新型コロナウィルスの功罪
タイトルに「功罪」と付けたものの、「功」などあるはずがない。ただ、否が応でも現状を見直す機会となったことは、次につながる副産物だとはいえないだろうか。
当社アイエス・エヌは、今年の4月に『「都構想」を止めて大阪を豊かにする5つの方法』を発売した。著者は元大阪府職員の大石あきこさん。12年ほど前に橋下徹さんが大阪府知事になったとき、最初の朝礼で、大勢の職員の前で橋下新知事にくってかかった女性である。当時、橋下さんの人気は絶頂で、朝礼にはマスコミのカメラがたくさん入っていたため、彼女の抗議はテレビや雑誌で取り上げられて、一躍時の人となった。現在は、大阪府を退職し、介護職の地位向上などのために地域活動に奔走している。次回の衆院選では、大阪5区かられいわ新選組から出馬予定。
とはいうものの、彼女自身は無名であるため、書籍の注目度を高めるために、京大教授の藤井聡さん、れいわ新選組代表の山本太郎さん、立命館大学教授の松尾匡さんとの対談中心の構成とした。3名ともメジャーな学者、政治家なので、話題性のある書籍にならないかと期待しているところだ。今年の11月には都構想の住民投票の可能性があり、機運も高まるはずである。しかも、大石さん自身がアクティブな方なので、出版記念講演をはじめ様々なイベントを打って、その場で販売する予定だった。
そこに緊急事態宣言の発令である。イベントはすべて中止・延期となり、イベント会場での販売で見込んでいた日銭が断たれた。出版社はどこもお困りだと思うが、書店も休業したり、時短をしたりで、思ったほどは売上が伸びない。幸い、本書は発売直後だったので、いまのところAmazonの在庫は潤沢にあるが、この間、Amazonも日用雑貨に追われ、多くの書籍が在庫切れとなっても補充されないようだ(6月1日現在、少し改善されつつあるか?)。また、本来なら11月の住民投票に向けて、5月ぐらいから賛否両論が盛り上がるはずだったが、いまはそれどころじゃない空気である。売れ行き好調を期待していただけに、もどかしい状況に立たされている。
そうしたなか、著者の大石あきこさんが、藤井聡さん、山本太郎さん、松尾匡さんとのオンラインシンポジウムを開催し、5月30日にYouTubeで配信した。もともとリアルでの開催を計画していたイベントである。大石さんをはじめ、全員キャラの強い方ばかりなので、とても面白いコンテンツに仕上がっている。おそらく、その効果だろう。Amazonのランキングも上昇し始め、あと一歩で1000位を切るところまで迫った。もっとも、初速がここまでなので、3桁突入は難しいと思うが。
https://www.youtube.com/watch?v=P3lD7Ps9Y7U
緊急事態宣言がなければ、大阪市内の小さな書店、隆祥館書店でも、大石あきこさんを囲む会を開催する予定だったが、それもいったん中止になった。その隆祥館書店でも、リアルなイベントに代えて、オンラインでの「作家を囲む会」を始められているようである。イベントに限らず、オンラインでの会議や取材など、コロナ対策にとどまらず、ポストコロナのレギュラーな手立てとして、きっと定着するだろう。私はITリテラシーが低く、いまは細々と書籍のFacebookページを立てて、わずかに直販を行っている程度。しかし、リアルやオンラインのイベントと組み合わせれば、SNSを活用した販売活動に活路を見出せるかもしれないことを、頭だけでなく、身体でも実感した。本の売り方も街の書店との付き合い方も、大きく見直す時代が到来した。それを「功」につなげるのは、実行次第である。
さて、大阪維新の会は、吉村ブームにあやかって、コロナ禍の渦中にありながら11月の住民投票実施を画策しているようだ。住民投票が決まれば、再び機運も高まり、本書の追い風になるだろう。一方、住民投票のできる状況に戻らなければ、このままフェイドアウトしていくだろう。本書には不利になるが、それで住民投票が流れるのなら、著者の大石さんともども都構想に反対する立場としては、大歓迎である。