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第23回椋鳩十児童文学賞受賞 90歳の新人作家!

 第23回椋鳩十児童文学賞は、石井和代作「山の子みや子」(てらいんく)に決定しました。立派な賞に版元として大変に光栄でございます。皆様のご支援あってのことと深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
 椋鳩十児童文学賞は、日本を代表する児童文学者、椋鳩十氏の業績を永く顕彰するとともに、新たな児童文学者の発掘と児童文学の発展に寄与するために、鹿児島市が市制100周年を記念して、平成2年に創設したものです。これまでの受賞者の方々は様々な分野でそれぞれ活躍されております。

 「山の子みや子」は、てらいんくの“生きる力、たくましく生きる子どもたち”を描いた物語の中の1冊です。
 著者、石井和代氏は、現在90歳、千葉県市川市在住です。小学校に47年間勤務。特に、国語教育に熱心に取り組み椋鳩十作品も多く子どもたちに授業されたそうで、今回の受賞は、感慨無量と感想を述べられています。退職後は、自らの体験をもとに子どもたちの生きるたくましさをテーマに創作活動中です。創作を児童文学作家・岩崎京子氏、故砂田弘氏に師事。受賞作「山の子みや子」は、1冊目の単行本です。
 大正、昭和、平成と石井氏は苛酷な戦争、敗戦、何もかもなくしたところから立ち上がった日本人の力、そしてバブル、不況を目の当たりに、また体験されています。作品には、生きる力があふれています。
 「山の子みや子」は、創作ですが、実際に岩手県田野畑で、山地酪農を営む家族をモデルに書かれた物語です。
 都会に育ちながらも、未開の地、岩手田野畑の山奥で山地酪農に挑む父の夢に、家族が一つになって取り組む姿が小学5年生のみや子の目を通して描かれています。
 山地酪農は、いい乳のとれる牛になるよう夏でも冬でも1年中、放牧地に放し飼いにし、乳をしぼるときだけ小舎にいれて飼料をやるのです。
 ある日、牛たちが夜になっても小舎に戻ってきません。みや子とお父さん、近隣の人も一緒に夜の山で牛たちを探します。「尾根すじに迷い込んだのかもしれん」お父さんは、牛を探し回ります。出産間近の母牛がいます。(やぶかげでひとりで子を産んだ。その血のにおいを熊がかぎつけて-)みや子は、体がふるえます。夜更け、牛たちは小さな新しい命をつれて帰ってきました。
 運動が得意なみや子は、バレーボール大会の選手に選ばれますが、牛の世話があるので放課後の練習に参加できません。他の仲間に気が引けます。帰りが遅れると母や弟たちに迷惑をかけます。思い悩むみや子に弟たちが「僕らが手伝うからバレーボールの練習に参加していいよ」と言います。それぞれ分担された仕事があるのに弟たちはみや子を思いやります。
 自宅に電気が通じることになり、大喜びのみや子。電気スタンドに、冷蔵庫と便利になる生活に夢を膨らませます。しかし、それには、慣れ親しんだ岩や大樹をなくして電信柱を立てることを知り心を痛めます。
 生活の便利には、失うものもあること、自然の恐ろしさ、恵みそしてたくましく生きる力、リアリティ溢れる作品です。
 今こそ、生きるということ、自然と共生する私たち、人としての原点をしっかりと見つめ直すときではないでしょうか。「山の子みや子」は、そのために世に届けられた運命の本とさえ自負しています。

 てらいんくの“生きる力、たくましく生きる子どもたち”を描いた作品には、他に「泣いた牛」(高橋文子)、「マキおばあちゃん、五年生だったころ」(佐藤ふさゑ)があります。子どもたちが、一人前の働き手として大人を助け、たくましく生きる姿、家族、隣人の絆が描かれています。興味深いことに三作ともに牛が登場します。牛は昭和のはじめ、農業が機械化される前は、乳牛としてばかりでなく、田を耕したり、荷物を運んだりと、人の力になり人ともに暮らしていました。
 「泣いた牛」は、伊豆七島の南端に浮かぶ小さな島、今は、無人島の八丈小島が人とともに輝いていたころの物語です。電気も、水道もなく、運搬は牛が頼りの生活。自然の恵み、恐怖、島の人々の人情、家族の強い絆が純朴な暮らし中に元気に明るく楽しく描かれています。八丈小島は、最盛期には500人ほどが住んでいたそうですが昭和44年に全島民が島を離れ、現在は、無人の島です。
 「マキおばあちゃん、五年生だったころ」は、戦争が終わり、生きている喜び、本当の幸福を知り、「今、日本は1つになって生きるときだ」と国民が希望と意欲で、崩壊日本を再建する日本人魂の物語です。
 舞台は、第2次大戦直後の静岡県。美しい富士山を背景に繰り広げられる家族、近隣の人間模様。終戦に安堵し、家族・隣組で、日本を立て直そうと助け合い、分け合い、1つになって生きる人々の日常の暮らし。大人の世界を覗き込み、聞き耳を立て、子どもなりに考え、大人を助けたり、反発・抵抗しながらも成長していく子ども、マキちゃん。人間が生き抜いていくことの厳しさ、つらさ、すばらしさを伝えます。

 近刊(5月発売予定)てらいんくの評論「自由になっていく」(佐藤栞)で、著者は自分自身への問い、-私は何故生まれてきたのか-、その答えを児童文学のなかに見つけ出そうとします。「-私の人生には意味があり、私には為すべきこととの出会いがまっている-そう信じることは希望を与えてくれる。自分や他を信じて生きていこうとする時、児童文学は、希望を供給し続けてくれるのです。児童文学を読むことを通じて物事の本質や自分の人生の意味を深く考えることができる気がします」と書いています。
 近刊(5月発売予定)てらいんく絵本「星になりたかったハンミョウ」(菊池和美)では、ある日、ハンミョウは、他の虫をたべて美しい成虫に育つ自分に絶望します。土の穴なかに潜んで虫をいきなり捕らえて食らいつく自分を悲しみます。他の命を食べて生きていくのはもう耐えられないと悩み苦しみます。永遠のテーマ、つながる命を描きます。

 これからもてらいんくは、生きるということ、命の大切さを本を通して伝えていきたいと思います。子どもたちも大人も、現実を見つめて、生きる力、たくましさを育んでほしいと思います。今後ともご支援お願いいたします

てらいんくのTwitterアカウント @hatupa

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