記憶に残る仕事
サニーサイドブックスのあいはらひろゆきです。
ぼくは20年近く絵本作家をやってきました。代表作は「くまのがっこう」シリーズです。他にも童話やYAなども含め100冊以上の本を出してきました。
ぼくは、広告会社出身ということもあって、新しい企画を考えるのが大好きなのですが、ここ数年は、特に大手出版社での新しい企画や新人画家採用などへの壁が厚く、ストレスを感じていました。そこで、昨年思い切ってひとり出版社を立ち上げることにしたのです。「企画が通らないんだったら自分で出しちゃえばいいんだ」ってわけです。
多少安易に出版業について考えていましたが、始めてみるといろいろ知らなかったことばかりで、今は、版元ドットコムさんの沢辺さん、糸日谷さんのご指導のもと、一から出版について勉強しています。作家というのは、初刷で何千部、重版で何千部という感覚しかありませんから、1冊の客注電話に対応するのは新鮮で、かつ1冊売れることのうれしさを素直に味わっています。
今年は東日本大震災10年ということで、仙台市の被災した保育所の3.11の1日を描いた実話絵本「笑顔が守った命~津波から150人の子どもの命を救った保育士たちの実話」(サニーサイドブックス)
を3月に出版しました。
ぼくは仙台出身で、地元の作家として保育所の慰問を10年続けてきましたが、震災の記憶が風化していく現状の中で、どうしても震災の事実を絵本化して、子どもたちにしっかりと受け継いでいってもらいたいと思ったのです。
実は、この企画についても、はじめは大手出版社の編集に相談しましたが、「震災モノは暗くてウケない」と断られました。暗くても、ウケなくても出す必要があるんじゃないか?そう言いたかったですけど、言っても無駄でしょうからやめときました。でも、自分で出版社を立ち上げたことで、やりたがらない人間を説得するという手間がなくなって、なんとか出版にこぎつけることができました。絵本が完成した後、保育所に当時の園児たちを集めて読み聞かせ会を開きました。今は高校生になった10人ほどが集まってくれて、その成長した姿を見たら「もし、保育士の先生たちが彼らを守れなかったら、今ここで彼らに会うこともできなかったんだ」という思いが沸き上がってきて、涙が流れました。保育所の先生たちにも、「絵本にすることができてほんとによかった」と言ってもらいました。20年の絵本作家生活の中でも、数少ない記憶に残る仕事になったのではと自負をしています。
この絵本も出版社を立ち上げなければ実現できなかったものであり、やはり、自分がやりたい企画をストレートに形にできる自分の出版社の存在は大きいなと改めて感じています。今後もこういう形で、既存出版社がやりたがらない新しい企画をどんどん実現していきたいと考えています。小さな出版社どうしが連携して、企画を作っていくようなこともどんどんやるべきだと思っていますので、何かあればお声がけください。出版社としても、また作家としても積極的に関わっていきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。