書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
クライストと公共圏の時代
世論・革命・デモクラシー
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年2月26日
- 書店発売日
- 2025年2月26日
- 登録日
- 2024年9月12日
- 最終更新日
- 2025年2月28日
紹介
公共圏への羨望と警戒――集合的な〈声〉の力と暴力
フランス革命とナポレオン戦争の衝撃に劇震する世紀転換期、文芸的公共圏への参画は政治的公共圏への接続をも含意していた。文学市場が拡大するこの時代に、あえて大衆に追従しなかった作家は何を残そうとしたのか――クライストが描くデモクラシーの両義性と知られざる革命的文脈を掘り起こす。
本書の試みは、次のように定式化することができるだろう。すなわちそれは、一八世紀末以来の文学市場の拡大に伴い、社会が発する集合的な声としての「世論」が獲得した巨大な力と、それが物理的な力へと転化した「革命」という事件、さらに、その制度的ないし思想的内実としての「デモクラシー」という、一九世紀初頭に現実化の機会を与えられた新たな社会構想の是非をめぐって、クライストが――おそらくはときに現実の受容者をも意識しながら――テクスト上で展開した試行錯誤の痕跡を、同時代の言説編成との連関のなかで跡づける作業にほかならない。(「序章」より)
◎目次
序章 クライストと公共圏の時代
第Ⅰ部 虚構と現実あるいは文学と政治
第一章 裁きの劇場――『壊れ甕』あるいは政治的演劇の自己理解
第二章 重層的な革命――『壊れ甕』あるいは文学の地政学
第三章 デモクラシーの文法―― 『オーストリア諸国家の救出について』あるいは「民主的な様相」
第Ⅱ部 〈君主〉と〈民衆〉の詩的公式
第四章 民衆の輪郭(一)――『ロベール・ギスカール』あるいは不在の君主
第五章 民衆の輪郭(二)――『ヘルマンの戦い』あるいは友人たちのデモクラシー
第六章 機械仕掛けの国父――『ホンブルク公子』あるいはマキァヴェリアン・モーメント
第Ⅲ部 世論の(暴)力
第七章 震災とデモクラシー――『チリの地震』における「声」の政治的射程
第八章 公共圏の「脆い仕組み」――『ミヒャエル・コールハース』における「世論」の表象
第九章 ファマとメルクリウス――『ベルリン夕刊新聞』あるいは嘘と真実のジャーナリズム
終 章 誤報と自殺
目次
序章 クライストと公共圏の時代
1 「公共圏」とは何か――ハーバーマスをめぐる議論
2 「文芸的公共圏」の射程――公共圏の物質的・精神的諸前提
3 「世論」のトポス―― 市民的公共圏の自己理解
4 文芸的=政治的公共圏――クライストにおける隠れた主題
5 世論・革命・デモクラシー――クライスト研究史の展望と陥穽
6 本書の構成
第Ⅰ部 虚構と現実あるいは文学と政治
第一章 裁きの劇場――『壊れ甕』あるいは政治的演劇の自己理解
1 転倒されたオイディプス
2 「劇作の仕事」と「見えない演劇」――ドラマトゥルギーの亀裂
3 法廷としての劇場――啓蒙主義における演劇の自己理解の一系譜
4 劇場化する法廷――司法改革と演劇改革
5 審判者としての公衆
第二章 重層的な革命――『壊れ甕』あるいは文学の地政学
1 文学の地政学
2 革命の国家――スイス、オランダ
3 甕の亀裂――オランダ、スペイン
4 中央と周縁――ユトレヒト、フイズム
5 重層的な革命――バタヴィア、ヨーロッパ
第三章 デモクラシーの文法
―― 『オーストリア諸国家の救出について』あるいは「民主的な様相」
1 〈災害=破局〉をめぐる文法
2 「民主的な様相」―― デモクラシーの価値転換
3 〈民衆〉と〈君主〉のレトリック――「暫定的統治者」への期待
第Ⅱ部 〈君主〉と〈民衆〉の詩的公式
第四章 民衆の輪郭(一)――『ロベール・ギスカール』あるいは不在の君主
1 挫折の意味づけ
2 革命のコノテーション? ――ペストの象徴性
3 君主政の不安――統治の正統性と枢密の政治をめぐって
4 君主の余命と中断された革命
第五章 民衆の輪郭(二)――『ヘルマンの戦い』あるいは友人たちのデモクラシー
1 「友人」とは何か
2 友情の世紀、兄弟愛の世俗化――一八世紀における「友情」の諸相
3 感傷的=家父長的――交錯する二つの友情観
4 民衆という名の友人? ―― 革命的友情の構築
5 友人たちのデモクラシー
6 反転する暴君
第六章 機械仕掛けの国父――『ホンブルク公子』あるいはマキァヴェリアン・モーメント
1 不在の君主をめぐる実験
2 啓蒙主義の君主論――マキァヴェリアン・モーメントをめぐる物語
3 甦る君主? ―― 主権者の両義性
4 法と恩赦――選帝侯あるいは法治国家の功罪
5 法の脆さ――将校の雄弁あるいは解釈の(暴)力
6 演出家としての君主――バロック演劇の系譜の終焉
7 機械仕掛けの国父と無定形のデモクラシー
第Ⅲ部 世論の(暴)力
第七章 震災とデモクラシー――『チリの地震』における「声」の政治的射程
1 震災の文脈
2 ユートピアの裏面――匿名の「声」の等価性
3 革命の経験――「電光の閃き」と連鎖する「声」
4 平等の背後――非対称な複数の「声」
第八章 公共圏の「脆い仕組み」――『ミヒャエル・コールハース』における「世論」の表象
1 「世界の脆い仕組み」――公共圏への想像力
2 「世論」とは何か――一八〇〇年頃の言説編成
3 「世論」への懐疑――革命(後)の集合的意見形成
4 「世論」の動員――プロイセン改革期における言論政策
5 公共圏の「脆い仕組み」―― 作家としての自己理解をめぐって
第九章 ファマとメルクリウス――『ベルリン夕刊新聞』あるいは嘘と真実のジャーナリズム
1 規範的あるいは攪乱的ジャーナリズム?
2 ファマあるいはメルクリウス――近代ジャーナリズムをめぐる言説の布置
3 ファマからメルクリウスへ――一八世紀の「完璧な新聞の理想」
4 ファマとメルクリウス――『ベルリン夕刊』における「真実」の位置
5 空転する「真実」―― 啓蒙主義の遺産と残骸
終 章 誤報と自殺
1 〈群集〉あるいは埋没する視点
2 演出された「自殺」――「代表的公共性」から公共圏のフォーラムへ
あとがき
参考文献
前書きなど
本書の試みは、次のように定式化することができるだろう。すなわちそれは、一八世紀末以来の文学市場の拡大に伴い、社会が発する集合的な声としての「世論」が獲得した巨大な力と、それが物理的な力へと転化した「革命」という事件、さらに、その制度的ないし思想的内実としての「デモクラシー」という、一九世紀初頭に現実化の機会を与えられた新たな社会構想の是非をめぐって、クライストが――おそらくはときに現実の受容者をも意識しながら――テクスト上で展開した試行錯誤の痕跡を、同時代の言説編成との連関のなかで跡づける作業にほかならない。(「序章」より)
上記内容は本書刊行時のものです。