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心訳『鳥の空音』
元禄の女性思想家、飯塚染子、禅に挑む
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年9月
- 書店発売日
- 2013年10月3日
- 登録日
- 2013年9月3日
- 最終更新日
- 2013年10月9日
書評掲載情報
2014-02-16 |
毎日新聞
評者: 持田叙子(日本近代文学研究者) |
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紹介
この世に生きる意味はあるのか。
江戸中期、元禄を生きた、忘れられた文学者・思想家、飯塚染子を再発見する書。
絶望のなかで飯塚染子は禅の問答集『無門関』に向き合い、自分なりの思索をぶつけ、書を記した。時を経て、その書に慈雲尊者が、自らの思索を書き加える。
本書は、その時代を超えた奇蹟の深遠な「対話劇」『鳥の空音』を、小説仕立ての現代語訳で紹介するものである。
あわせて、解説、そして校訂本文も提供。
ここに、忘れられた元禄の女性文学者にして女性思想家である飯塚染子の復権を目指す。
文学史と思想史の永い眠りから覚めた飯塚染子が、現代人に向かって静謐で激越な言葉の数々を語りかける。
目次
はじめに
Ⅰ 心訳『鳥の空音』―元禄の女性思想家、禅に挑む
〔原著・飯塚染子〕
〔補筆・慈雲尊者〕
〔訳者・島内景二〕
凡例
【上巻】『無門関』第一~一八則
【下巻】『無門関』第一九~四八則 跋文1・2
Ⅱ 解説―『鳥の空音』の発見
Ⅲ 『鳥の空音』校訂本文
凡例
あとがき
『無門関』―『鳥の空音』細目
1 趙州狗子/2 百丈野狐/3 倶胝竪指/4 胡子無鬚/5 香厳上樹/6 世尊拈華/7 趙州洗鉢/8 奚仲造車/9 大通智勝/10 清税孤貧/11 州勘庵主/12 巌喚主人/13 徳山托鉢/14 南泉斬猫/15 洞山三頓/16 鐘声七条/17 国師三喚/18 洞山三斤/19 平常是道/20 大力量人/21 雲門屎■/22 迦葉刹竿/23 不思善悪/24 離却語言/25 三座説法/26 二僧巻簾/27 不是心仏/28 久嚮龍■/29 非風非幡/30 即心即仏/31 趙州勘婆/32 外道問仏/33 非心非仏/34 智不是道/35 倩女離魂/36 路逢達道/37 庭前柏樹/38 牛過窓櫺/39 雲門話堕/40 倒浄瓶 /41 達磨安心/42 女子出定/43 首山竹箆/44 芭蕉■杖 /45 他是阿誰/46 竿頭進歩/47 兜率三関/48 乾峰一路/跋文1/跋文2/
前書きなど
本書は、忘れられた文学者にして思想家である飯塚染子の再発見を目指している。飯塚染子は、江戸時代の中期、元禄の頃を生きた女性である。彼女は、現在の千葉県東金市に生まれた。縁あって、徳川五代将軍綱吉の側近であり、国家を舵取りした大名・柳沢吉保の側室となった。そして、彼の跡取りである柳沢吉里を生んだ。
だが、吉里を生んだ前後で、四人の子どもを次々と夭折させた哀しみから、彼女は生きる意味を見失った。自分には本当に、この世に生きる意味があるのだろうか。この絶望の中から、彼女は禅の書物である『無門関』と出会った。そして、『無門関』が問いかけてくる、生と死の根源に関する四十八の難問の一つ一つに、渾身の力で挑み、自分なりの思索をぶつけた。
飯塚染子は、『源氏物語』などの日本の古典に習熟していた。夫の柳沢吉保は、『源氏物語』の第一人者である北村季吟と親しかった。しかも、染子は儒学にも詳しかった。柳沢家には、大儒・荻生徂徠が仕官していた。彼女は、『源氏物語』や儒学の教養を総動員して、禅の「無」の思想と真向かった。それが、生きる意味の発見にがったのである。
これが、『鳥の空音』という書物の原型である。染子は「智月」という仮の名前で、思索を書き記している。やがて、時は流れ、飯塚染子は亡くなる。だが、彼女の曾孫に当たる大和郡山藩主の柳沢保光が、彼の尊敬する宗教者・慈雲尊者に、この『鳥の空音』を見せたことから、不思議な因縁が生まれた。独創的な思想家として知られる慈雲尊者は、飯塚染子が書き残していた『鳥の空音』に、自分自身の思索を書き加え、彼女の作品に手を入れたのである。
ここに、二人の男女の、時代を超えた深遠な「対話劇」が、実現することとなった。そして、『鳥の空音』が、現在、見られるような形で完成したのである。それは、文学者と思想家の対話でもあり、男女の思想家同士の対話でもあった。
だが、この写本の優れた価値は、忘れ去られた。本書は、伊豆の名刹・修禅寺に残る『鳥の空音』の写本に基づいて、その現代語訳と解説、そして校訂本文を提供するものである。ここに、忘れられた元禄の女性文学者にして女性思想家である飯塚染子の復権が目指される。
「Ⅰ 心訳『鳥の空音』」の部分は、いわゆる「逐語訳」ではない。飯塚染子という女性の魂の叫び、そしてそれに触発された慈雲尊者の思想を明らかにするために、小説のようなかたちで現代語訳を試みた。読者は、老碩学と成熟した女性との往復書簡を読むような感じで、読み進めていただきたい。ただし上巻では、染子のモノローグがほとんどであるが。
江戸時代に、ここまで優れた文学者、思想家、哲学者、エッセイストがいたという事実に、読者は驚きを禁じ得ないだろう。そして、彼女が求めて止まなかった「わたくしが生きること」の意味を、現代を生きる私たちもまた求め続けていることにも気づかされるだろう。
「Ⅱ 解説―『鳥の空音』の発見」は、この運命の書物がたどった数奇な歴史を発掘するプロセスを、書き綴ったものである。一種のミステリー仕立てになっている。それでもなお、たくさんの「謎」が残った。この書物の真価は、今もなお発見されていない。これからの新発見が待たれる。
「Ⅲ 『鳥の空音』校訂本文」は、修禅寺蔵本に基づいた本文を提供する。これが、今後の研究の出発点になるであろうと思われる。
それでは、文学史と思想史の永い眠りから覚めた飯塚染子が、現代人に向かって語りかける静謐で激越な言葉の数々に、耳を傾けるとしよう。
上記内容は本書刊行時のものです。