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タブレット純のGS聖地純礼
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 書店発売日
- 2019年9月10日
- 登録日
- 2020年10月7日
- 最終更新日
- 2020年10月19日
紹介
栄光のグルーブサウンズ。その残響を求めて、ラジオ日本『音楽の黄金時代』でもパーソナリティをつとめる「昭和歌謡の貴公子」タブレット純が、聖地を巡り歩く。
目次
目次
まえがきにかえて~哀愁の行川アイランド篇
GS聖地巡礼・2月13日 新宿聴き込み篇
GS聖地巡礼・2月27日 原宿クロコダイル篇
GS聖地巡礼・3月13日 横浜篇聴き込み篇
GS聖地巡礼・横浜探訪篇
GS聖地巡礼・横浜郊外篇
GS聖地巡礼・3月27日 新宿徘徊篇
GS聖地巡礼・3月28日 池袋探訪
GS聖地巡礼・4月6日 新宿リターンズ
GS聖地巡礼・4月22日 GSのメッカ・サマーランド篇
GS聖地巡礼・5月10日 銭湯でもGS
GS聖地巡礼・5月26日 大阪聴き込み編
GS聖地巡礼・5月27日 大阪回想篇
【反省会】 大反省
あとがきにかえて
前書きなど
栄光のグループサウンズ、その残像を求めて歩く「GS聖地巡礼」、その幕開けは「行川アイランド」からとなりました。いきなり廃墟からのスタートです。リアルタイムでGSを知る方々にとっても、「行川アイランド」とGSがピンと結びつくとは到底思えないのですが、自分にとっては、学生時代にマニアの方から文通で譲り受けた“IN行川アイランド”と銘打たれたGSのライブ音源のカセットテープを思春期に繰り返し聴いていたことで、個人的に浪漫湧き立つ聖地へといつしか醸成されていたのでした。
当時を生きていない後追いGSファンである自分にとっては、音声だけながらもその生身の姿がありのまま活写された“GSの生態”はとても貴重なものでした。そしてそこに登場するGSはこれまたシブイ“ザ・スイングウエスト”。「こんないいお天気の日なのに……」と恐縮しながら、小鳥やお子さまたちによる長閑な声に混じって演奏されるグループ唯一の小ヒット『雨のバラード』に侘寂を感じずにはいられませんでした。
このスイングウエスト、ライブLPと謳いながら女性たちの嬌声をあとから前後にかぶせただけのスタジオ録音をレコード会社の意のまま適当に発売したりするなど、あくまで営業ノリのバンドだったようで、GSの神髄を知るにはちと毛並みの違うバンドなのかもしれません。誠にソツのない演奏。決して失神などしよう素振りはありません。
しかしGSは総じて若者たちが大人の事情による「やらされている」感にさいなまれ押し潰されていくところにも、哀愁といいますか自分はきゅんと疼いてしまっている次第でなのであります。
さて、音源によれば行川アイランドはフラミンゴたちが行列する“フラミンゴショー”が人気とのこと。←(MC兼ボーカルの湯原昌幸さんもたぶん見ていないのでたどたどしい説明……)フラミンゴがする芸って片足立ち以外になんだろう? 王選手の影響でフラミンゴが動物界で人気の時代だったのだろうか? あらためて前夜に聞き返して想像をかきたてられましたが、とにもかくにも今は廃墟。そして廃墟なのに悲しくも存在する! 「行川アイランド駅」に到着しました。
2月あたまの極寒の平日。ただでさえまばらな列車から、ここで降りたのはやはり自分だけ。北風に突き刺されながら、こんなとこで何してるんだろう? という思いがさすがの自分にも去来します。駅に降り立ってみるとなるほど、なんとなく遊戯施設に向けられているような舗道が雑草にむしばまれながらも幽かに見受けられます。そしてぽつんと公衆電話。オカルトな雰囲気を醸しています。ためしに入ってみようと試みるも押せども引けども何故か意地でも開きませんでした。こんなところに来て頑なに電話ボックスにまで拒まれる始末……。
すっかり疲れながら舗道を進みますと、これまた錆びついた付近の案内地図がありました。牧歌的なメルヘンタッチによる地図はやはり行川アイランドをアピールしたものでしょう。せつない。その地図を見ながら、えっと、あれ? もうここ? 道路を隔てて殺伐としたアスファルトの広い一面が見受けられるのですが、どうやらここが行川アイランドの入り口、駐車場だった場所のようです。道路を渡ってみると、なるほど、切符売り場だったらしき小屋、そして閉鎖されたトイレらしき建物、そしてなにか異界へ繋がっていきそうな階段が所々くずれながらお出まししました。その脇にはゲートらしきものの残骸やらなにやらぐちゃぐちゃ。
あ~ぁ。招かれざる珍客となって階段を一歩一歩踏みしめ、「GS聖地巡礼」の扉が禍々しくスタートしました。いや、スタートしませんでした。階段を登りつめて間もなくあったトンネルの入り口は、おそろしいほど張り巡らされた鉄条網とともに「立ち入り禁止」の板がバンバンとあちらこちらに。隙間からトンネル内を覗けば、「ようこそ」などとディズニーくずれみたいな動物たちが笑っているのですが、これはどうしたって浸入できようもありません。
当初から気になっていたのですが唯一の人影、眼下に遠く上下ジャージのおじさんがいて、またぞろゆっくり戻ってきました。注意されるかもと少し警戒していたのですがどうやらただの健康運動のようです。仕方なく下にまた降りてこのおじさんにおそるおそるあいさつしてみると、「なにしてんの? ここ二十年も見ての通りやってねぇのよ。そのうち再生するって話もあっけどどうだかねぇ」とのことでした。
再生、それはもうないだろうと思いました。グループ・サウンズのようにそれは時代の徒花だったのだ。いまはメルヘンも失神もパロディにしか成り得ない時代なのだ。夢のない時代だ。むりやりの結論をむなしくひっさげてこの場をあとにしようとしたのですが、去り際に至って山間に怪しいラブホテルらしき割れた看板が矢印を向けているのを見いだしました。矢印は急な上り坂へと向けられており、ここもついやけくそにえっちらおっちら登ってゆくと、え? やってんの? というような離れの小屋があちこちに現れました。
これはモーテルってやつかな? それはさておきそのエリアから行川アイランドの本殿へと繋がっているような気配のある小道をまたしても見つけてしまい、意を決して立ち入り禁止の柵を越え草木を掻き分け進むことに。しかしまもなく、なにかガサッと動物がびっくりするような物音が!こちらも勿論死ぬほどびっくりして山を脱走、そうして行川アイランドとの戦いはいよいよ白旗をあげることとなりました。あとで調べてみるとこの行川アイランド廃墟には現役時に見せ物として飼っていた「キョン」なる動物がひそか繁栄し自生しているのだそうです。「キョン」、なんだか知らないけどちょっと出会ってみたかった……。
このあと、小学校のこじんまりとした懐かしい校舎の廃墟も付近に発見、石の二宮金次郎さまの持つ本にこの探訪記を書き上げる決意の願掛けをしたあと、草むらでおしっこしてようやく帰路となりました。もはや何の書き物かさっぱりわからなくなってしまいましたが、実は自分は廃墟好きでもありまして、この「GS聖地探訪」はその跡地が廃墟でもあろうものなら一粒で二度美味しいグリコアーモンドチョコのようなあんばいとなるのです。(あ、因みに「チョコで選ぼうGS人気投票」のスポンサーは、明治でしたね)
かつて自分はラジオのゲストに湯原昌幸さんをお招きするという幸せを授かったことがあり、その時にも湯原さんご本人にこの「スイングウエストIN行川アイランド」の音源を謹呈、「おぼえてるよ~すごいね」ととても喜んでくださったのですが、もしまたお会いすることが叶ったら「かの行川アイランド行ってまいりました!」と敬礼し、この本を謹呈したい所存です。因みにこのライブでは途中でJガールズなる姉妹デュオが『あなたが来ない日』という悲しい悲しいデビュー曲をスイングウエストの演奏のもとプロモーションするくだりがあるのですが、湯原さんは「それ、全然おぼえてないねぇ」でした。
『あなたが来ない日』……。忘れ去られゆく廃墟の行川アイランドの永遠のテーマ曲として、この旅の思い出の歌として、いま自分の心に響いています。そしてこの本はすぐ廃墟にならず沢山の珍客さんたちが来てくださることを願いつつ、「まえがき」の筆を置き、いざあらためて!「GS聖地巡礼」をスタートしたいと思います。
版元から一言
タブレット純の、どこかマトモじゃないGSへのこだわりをお楽しみください。
上記内容は本書刊行時のものです。