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アメリカとの訣別

 9月11日に「イスラーム教徒の言い分」という本を出した。タイトルどおりの本だが、読んだ知り合いに新聞記者が「過激ですね」と評した。「どこが?」と聞いたが、納得のいく返事はもらえなかった。腰帯に「アメリカはおかしい」と書いた。どうもそのあたりが「過激」のもとらしいが、9月11日前後に出た日本の雑誌を見てごらん。「アメリカはおかしい」の大合唱じゃないか。西谷修なんか、イスラーム教徒よりよほど過激だぜ。おっと違った、表現がより濃ーい、あるいはアジ的だと言い直そう。しかし、言っている内容はイスラーム教徒とほとんど変わらない、きわめてまっとうなことだ。日本人やアメリカ人(!)の評論家が言えばナルホドで、イスラーム教徒が言えば「過激」となるのか。絵に描いたような偏見だ。新聞記者がこれだから…なんてこと言ってもしょうがないな。

 それはさておき、多くの日本人が「アメリカがおかしい」と考えているのは当然のことで、健全だと思う。サッダーム・フセインがいい指導者だとはみじんも思わないが、「サッダームの首がほしい」(比喩じゃないよ)とか「国連が討議するのは勝手だが、アメリカはそれに従う必要はない」なんて政府の高官が言う国は明らかに「おかしい」。

 先日、カナダのテレビ局が作ったドキュメンタリー番組を見た。ベトナム戦争中にアメリカ軍がラオスに落としたものすごい量の爆弾が不発弾となって残っており、昨年もベトナム国境沿いに住む農民がそれに触れて、100人死んだということだ。タイの基地から出撃したアメリカのパイロットは、ベトナムやホーチミンルート(ほとんどラオス領)をめちゃくちゃ空爆しただけでなく、基地に戻るとき余った爆弾を全部ラオス領内に「捨てて」いったという。ひどい話じゃないか。90年代以降、アメリカは戦争で行方不明になったアメリカ兵の捜索に必死になった。ラオスにも、いくつものミッションが送り込まれた。しかし、自分たちの爆弾で現に死につつあるラオス人に対しては、補償どころか、謝罪ひとつしていない。

 もちろんベトナム戦争だけじゃないよ、アメリカがひどいのは。ソ連の南下を防ぐため、アフガンのムジャヒディンに援助し軍事訓練をしてアルカイーダを作り出したのは誰だ?そのアルカイーダが9月11日に貿易センタービルに突っ込んだというなら、その犠牲者にまず謝罪すべきはアメリカ政府じゃないのか。アメリカのアフガン攻撃以後、世界はどうなった? 喜んだのは中国、ロシア、イスラエルだ。「テロ集団」と言ってしまえば、公然と邪魔者の殺せるようになったのだから。チベットで、新彊で、チェチェンで、パレスチナで何十万の人が悔しさに歯噛みしながら殺されたことか。世の中、暗い。

 しかし、これだけアメリカがむちゃくちゃやっても世界がそれを止められないというのは、世界のほう、つまり私たちの中にそれを受け入れるものがあるということでしょうね。確かに、戦後、世界中でアメリカはひとつの「理想」だった。アメリカと闘ったベトナム人の大半がアメリカ大好きと言う。アラブの人たちもアメリカの生活はあこがれる。日本人だって、みんなアメリカにあこがれていた。それは「無限の自由」「無限の富」ということかな。しかし、そんなもの、人間は求めてはいけないのだろうね。だいたいメジャーリーガーの年俸40億とかいうのは間違っていると思うよ。人間は元来がおろかな存在だ、そんな人間には人間の分というものがあって…なんて言うと、イスラーム的になってしまうが、イスラームがけっしてベストだとは思わない。そうやって他に「価値」を求めていくとろくなことにならない、というのはつい最近までみんなが経験してきたことだ。まずは自分のうちなるアメリカと訣別しよう。それからだ。とりあえず、100円ショップでがまんしよーっと。

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