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となりのとらんす少女ちゃん
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年5月9日
- 書店発売日
- 2025年5月14日
- 登録日
- 2025年3月31日
- 最終更新日
- 2025年7月5日
書評掲載情報
2025-07-05 |
朝日新聞
夕刊 評者: 水上文 |
2025-05-14 |
PRIDE JAPAN
評者: 編集部 |
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紹介
トランスジェンダー当事者が確かに刻む、現代の「トランスガール」の肖像。
新鋭・とら少、渾身のデビュー作!
SNS上でトランスジェンダーが登場する作品を数多く発表してきた作者・とら少。当事者だからこそ描けるリアリティと、人間の深部に肉薄する力強い筆致を特徴とし、セクシャルマイノリティ当事者を中心に共感の輪を広げてきた。
一時は漫画制作を断念しようとしていたものの、単行本化を熱望する声にこたえ活動を再開。出版にむけて実施されたクラウドファンディングでは開始初日に目標額を達成するなど、いま注目を集める漫画家のひとりである。
大きな反響を呼んだ3篇のリメイクに書き下ろし1篇を加え、満を持して商業デビュー!
これは、いつかきっとすれ違った、わたしたちのとなりに生きる「とらんすちゃん」の物語。
装丁:はちみつちひろ(小月デザイン)
印刷・製本:藤原印刷株式会社
【帯文】
虹色に光ることもなく、ピンクとブルーに別れることもない、トランスの生を一度は満たす灰色の感情がただよっている。
――高井ゆと里(倫理学者『トランスジェンダー入門』)
「わかりやすい物語」の先にある、現実のトランスジェンダーのリアリティに触れる、新鮮な経験。
――三木那由他(哲学者『言葉の展望台』)
【収録作品紹介】
・相川と園木は同じ学科の同級生。園木は相川に好意をもち、相川もそれに気づいているが、のらりくらりとかわす。実は相川には他の同級生には言えない秘密があって、園木の好意に応えることもできない。その夜、園木から飲み会に呼び出される相川だが--(「退廃的なとらんすちゃん」)
・男子中学生・りょうとには友人を家に呼べない理由がある。弟・あゆむが「オカマ」だからだ。そのおかげで友人にからかわれ、気苦労が絶えない毎日を送る。ある日りょうとは、発表課題を仕上げるために、片思いしている美羽を家に招くことになって--(「弟はとらんすちゃん」)
・ある日、サッカー少年・ユウタの家を訪ねる若い女性。ユウカと名乗る彼女は「性別移行した未来のユウタ自身」だという。男性として成長するまえに早く性別移行を始めろと迫る”未来の自分”に、「オレは女になんかならない」と譲らないユウタだが--(「未来から来たとらんすちゃん」)
・クラス委員長のショウタは、みんなの期待どおりに生きる「優等生」。自分とは真逆で、男らしくできない副委員長のヨシくんに苛立ちを隠せない。「なんでぼくはこんなにムカつくんだ」。自問するショウタの心の奥底にあるのは、いまだ消せない幼馴染の美咲とのわだかまりだったーー(「似つかわしいとらんすちゃん」)
目次
1.退廃的なとらんすちゃん
2.弟はとらんすちゃん
3.未来から来たとらんすちゃん
4.似つかわしいとらんすちゃん(書き下ろし)
版元から一言
著者は、当事者である自身の体験をもとに、トランスジェンダー(女性)の登場する漫画作品を多く生み出してきました。それまでのトランスジェンダーを扱う作品群とは一線を画すリアルな視点が清新な感覚をもって受け入れられ、着実にファンを増やしています。
「ずっと男の子になりたかった」「ありのままって、なに?」「オレは女になんかならない」
――このようなセリフで紡がれる著者の作品のトランス当事者たちは、生得的な性別(からだの性別)と"自認する性別"(こころの性別)が一致しないという不条理として表現されてきた従来のトランスジェンダー像(性同一性障害当事者を含む)に当てはまりません。
見えにくく、揺らいでいる実際のトランスジェンダーの一様でない性のありようを鋭い観察眼で紐解き、繊細なタッチにより再現することに成功しています。
著者の作品のもうひとつの特徴として、それらのほとんどがコミックエッセイではなく、あくまでフィクションであるということです。
フィクションとしてトランスジェンダーに向き合う物語は、漫画以外のジャンルを合わせても多くはありません。それも当事者自身の手によるものに限定すると僅少です。
エッセイの魅力を否定するわけではありませんが、虚構を用いてしか描けないものがあることもまた事実です。
本書収録「未来から来たとらんすちゃん」などはその例のひとつで、「もし過去のある地点に戻れたとしたら当時の自分にどのようなアドバイスを送るか」という誰もが持ちうる空想を土台に、二次性徴や家族/友人関係の葛藤など、トランスジェンダーの多くが成長の過程で経験する「あるある」なイベントをなぞりながら、しかし最終的には単純な歴史改変というプロットに頼らず「現在」の意味を逆説的に浮き彫りにします。この骨太のストーリーはまさに、フィクションの力がもたらす醍醐味と言えるでしょう。
本書の登場が、日本の漫画シーンにあたらしい風を吹き込むことを確信しています。
出版に先がけ実施されたクラウドファンディングでは、『言葉の展望台』(講談社)等の著作で知られる三木那由他さん、『トランスジェンダー入門』(集英社)を共著した高井ゆと里さんと周司あきらさんなど、各界で活躍する著名人が応援コメントを寄せてくれました。
これらの著名人の間でも「とら少」の名前はよく知られていて、そのために快く許可をいただいたという経緯があります。
コメントの後押しもあり、最終的には総数271名、総額2,028,700円というご支援に恵まれました。
周司さんのコメントは、このような一文からはじまります。「ようやく本になると知った日は、興奮して眠れませんでした。SNSがトランスヘイトに溢れてからも、漫画が更新されるのは一縷の望みだったのです」。
「作品を生むことが、希望」。
誰かにそうまで言わしめる表現者は、それだけで稀有なものです。
出版社の仕事はまず第一義に、このような才能をすくい上げ、それを求めるひとのもとへ届けることにあると考えます。
著者の真摯な筆致から立ち上がる本書が、今日のトランスジェンダーをめぐる政治的な争いを越え、出版文化の希望それ自身となることを切に願います。
浅野葛(合同会社在野社/”葛”は”かつら”と読む)
上記内容は本書刊行時のものです。