絵本のイメージを刷新したい
そもそも「絵本」とは何でしょう?
皆さんは「絵本」と聞いたらどんなものを思い浮かべますか?
『ももたろう』といった昔話絵本でしょうか?『ぐりとぐら』といった創作絵本でしょうか?
いまだに絵本を「幼い子どもが一時楽しむためのツールでしょ」とまるで駄菓子と同じようなイメージしか持っていない人も少なくありません。
私たちはなんとなく、絵が表紙から本文までふんだんに入っていて大きめで薄くて内容が子供向けの本を「絵本」と言いがちですが、厳密に「絵本とは」と聞かれると意外とその定義は難しいものです。
マンガでもなく詩画集でもなくイラストエッセイでもない「絵本」の定義です。
私はクレヨンハウス時代から35年、絵本業界に身を置いてきましたが「絵本の世界ってこんなものなのだろうか?」という思いをうっすらと持ち続けていました。ですから2003年に東京ブックサポートという会社を立ち上げてからは、絵本に関する様々な方の講演を聞いて回るようになりました。
そしてJPIC読書アドバイザー養成講座を2005年に終了してからは、色々な方がされている絵本の読み聞かせも拝見して回るようになりました。ところがどなたの読み聞かせも僕の気持ちにしっくりこなくて「これでは子どもがかわいそうだ。いや絵本そのものがかわいそうだ」とまで思うようになっていきました。そして「これだったら僕が読み聞かせした方がもっと絵本の魅力を伝えられる」と思ってしまった私は2006年から絵本の読み聞かせを始めたのでした。
絵本の読み聞かせを始めるにあたって決めた事が3点あります。それは
1、 自分が面白いと思った絵本だけを読む
2、 書店や商業施設などのオープンなスペースで読む
3、 手遊びをしない、楽器を使わない
の3点です。
私が絵本の読み聞かせをする理由は、自分が気に入った絵本を他の人に紹介したいという思いによるものですから、自分が面白いと思わない絵本は読みません。また強制的に聞かされる読み聞かせは苦痛ですから、読む場所は基本的にオープンスペース。また、読み聞かせし終えて一番印象に残って欲しいのは絵本たちですから、手遊びしたり楽器を使ったりもしません。面白そうだと思ったら立ち寄ってもらい、つまらなかったら立ち去ってもらって構わないスタイルですから、気分はデパートなどで台所用品の実演販売している人と同じ、毎回が勝負です。
私が絵本の読み聞かせに連れて行く絵本たちは皆自分の気に入った絵本なのですが、読み聞かせしていると子ども達が前のめりになる絵本とダレてきてしまう絵本とがあることに、段々気が付き始めました。
その差は何なのかがずっと気になっていた私は、詩人の内田麟太郎さんのエッセイ『絵本があってよかったな』(架空社)の中の一文を読んだ時、目から大きなウロコが一つ落ちました。
それは絵本作家の大御所、長新太さんが内田さんに絵本のレクチャーをしている場面です。
要約すると、私たちが「絵本」と呼んでいるものの中には「絵本」と「絵童話」が混在している、「絵童話」とは宮沢賢治の作品に絵をつけたようなものを指す、と長新太さんは言われるのです。
例えば、宮沢賢治の作品は、推敲に推敲を重ねた文章なので読めば充分に情景が目に浮かぶように書かれており、そこに絵を加えてしまうと情報過多になってしまう、というわけです。それで言うなら、口承文学であるところの昔話も、目をつぶって聞いていても充分に情景が目に浮かぶわけですから「昔話絵本も絵童話にあたる」と思い至りました。
絵本の読み聞かせは、読み手が絵本を開いた瞬間に聞き手は絵から多くの情報を得られるのに、わざわざ文で長々と説明されてしまうと聞き手はダレるのです。絵本の読み聞かせで、子ども達が前のめりになる作品とそうでない作品の違いはそこにあったのです。
そこに気が付いた私は、読み聞かせによく連れて行くお気に入りの絵本たちから、絵童話と思われるものを除外することで、私が読み聞かせに連れて行く絵本たちが決定しました。
毎月2つの書店で読み聞かせをしていた私ですが、自分が気に入る絵本になかなか出会えないために、読み聞かせのレパートリーが増えないという悩みが出てきました。
これは新しい才能を持った絵本作家がなかなか誕生しないからに違いない、と思った私は2015年から『新人絵本オーディション』という企画を始め、これは今年でもう4回目になります。
しかしその結果は期待通りには行かず、応募された絵本のほとんどが絵本ではなく「絵本もどき」のものばかりだったのです。
全国に絵本講座が多数あるのにこの結果は何なのだろうと疑問に持ち、自分なりにかなりのリサーチをしました。その結果これはもう自分がやるしかないと思った私は2016年に「えほんみち絵本講座」という6ヶ月12回の講座をスタートさせました。
東京ブックサポートは書店営業代行の会社で、集文社からはペーパークラフト商品を書店にセールスする仕事を承っていました。ある日、その創業者の古関社長が急に「誰かにこの会社を譲りたい」とおっしゃるではありませんか。私は一晩考えて古関社長に「私が譲り受けたいです」と申し出ました。そして2014年4月に名実共に集文社の代表になりました。
「えほんみち絵本講座」は現在第5回目を数えます。この講座の修了生と集文社との共同出版が始まっています。第1弾がさいとうあかりさんの『おちたらワニにたべられる!』
で2017年12月に発売されました。
その後も3名の方が出版に向けて鋭意製作中です。
私は「絵本作家」とは文も絵も一人で書いた人のことを指すと思っています。ですから絵本の絵を担当した人は絵本画家、絵本の文章を担当した人は絵本の文章作家とでも言わなければいけません。ところが、作/絵 という表記の絵本があるため絵本作家と文章作家の事を混同してしまう人が出てきてしまいます。
先日、角野栄子さんが国際アンデルセン賞の作家賞を受賞されました。国際アンデルセン賞には作家賞のほかに画家賞というのがあります。しかし五味太郎さんのような絵本作家はどちらの部門に推薦すれば良いのでしょうか?
私たちは一つの文章に感動する事があります。一枚の絵に感動する事があります。その文章と絵が集まったものがなぜ「子ども向け」のレッテルを貼られえているのでしょうか?
世界中の絵本関係者が絵本を勘違いしたままのような気がします。
絵本の可能性はまだまだこれからのような気がしてなりません。