版元日誌 7月28日~9月16日
7月28日(日)
前日から栃木県小山市に滞在し、川べりの店で鮎を食べたり淡水魚専門の水族館を見に行ったり。この日は朝から、関東有数の規模として知られる花火大会の設営をお手伝い。
打ち上げ花火の重い筒を設計図通りに並べて配線を施したり、櫓に登って仕掛け花火を結びつけたり。同道した早川書房のYさん、KADOKAWAのAさんとOさん、くまざわ書店のIさんは昨年に続いて2回目の参加だったそうですが、私は今回が初めて。なかなかできない貴重な体験でした。お誘いくださった、元書店員にしてライター、イラストレーター、カメラマン、そして版元ドットコム事務局のすずきたけしさん、ありがとうございました。
7月31日(水)
ジュンク堂書店池袋本店さんへ。当初の予定を1か月近くも延長してくださった、作品社創業45周年フェアも本日が最終日。また、『泉鏡花きのこ文学集成』のイベント(編者の飯沢耕太郎さんと四方田犬彦さん)の日でもありました。トークも打ち上げも盛り上がり、お二方にもご満足していただけた様子。なお、写真評論家できのこ文学研究科の飯沢さんは、コラージュやドローイングを主体とした作品を制作するアーティストでもあり、『泉鏡花きのこ文学集成』の装幀にも飯沢さんの手になる作品を使わせていただきました。サインも素敵です。
作品社創業45周年フェア
飯沢耕太郎氏(左)と四方田犬彦氏。飯沢さんのサイン
8月1日(木)
有斐閣にて、同社のE氏、中央経済社ホールディングスのY氏、ベレ出版のU氏、そしてポット出版/版元ドットコムの沢辺氏と、今後の出版流通に関する雑談。その後、E氏のご案内で近所の蕎麦屋で一献。スクーターでやってきて、お酒は飲まず(下戸なのだそうです)、スクーターで帰っていった沢辺さんの姿が印象的でした。
8月7日(水)
猛暑の中、国立国会図書館へ。普段は関係者以外入ることのできないバックヤードを見学させていただく。新館の書庫の最下層は地下8階。核シェルターになっているだとか、非常時には国会議員が避難することになっているだとかいう都市伝説を聞いていたが、実際に目にする日がくるとは。くだんの都市伝説をご案内くださった職員の方にお伝えしてみたものの、一笑に付されました。
地下8階まである、国立国会図書館新館のエレベーター
8月8日(木)
陽が落ちてから大垣書店麻布台ヒルズ店へ。飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』刊行記念フェアを開催中。この日は、閉店後の店内でつまみを持ち寄りお酒を飲もう、という趣向の会。業界関係のある方からいただき、4日の日曜日にほぼ一日がかりでつくったハックルベリーのジャムを持っていきました。概ね好評。また、偶然にも赤井店長の誕生日で、参加者一同でバースデーケーキをお贈りいたしました。
飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』刊行記念フェアの様子
自宅に送られてきた4kgのハックルベリー
8月9日(金)
編集を担当した、リュト・ジルベルマン/塩塚秀一郎訳『パリ十区サン=モール通り二〇九番地 ある集合住宅の自伝』取次搬入日。
ナチス占領下のパリに生きた市井の人々。
東欧からのユダヤ系移民たちや貧しい人々が数多く住むパリの集合住宅は、ナチス占領下の困難な時代をいかに乗り越えたのか。ヴィシー政権下の1940年代前半を中心に、1840年代に遡る建物の完成から21世紀の現在に至るまで、この集合住宅に生まれ、暮らし、消えていった名もなき無数の人々の物語を丹念に紡ぎだす、唯一無二の歴史ドキュメンタリー。
というのが本書の帯文。著者自身が東欧からの移民の子孫で、強い思い入れを持ってこの本を書いており(ドキュメンタリー映画監督でもあるこの著者には、『パリ十区、サン=モール通り二〇九番地の子供たち』という映画作品もあったりします)、現在この集合住宅に住む人々、かつて住んでいた人々にどのように接近し、関係を築いていったかまでがかなり詳細に書かれていて、読みどころのひとつになっています。
『パリ十区サン=モール通り二〇九番地』
8月10日(土)
出社して雑務もろもろ。夕方、東神田のKKAGで行なわれている「なぎら健壱写真展 酒場の情景」。最終日の終了30分前に駆け込み。カメラを向けられた酔っ払いたちが皆とてもいい笑顔を見せているのが印象的。なぎらさんによると、過半は知らない人だとのことですが。会場で販売していた写真集を買ったら、サインしてくださいました。じつは10年以上前に著作の編集を担当したこともあるのですが、サインをもらったのは初めて。
写真展の会場入り口と、なぎらさんのサイン
8月某日
来年の大河ドラマ「べらぼう 蔦重栄華乃夢噺」の主人公・蔦屋重三郎はいわば我々の大先輩。今年の年末にアンソロジー『小説集 蔦屋重三郎の時代』の刊行を予定しており、その作品選定と入稿指定作業を終日。吉川英治、邦枝完二、国枝史郎、永井荷風の作品を収録するつもりです。
吉川英治『大岡越前』(同志社、1950年)と邦枝完二『江戸名人伝』(大都書房、1937年)
8月某日(土)
朝から築地に買い物へ。朝食は鶏肉専門店・鳥藤のラーメン屋さんで冷やしとりそば。帰宅して以後はずっとゲラ読み。夕食は買ってきた材料を使い、鯛、赤貝、漬けまぐろを握る。
朝食のラーメンと夕食の寿司
8月某日
2月に刊行した、奈良敏行著/三砂慶明編『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』が刷を重ねており、その続編として同著者/編者で『本屋のパンセ(仮)』を企画。定有堂書店発行のミニコミ「音信不通」に連載されている奈良氏の文章をまとめるもの。三砂さんから原稿が送られてきて、入稿作業。
奈良敏行著/三砂慶明編『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』現在3刷
8月某日
今年から始めたヤングアダルト小説の新しいシリーズ「金原瑞人選モダン・クラシックYA」の第3弾、『メイジー・チェンのラストチャンス』の校正が、元白水社の平田氏から送られてきて、確認後訳者の代田亜香子さんに送付。
「金原瑞人選モダン・クラシックYA」シリーズ第1弾『キングと兄ちゃんのトンボ』、第2弾『夜の日記』
8月某日
とうこう・あいのSさんとTさんが来社。広告を出稿した「中日新聞」「東京新聞」を持ってきてくださいました。暑い中ご苦労様です。同社のWEB書籍受発注システムBOOKCELLARの運用についてなど、しばし雑談。
8月某日
BOOKSHOP TRAVELLER店主の和氣正幸さんからメール。6月の版元ドットコムの総会で初めてお会いし、7月にお店にお伺いして、その後やりとりを重ね、11月下旬から作品社の創業45周年フェアを行なってくださることになりました。〈独立書店を応援する本屋ライター〉としての和氣さんの活動にも注目しています。
BOOKSHOP TRAVELLERさんを訪問した際に購入した本2冊。左は和氣さんの著作
8月16日(金)
ディスカバー・トゥエンティワンのSさん、Nさんとオンライン会議。7月から運用を開始した、ネット書店への広告出稿についての月例報告会議の2回目。台風直撃の中、出社しているのかと思ってお尋ねしたところ、おふたりとも在宅勤務とのことでした。まあ、そりゃあそうですよね。ちなみに私は会社にいました。
8月某日
吉田広明『映画監督 ドン・シーゲル ノワールを遠く離れて』の校正作業。吉田さんとは、『B級ノワール論 ハリウッド転換期の巨匠たち』(2008)、『亡命者たちのハリウッド 歴史と映画史の結節点』(2012)、『西部劇論 その誕生から終焉まで』(2018)、『映画監督 三隅研次 密やかな革新』(2021)に続く、5冊目の単著のお仕事。
8月21日(水)
午前中、月例の役員会。弊社は8月が決算のため、期内の役員会はこれが最後。1979年1月創立の弊社は9月から第47期に入ります。出版に関連する事業がどこも苦境を迎えている現今の状況の中で、なんとかかんとか続けられていることを関係各位、及び読者の皆様に深く感謝する次第です。
8月29日(木)
「羽鳥書店/破産手続き開始決定」というネットニュースに遭遇。ちょっと変だなと思ったので、すぐに元羽鳥書店社員であるところの版元ドットコム・糸日谷氏を介して確認していただいたところ、やはり破産手続きを開始したのは事業を譲渡する前の旧羽鳥書店で、今年4月から出版社・羽鳥書店を運営しているほうの羽鳥書店ではないことが判明(ややこしい)。同社のウェブサイトに告知が出されたので、弊社のSNSでも拡散しておきました。破産手続きを行なう前に社名を変更しておけばよかったのでは、と後に考えた次第。
8月31日(土)
台風の直撃は何とか避けられた様子なので、予定通り朝から新幹線で越後湯沢へ。長年の懸案だった、ミティラー美術館を初訪問。新潟県十日町市の山の中の廃校を利用した施設です。新潟県中越地震の被害や施設の老朽化などもあり、作品の保全にはけっこうご苦労されている様子でした。
ミティラー美術館の外観と収蔵作品のひとつ
9月1日(日)
引きつづき新潟。たいへん有名な火焔型土器をお持ちの十日町市博物館へ。国宝だらけ。
この土器を見ながら同行者がぽそっと「ソフトクリーム食べたいな」とつぶやいたとか、つぶやかなかったとか
9月2日(月)
まだ新潟。十日町市竹所へ。ドイツ人の建築家カール・ベンクスさんの手になる古民家の集落を訪問。
またこの二泊三日の間、周囲一帯で開催されている「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ2024」の展示作品をあれこれと見て回っておりました。
草間彌生「花咲ける妻有」
9月5日(木)
表参道、ギャルリーワッツに1週間限定で出現した「eavam書店withラボラトリエ」へ。その後、青山ブックセンターに行き『わからないままの民藝』刊行記念トークイベントの登壇者である著者の朝倉圭一氏と星野概念氏にご挨拶。鞍田崇氏に『民藝のみかた』の解説のゲラを渡し、7時のイベント開始と同時に辞去して、新建築書店へ。「葉祥栄再訪 東京展」。デジタルデザインの取り組みについて近年再評価が進んでいる建築家の、2022年にオーストラリア・デザインセンターで、今年3月に福岡で開催された展覧会が東京に巡回。九州大学葉祥栄アーカイブが所蔵する模型・図面・写真などが展示されています。新建築書店は(たぶん)3回目の訪問ですが、建築やアートに特化した書籍/雑誌の品ぞろえも見事でかなり楽しめるお店です。葉祥栄さんにお目にかかったことはありませんが、実弟である絵本作家の葉祥明さんとは、復刊も含めると10冊以上の本を一緒に作らせていただきました(今回の展覧会の開催も、葉祥明さんの関係筋から知りました)。
「葉祥栄再訪 東京展」
9月10日(火)
夜、神保町の交差点で書泉の手林社長、及び書泉兼版元ドットコムの鎌垣さんとすれ違う。神保町ブックハウスに飲みに行くところと見た。
9月11日(水)
作品社の創業45周年フェアを開催してくださっている、くまざわ書店武蔵小金井北口店さんへご挨拶に。10月末ごろまで開催していただけるとのこと。深謝。
作品社創業45周年フェア、於くまざわ書店武蔵小金井北口店
9月12日(木)
書泉グランデさんに、友利昴『江戸・明治のロゴ図鑑』』40冊を直納。取次搬入日の20日に同店で刊行記念トークイベントを開催するため。イベントの告知はこちらをご覧ください!
https://www.shosen.co.jp/event/24156/
9月某日
10月刊行の、ジェスミン・ウォード、石川由美子訳、青木耕平附録解説『降りていこう』の帯文を作成。編集者になってからの四半世紀弱の間に、編集を担当した約300冊の本の帯文作ってきたはずなのですが、いつまで経っても馴れません。苦吟の末、結局こんな感じになりました。↓
〈あんたの武器はあんた自身〉母さんは言った。あたしの武器はあたしだ。
奴隷の境遇に生まれた少女は、祖母から、そして母から伝えられた知識と勇気を胸に、自由を目指す――。40歳の若さで全米図書賞を二度受賞した、アメリカ現代文学最重要の作家が新境地を開く、二度目の受賞後初の長篇小説!
9月某日
やはり10月刊行の、ヒューゴー・ムンスターバーグ、柳宗悦序文、田栗美奈子訳『民藝のみかた』の帯文を作成。こちらはこんな感じです。↓
日本に四年滞在した
東洋美術史の碩学が、
〈民藝〉のすべてを
工芸分野ごとに詳説。
民藝の精神から説き起こし、陶器、籠、漆器、玩具、織物、
絵画、農家の建物、そして1950年代の民藝運動に至るまで。
日本の民藝の歴史を知るための最良の一冊。図版100点超。
附:鞍田崇「解説 いまなぜ民藝か」
9月16日(月・祝)
版元ドットコムの寺門さんからご依頼を受けた「版元日誌」の執筆。ほんとうは13日(金)が〆切でした。その後3連休だったので許してください。