私はここにいる! からはじめること
2009年ももう師走、早い早いとつぶやくうちに、来年ももうすぐです。今年は年越し派遣村に始まり、アメリカや日本の政権交代が世界の大きな変化の兆しを感じさせつつも、貧困や労働の問題はいまだに私たちの生活を脅かしながら、今年も過ぎ去ろうとしています。
先日終了した、政府による「事業仕分け」が行われた体育館は、私たちがいる新宿区の東京シューレ出版のある建物の目と鼻の先にありました。体育館を囲むようにしてある隣の広大な土地には防衛省がそびえ立ち、時折、大きなヘリコプターの音がして、防衛省本部の屋上に降り立つ様子が見えたり、自衛隊の訓練の音などが聞こえてきます。
私がおります有限会社東京シューレ出版は、2005年に設立された小さな出版社です。社員も数名でやりくりしながら、これまでに12冊をゆっくりとしたペースで刊行してきました。
「東京シューレ」と聞かれても、おそらく不登校に関係した方ではないと、耳にされたことはないかもしれません。
東京シューレは、学校に行かない(行けない)子どもたち、いわゆる「不登校」の子どもたちの激増を背景に、1985年に始まったフリースクールです。現在はNPO法人として約200人の6歳から20歳前後の子どもや若者が通い、学び育っているほか、2007年からは、不登校の子どもたちが通う学校法人「東京シューレ葛飾中学校」も設立され、約120人の子どもたちが在籍し、日々を過ごしています。
新たに有限会社として立ち上げたのは、東京シューレのこれまで蓄積されてきた活動を基盤とし、それを生かしたものを発信しようと考えたことがはじまりです。ただ、単に東京シューレの関連事業という位置づけだけではなく、不登校やひきこもり、教育の問題や社会の問題を、子どもや親、教育関係者などの当事者の視点から見た独自の書籍を企画し、発信を行っています。
初ての本は2冊の同時刊行。東京シューレの20年の実践を書き綴った「東京シューレ子どもとつくる20年の物語」と、不登校の子どもたちがどのような経過をたどり大人になり、どう働いているのかを綴った「学校に行かなかった私たちのハローワーク」です。
上記に上げたような不況真っ只中の現在、不登校経験者ははたして生きていけるのか? と心配する声があります。それもだいぶ昔から、不登校の子どもたちは「将来がなくなるから学校へ行け!」と親からのプレッシャーを与えられてきました。しかし、不登校をしてもそれなりにさまざまな道を選び、しっかり土を踏みしめて生きている様子が綴られた彼らの生の声は、朝日新聞の紙面や「天声人語」などで紹介され、多方面から反響を呼びました。
この日記を書かせていただいている私自身、元々いじめにより不登校となり、その後、ひきこもりを経験した一人です。上記の東京シューレに小学校6 年生から通い、そこで育ったわけですが、「学校に行かない」ということを通して、社会に対してさまざまな関心を持つきっかけができ、教育や子どもに関する活動をしている人たちとの出会いがあり、世界が広がりました。特に1990年代半ばには、不登校やひきこもり、いじめ自殺などが大きくクローズアップされ、当事者の子どもとして、東京シューレでいじめ自殺問題へのアピールを行い、多くのメディアから取材を受け、各地へ出向き自分たち子どもの声を発信してきました。
そこでの活動が縁となり、しばらく経ってから長らく他の出版社で営業を担当していた現在の社長と出会い、会社が立ち上げられました。私はいま、主に編集を担当していますが、現在も、書籍制作と平行して不登校や教育問題についての経験や研究を基に、全国各地へ講演をさせていただいているところです。
現在は閉塞感につつまれている社会だといわれます。大人の社会として不況や貧困の問題、うつ病や自殺など深刻な状況が影を落としています。また、子どもや若者の状況もいじめや自殺は一向に収まることはなく、不登校も減少することなく、ひきこもりや「ニート」と呼ばれる現象も生み出され、派遣切りが深刻です(私の知人も派遣切りに合いました)。彼ら多くの人が「いきづらさ」や孤独のまっただ中で生きています。
私自身も閉塞感につつまれた社会の中で生きている一人です。しかし、これまで生きてきた中で少なからず考えてきたこと、生きぬくための知恵を育ててきたと思っています。それは以下の3つです。
①「私はここにいるよ」と声を上げること——どんなに小さな声でも誰でもいいから苦しい、と声を上げていけば、同じような人が必ずどこかにいて、誰かに伝わるチャンスができること。
②「つながる」こと——誰か同じような境遇の人とつながることで、安心することができる。居場所ができる。あなたは生きていていい、私は生きていていいことを実感できること。
③「発信する」こと——つながった人たち同士が情報を共有して、今ある問題を考え深める。それを社会へと発信することで、私たちの生きている環境を少しずつ変えるきっかけになる。そこからさらに新たなつながりも広がること。
もちろん、限りなく小さい声の当事者もいます。声に出すことの出来ない当事者も大勢います。しかし、どんな人でも生きる権利があります。だからこそ多くの人が、声なき声を持つ人たちに耳を傾け、つながり、一緒に寄り添って生きていくことが、何より大事な時代ではないでしょうか。
私たちは今、いまある息苦しさからどうしたら抜け出し、何をどうすれば希望をもって生きることができるのでしょうか。具体的に何を知り、どのように考え、生きるのか。そのヒントや方法を、私たちは本を通して、小さな種として読者に伝えていきたい。そんな思いを持ちながら、今後も発信を続けたいと思います。
インフルエンザも未だに猛威を振るっていますが、師走の折、忙しさで疲労がたまると普通の風邪にも気をつけたいものです。夜更かししてこのWEBを見ているあなた、どうぞ寝冷えにはご注意を。