年延長を決めた。そのため私は現在も釧路高専の教員である。
今年が三浦綾子生誕百年にあたることを知ったのは昨年のことだった。そのことに気づいたとき、『三浦綾子論』を刊行させたいという思いはより切実なものとなった。
そうなると、どのような形で出版すべきかが問題になる。さまざまな形を模索し、幾つかの出版社と交渉もした。実際のところ、この日を迎えるまでの道のりは決して楽なものではなかった。自分の未熟さを痛感させられたことも何度かある。そのような中で柏艪舎との出会いがあった。
柏艪舎はこちらが原稿を送ると実に対応が素早かった。早速原稿に対する丁寧な感想と共に見積もりを提示してくださったが、そこで提示された企画書は私を大いに奮い立たせてくれる内容だった。私の日頃の文学活動を把握したうえで、大いにバックアップしようという気概がそこにはうかがえたのである。三浦文学の現代的意義を一人でも多くの人たちに伝えたいと思う私は、是非ともこの出版社にお願いしたいという気持ちになっていた。
今年の一月四日の北海道新聞一面トップに、綾子さんが結婚十年を控えていた頃、「三浦光世に捧げる詩」を書いていて、それが光世さんの日記の中に大切に挟まれていた事実が報道されていた。新聞ではその自筆原稿が写真で紹介されてもいたが、夫に対する感謝の思いを綴ったその詩はいかにも三浦夫妻のありようを如実に示している。この詩は三浦綾子記念文学館で四月から開催予定の「生誕百年企画展」で展示される予定とのこと。
ちょうどその頃に合わせて本書が上梓されるのは誠に喜ばしい。巻頭言をお願いした森下辰衛先生をはじめとする三浦綾子読書会の方々、三浦綾子記念文学館、そして柏艪舎の山本哲平さんにはこの場を借りてお礼を申し上げたい。
二〇二二年一月
小田島本有
上記内容は本書刊行時のものです。